堅実に演じる田中圭と深みを与える大島優子
この気鋭の4人による“ヒロイン・カルテット”に単身挑むのが、主演の田中圭です。演じる東山という人物は、自分が殺される状況に興奮を覚える“オートアサシノフィリア”という精神疾患を抱えるキャラクター。表と裏の2つの顔を持つ人物ですが、“裏の顔”は彼にとってごく自然なものであり、精神を支えるもの。田中は安易で分かりやすい怪演などに走らず、これを極めて堅実に演じています。
むしろ、善人の表情を浮かべる“表の顔”の方があからさまで、この差によって東山の異常性や複雑さを巧みに表現しているように思います。また、東山の元恋人であり、彼が勤める高校にスクールカウンセラーとして赴任してくる女性の役を大島優子(33歳)が演じており、彼女の存在がより本作に深みを与えています。
精神疾患に至った背景に隠れたメッセージ
自分が殺される状況に興奮を覚える“オートアサシノフィリア”。この精神疾患を抱える主人公が、自分が女子高生に殺される状況を妄想して興奮するというのは、たしかに変わっています。しかし先述したように彼にとっては普通のことで、生きる上で重要な、切実な問題です。病的なフェティシズムではあるものの、一線を超えてしまわないかぎり、断罪されるべきではないでしょう。彼はその一線を超えてしまうのですが……。
本作では、なぜ彼がこのようになってしまったのかを仄めかす瞬間も描かれています。もちろん、真相は分かりません。ただ、精神的な病の多くには、例えばトラウマであったり、それが生じるに至った原因が存在するものです。エンターテインメント性の高い作品ではありますが、この事実を本作は内包しています。あなたはそこから何を読み取るでしょうか。誰もが目を背けたり、見落としてしまう問題が描かれているように思います。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk