NHK連続テレビ小説『チョッちゃん』(1997年)のヒロインをはじめ、多くの映画、舞台などで活躍している女優・古村比呂さん(56歳)。がん発覚から丸10年の区切りを迎えた今年、闘病や3人の息子たちとの日々をユーモラスにつづる『手放す瞬間 子宮頸がん、リンパ浮腫と共に歩んだ私の10年』(KADOKAWA)を上梓しました。がんサバイバーとしての思いをうかがいました。
がんを公表することへの葛藤
がんを患っていることを周囲に明かすかどうかの判断は人それぞれ。それによって、人間関係や仕事に影響を及ぼす可能性があるからだ。古村さんも悩んだ結果、子宮頸がんの発症時、そしてその5年後の再発時にブログで公表した。
「再発のときには治療を終えて4か月後に、抗がん剤治療と放射線治療をしていたことを発表しました。お仕事の関係者には迷惑をかけたくないので、タイミングは慎重にはかりました。それまではごく近しい人にしか知らせていなかったので、“隠す”“嘘をつく”行為によって自分も苦しくなり、母親は私ががんであるということを誰にも相談できずうつ症状が出てしまいました」(古村さん・以下同)
1人で抱え込まないことが大切
ブログをアップしてからは母親のうつ症状が改善した。古村さんには励ましのメッセージも届くようになり、公表に踏み切った判断は、自分たちには合っていたと考えている。
「がんは1人では抱え込まないことが大切だと思います。私も再発を隠していた際、気力が出ないなか仕事をしていた時に、しんどいな、と思うことがありました。つらいときにはつらいと吐き出せると気持ちが浮上してきます。ただ、10年前と今とでは“風”が変わった気もします。以前はがんは特別な病気で、治ってからでないと公にできない空気がありました。でも今は“治る病気”になったことで、公表しやすくなったのだと感じています」
がん治療と仕事を両立できる社会に
しかし、予想していたとおりがんを公表したことで仕事への影響は少なくなかった。
「私は今、体調が落ち着いているので仕事ができる状態です。けれど“がんは完治したのですか?”と聞かれると、“治っているわけではないのですが…”と濁すしかありません。お芝居などは特に長い期間携わったりするので、経過観察中ですと使う側も慎重になってしまうようです。そういった反応はとても寂しい。
がん治療が糖尿病の人工透析のようなイメージになればいいなと考えています。こうした病気の患者さんは定期的に通院する必要はありますが、他の人たちと同じように生活し、仕事を続けている人がたくさんいます。がんになっても当たり前に働ける世の中になってほしい。
医療従事者のかたからは、古村さんはどんどん働いてください、それが同じ病気のかたの励みになるんです、とよく言われます。医療現場と社会で温度差があるんですね。がんの経験がないかたは、治るまで治療に専念するのが一番いいと思っているのかもしれない。だから仕事をしても大丈夫だという姿を、私が見せていけたらいいなと思います」
がんに関する誤解をなくしたい
生涯に2人に1人は罹患するという、がん。珍しくはないこの病気も、まだまだ誤解が多いと古村さんは感じている。
「がんはうつる、と考える人は少なくありません。実際、エステをしていた友人が子宮頸がんになり、風評被害で廃業に追い込まれました。そういう誤解は解きたいので、YouTubeなどでがんやリンパ浮腫についての情報を、専門家の先生と一緒に配信しています」