
3年ぶりとなる「外出自粛要請なし」のゴールデンウィーク(GW)が終わろうとしています。今年は間に1日ずつ平日が挟まることもあり、遠方への旅行をあきらめた人も多いのではないでしょうか。久しぶりの旅行を満喫した人もできなかった人も、心配はご無用。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんがアテンドする「歌で楽しむ妄想海外旅行」が始まります。
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今年のGWは皆さま、どう過ごされたでしょう。最長で10連休。長い……!
存分に楽しみ余韻に浸っている方。仕事びっしりだった方、不安要素が多いご時世ゆえ旅行を断念した方。すべての方に、ひとつご提案!
「ちっ、休みが終わっちゃうよ」というユウウツ気分を吹き飛ばすため、「懐かしの歌謡曲で妄想海外ツアー」に出てみませんか。
数々のアーティストが、様々な国の風景を情緒豊かに歌ってくれている。これに乗らない手はない。そう。素晴らしい歌声は「無形飛行機」なのだ!
ということで、いざ心の翼の用意を。集合場所は、中森明菜さんの『北ウイング』で! 北ウイングは成田国際空港第1ターミナルの北部分の呼び名。ちなみに、この歌が発売された1984年、成田国際空港はまだ「新東京国際空港」という呼称だったそうだ。
『北ウイング』が名曲なのはもちろん、中森明菜さんは今年デビュー40周年。最高にドラマチックな旅立ちができそうではないか!

しかし妄想とはいえ海外旅行は緊張する。愛はミステリーだが、旅も本当にミステリーだ。方向音痴の私は、スマホに表示したマップの進行方向がわからず、その場でグルグル回り気分が悪くなることもしょっちゅうである。そのため今、妄想旅行なのに「迷わないだろうか」と緊張している!
「実は自分も旅の前は腹が痛くなる、熱が出る」という方、了解。旅立つ前に1979年に大ヒットした能勢慶子さん『アテンション・プリーズ』を共に聴きましょう! 彼女のあどけない歌声が心を癒してくれる。
アテンション・プリーイーイーイーズ……。肩の力を抜いて、いざ離陸!

空旅にハマるサーカスの『アメリカン・フィーリング』
飛行機に乗る高揚感と爽快感、新たな地への希望。それを全て余すところなくイメージできる歌といえば、やはりサーカスの『アメリカン・フィーリング』(1979年)だろう。「アメリカ」とあるが、アメリカ以外のあらゆる類の空旅にバシッとハマる。とにかく気分が良くなるので酔い止めとしても効果大だ。そのくらいサーカスのコーラスと、飛行機の窓から見える空との相性は抜群である。
また、航空会社は限定されるが、1991年にJALのイメージソングとしてヒットしたKATSUMIさんの『It’s my JAL』はテンションが上がる。吹くのはバブルの風! 艶やかな歌声は聴いているだけで、エグゼクティブシートでシャンパンを飲みながら旅行をしている気分になれる。

歌謡曲での海外人気スポットは「砂漠」
長いフライトお疲れ様でした。リアルの海外旅行ならフランス、イギリスなどヨーロッパが人気なのかもしれない。
しかし歌謡曲の人気スポットは俄然「砂漠」である。特に、恋に破れたり、迷いを抱えているヒロインは、砂嵐に身を任せたくなるようである。
久保田早紀さんの乾いた美声に、シルクロードの映像がサブリミナル効果で仕込まれている気さえする超名曲『異邦人』。サハラ砂漠の大きな夕日が見え泣きそうになる、中森明菜さんの『SAND BEIGE〜砂漠へ』。光る砂漠が登場する庄野真代さんの『飛んでイスタンブール』。イスタンブールに砂漠はないが、エキゾチックな歌詞とメロディを口ずさんでいるうちに「私の心のイスタンブールには、光る砂漠あり!」と深く頷いてしまう。
インターネットも通っておらず、飛行機のフライト本数も少なく、なにより価格が高かった昭和の時代。ネットの一般普及は1995年、海外のLCC(格安航空会社)が日本で国際線を運行し始めたのは2007年だ。私も調べてびっくりしたが、どちらもほんの少し前、平成の出来事じゃないか! それまで世界は本当に広く遠かった。そんな時代に、歌の職人たちが想像力の翼を広げ、作り出した楽曲はもう一つの宝の地図。楽曲の数だけパラレルワールドがある。なんとロマンチックなことなのだろう。
国内で異国情緒を楽しむなら『チャイナタウン』
「できれば昭和の楽曲で、ガチで海外に行った気分になりたい」。そんな人には、グローバル歌謡のパイオニア、ゴダイゴの名曲の数々をおすすめしたい。特にドラマ『西遊記』のエンディング曲として流れていた『ガンダーラ』は、国だけではなく時間まで超えて天竺が見える素晴らしさ。エアガンジス河沐浴までできそうな勢いだ。

逆に妄想でも遠出は苦手、でも異国情緒は味わいたいというワガママさんもいるだろう。ならば昭和歌謡で大人気のスポット、チャイナタウンが良き! 矢沢永吉さんの『チャイナタウン』や泰葉さんの『フライディ・チャイナタウン』など、異国情緒だけでなく、イイ女、イイ男気分に浸ることができる。
さて、ツアーも終わりだが、すぐに帰らずホッと一息しませんか。そんな気持ちでご用意した曲が橋幸夫さん『恋のメキシカンロック』である。「セニョリータ(女性)」「マタドール(闘牛士)」「マニャーナ(明日)」など、歌詞とリズムに散りばめられたメキシコ・フレイバーが最高にキャッチー&ポップ! 本場メキシコというより、浴衣で大広間に集まり、温泉旅館のイベント「メキシコ祭り」を楽しんでいるような、とてもおおらかな気分になれる1曲である。さあ踊って歌って祭りのあとの寂しさを吹き飛ばし、明日へGO・GO!
超早足で巡った妄想海外旅行、お疲れ様でした。
歌があれば、その気になれば地球の裏側だってすぐ行けるし、なんなら宇宙までだって可能だ。そしていつだってフライト可能だ。
今度はぜひ妄想汽車&電車の旅もご一緒に。往復切符はもうその手に!
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka