野菜は幸せの証!『あなたにサラダ』のヒロインのその後
煮込み料理と比べ、サラダは恋愛の歌において幸せの象徴だ。〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉という俵万智さんの短歌はキャッチーの極み。好きな人にいいねと言われることがどれだけ嬉しいか、少ない文字の中パンパンに溢れている。どんな隠し味を使ったのか気になるし、「凝った料理ではなく、サラダでキャッキャできる二人最高」と素直に羨ましくなる。歌集『サラダ記念日』は発売から35年も経つが、今もなお多くの共感を集めていることからも、サラダの幸せ指数が見て取れる。
DREAMS COME TRUEの『あなたにサラダ』(1991年)も、作るのは簡単なサラダだけど、彼はおいしいと言って残さず食べてくれるの! とノロケまくりである。
この歌には、2014年のアルバム『ATTACK25』に収録された『あなたにサラダ以外も』という続編ソングがある。主人公はちゃっかり料理の腕を上げていた。つみれを作り、鍋の準備をしている!
オムレツや餃子はまだ上手に焼けないらしいが、それでもサラダ以外の簡単な料理をササッと作り、またまた「彼がシンプルな料理が好みでありがたーい」とノロケていた。ハイハイ、ごちそうさまごちそうさま!
スターダスト☆レビューの『ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス』も、オニオンスライスという正直誰が作っても味はたいして変わらないっぽいメニューが題材。なのになんだろう、この歌から溢れる独特の幸せで切ない複雑な味わいは。ブラックペッパーをかける量にコツがあるのか? いや違う、決め手は愛なのだろう。クーッ! タマネギはサラダの中でも涙と隣り合わせの取扱注意な素材。恋はちょっぴり悲しいこともあるが、それも含め人を好きになる醍醐味だと教えてくれる。
歌詞の通り進めるとコロッケができる!?『お料理行進曲』
思いのほかサラダ論で興奮してしまったが、料理ソングのラストは小さなお子様も大はしゃぎできる『お料理行進曲』(1992年)で締めたい。『キテレツ大百科』というアニメのオープニングで話題となり、歌詞通りに作ればコロッケ(2番はナポリタンスパゲティ)ができるという心浮き立つ仕掛け! 言うなれば「レシピソング」だ。ああ、聴いているとサクサクっと食べたくなる! もちろんキャベツを添えて。
ほらほら、想像するだけで、ジュワジュワと油が跳ねる音と、香ばしい匂いがしてきたはず。暑くて食欲が出ない日も多いと思うが、歌を調味料にお箸を進めてみよう。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka