
雨の日や季節の変わり目に体調を崩しやすいなど、天気の影響による不調を訴える人は全国に1000万人以上いると言われています。佐藤純さんは『1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)を上梓するなど、30年以上気象と痛み、自律神経との関係を研究してきた医師です。1年の中でも天気が不安定でとくに不調を訴える人が多いという梅雨シーズンについて、湿度が関係している症状や対策を教えてもらいました。
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天気の変化に伴う不調「気象病」
これまでに私が診察してきた原因不明の慢性痛を抱える患者さんは1万人以上にのぼります。そして、長年、自律神経と痛みの関係性について研究を続けるなかで、患者の症状と天気の関係に注目し、天気の変化が体や心に大きな影響を与えていることを突き止めました。
天気の変化によって起こる症状は、頭痛、めまい、首こり、腰痛、関節痛、むくみ、耳鳴り、だるさ、気分の落ち込みなどさまざま。こういった病態を総称して「気象病」と呼んでいます。私は、その中で痛みを伴う症状のことを「天気痛」と名付けました。
湿度と体調の関係
気象病は「気圧タイプ」「気温タイプ」「湿度タイプ」の3つに分けられ、どれか1つではなく併発する場合もあります。

梅雨の時季は雨によって、湿度が高くなるだけでなく、気圧の変動も大きいため、天気痛が起こったり、気分も憂鬱になったり、気象病の人にとって鬼門といえるシーズンでしょう。
とくに湿気に弱く、湿度の変化に影響を受けやすいタイプの場合、下記の特徴をお持ちではないかと思います。
・むくみが出やすい
・むしむししたのが嫌い、湿度が嫌い
・汗をかきにくい
・寝汗をかきやすい
梅雨になると体調が悪くなりやすく、湿度が低いときより高いときに症状が出やすくなります。
湿度の影響を受けやすい関節リウマチ
なかでも、湿度の影響を受けやすいのが関節リウマチです。関節リウマチは発症すると手足や指に痛み、腫れ、こわばりなどが生じる、膠原病の一種。免疫機能の誤作動によって自分自身の細胞や組織を攻撃してしまう、自己免疫疾患の1つとしても知られています。これは、免疫に異常が生じ、細胞や組織が攻撃されることで、炎症が起こり、関節の腫れや痛みとなって現れてくるというメカニズムによるもの。その炎症が悪化すると、骨や軟骨を破壊するまでにいたります。

はっきりとした原因がまだわからない病気ですが、2014年に京都大学の研究グループが、湿度が高いほど悪化するという相関関係を証明しました。
関節リウマチを患っている人は、梅雨の時季や雨の日には薬を飲むなどして湿度の上昇に備えたり、湿気の多い場所にはなるべく行かない、除湿器を活用するなど、対策を心がけましょう。
梅雨の体調不良の原因は汗
東洋医学では、体調不良を引き起こす湿気のことを「湿邪(しつじゃ)」と呼びます。これが体内に取り込まれて、水毒となって溜まることが不調の原因と考えられているのです。
汗をかくことで不調を改善
頭痛や関節痛といった痛みの症状のほか、食欲不振や消化不良、便秘、体のむくみ、めまい、喘息の悪化から、うつにつながるような精神的な不調まで、湿度の影響で現れる症状は枚挙にいとまがありません。
そんな不調を改善するには、体の中に溜まっている水毒を出すべく、たくさん汗をかくのがもっとも推奨できる方法です。

湿度が高い時期は汗をかきづらい
梅雨の時期は高い湿度に加え、温度が低めで乾燥しづらいという特徴があります。つまり、皮膚の水分が蒸発しづらい気象条件ということ。梅雨に限らず、湿度の高さに起因した体調不良は、このようなときに起こります。
湿度が高くなると、自然に失われる水分量が少なくなって体に水が溜まりやすくなるので、湿度が苦手な人は汗をかきやすくなるように体を調節すればいいのです。
2週間で汗をかける体を作る
湿度に負けないためには汗をかくことが効果的なので、日頃から基礎代謝をあげるトレーニングをして、汗をかきやすい体を維持できるのが理想的ですが、毎日汗だくになるまでストイックに運動するのはしんどいもの。
でも実は、梅雨時期の湿度対策ならば、2週間あれば十分なんです。その期間だけでも体を動かすことができれば、梅雨のだるさや湿度による夏バテを乗り切れる体を作ることができます。

汗をかける体づくりは梅雨前に
汗が蒸発する時の気化熱を利用して体の中にある熱を放出する、すなわち体温を下げる機能が発汗です。空気中の湿度が高ければ高いほど水分は蒸発しにくくなるので、梅雨入り前に汗をかける体を完成させるのがポイントです。
簡単に汗をかける体を作る方法
体作りの方法はいろいろありますが、ジョギングの場合は1日15~20分を2週間続けましょう。

運動するのが大変であれば、ぬるめのお風呂に15~20分浸かってじんわり体を温めてもいいですし、サウナやホットヨガであれば刺激が強い分、何回か行くだけですぐに汗をかける体になるでしょう。
一度汗をかける体になれば、毎日やる必要はありません。冬に機能が低下した汗腺を起こし、順応するために最低でも2週間かかるということです。
私は汗をかける体にすることを“冬モードから夏モードに切り替える”と称していますが、スイッチを切り替える作業は自律神経の仕事です。汗をがくことは気象病の原因でもある自律神経の乱れを整えることにつながるので、生活の質をあげるためにも少しの運動を心がけることをおすすめします。
◆教えてくれたのは:天気痛ドクター・医学博士・佐藤純さん

日本慢性疼学会認定専門医。中部大学生命健康科学研究科教授。愛知医科大学客員教授。1983年に東海大学医学部を卒業後、名古屋大学大学院での研究、米ノースカロライナ大学での留学や名古屋大学教授を経て、2005年より愛知医科大学病院・いたみセンターで日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。30年以上にわたり、気象と痛み、自律神経との関係を研究。2020年にウェザーニューズと共同開発したアプリ「天気痛予報」をリリース。メディア出演も多数。著書に『1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)など。
https://www.tenkitsu-dr.com/doctor/