春ドラマが続々と最終回を迎えるなか、1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんは、『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(日本テレビ系)と『やんごとなき一族』(フジテレビ系)のオープニング・ナレーションが印象的だったといいます。昭和の昔から、ドラマを盛り上げる要素として欠かせないナレーション。田中さんが過去40年の作品から「ナレーション萌え」した作品を振り返ります。
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6月末はセンチメンタル・シーズンである。春クールドラマ終了の寂しさと向き合わねばならない。今期のお気に入りは『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』、『やんごとなき一族』、『先生のおとりよせ』、そして有終の美を迎えた『警視庁・捜査一課長season6』!
共通しているのは「型がある」ということだ。生まれも育ちも関西、定番のギャグが披露される吉本新喜劇を見て育ったせいなのだろうか。ドラマでもお決まりのセリフやオープニング・ナレーションがあるものが大好きである。
『悪女(わる)』ではオープニングを島本須美さんが担当していた。格調高い穏やかな響き、さすがナウシカの声である! 『やんごとなき一族』は花江夏樹さんが担当。お金があり過ぎる深山家のヘンテコな状況が『鬼滅の刃』の炭治郎によって語られるという興奮……。ああ、ナレーション最高!
ナレーション萌えのきっかけは『ザ・ハングマン』
私のナレーション好きは幼少の頃からである。きっかけになったのは『ザ・ハングマン 燃える事件簿』(1980年)という闇の仕置き人ドラマだ。次のような口上から始まる。
「ザ・ハングマン。法の追及を巧みにかわす悪党たちに、怒りの制裁を加え、社会的に死に至らしめる死刑執行人である。顔を変え、指紋を消し、戸籍を抹消した人間たち。命の代償は、莫大な収入と限りない孤独だけである……ザ・ハングマン!」
これを読んでいる声が素晴らしくニヒル! 戸籍を抹消してまで仕置きするという悲惨な設定をよりダークに煽ってくる、お腹に響く声。私は声の主が誰か知らぬまま、当時小学生ながらすっかりハングマンの世界に引っ張りこまれてしまった。
そしてその12年後、映画『紅の豚』で声の主と再会を果たす。「飛ばねぇ豚はただの豚だ……」。主役ポルコ・ロッソの声を担当した森山周一郎さんこそ、その人だったのだ! 知ったときは嬉しくて嬉しくて、私のために豚になり会いに来てくれたと思ったほどだ。とんだジーナ気取りである。
闇の仕置き人といえば「必殺」シリーズもオープニング口上の名作の宝庫ナレーション界のレジェンド、芥川隆行さんによる『必殺仕事人』のオープニングは名作。
「一掛け二掛け三掛けて 仕掛けて殺して日が暮れて 橋の欄干腰おろし 遥か向こうを眺むれば この世はつらいことばかり……(続く)」
このワビサビ言葉の行列が、芥川さんの哲学的ボイスにて鳴り響く風流! 近くに風鈴がないのに「ちりん……」と聞こえてきそうではないか!
東山紀之さん主演の最新バージョン『必殺仕事人』のオープニングは市原悦子さんの声。
「あの世の地獄と この世の地獄 どちらも地獄にかわりなし……(続く)」と薄情な世の中を鼻で笑うような名調子。こちらも心の永久保存版である。