萩原聖人さん(50歳)、村上淳さん(49歳)、吉岡里帆さん(29歳)らが出演した映画『島守の塔』が7月22日より公開中です。第2次世界大戦末期の沖縄を舞台にした本作は、日本における唯一の地上戦に立ち向かう人々の姿を通して、“平和と人の命の尊さ”を訴えるもの。テーマはもちろんのこと、それを体現する俳優たちの演技が胸を打つ作品に仕上がっています。本作の見どころや役者陣の演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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激戦地・沖縄で懸命に生きる人々の姿を描き出す
本作は、『地雷を踏んだらサヨウナラ』(1999年)や『長州ファイブ』(2006年)、『半次郎』(2010年)などの五十嵐匠監督が、長期の地上戦が決行された激戦地・沖縄で懸命に生きる人々の姿を描き出したものです。
脚本は、『武士の家計簿』(2010年)や『武士の献立』(2013年)の柏田道夫さんが担当。戦争映画なので目を背けたくなるような凄惨なシーンも当然ながら多々ありますが、いまこそ直視しなければならない史実を真っ向から捉えています。
2人の内務官僚が沖縄県民の命を守ろうと奮闘
沖縄本島に上陸したアメリカ軍を迎撃するため、一般の沖縄県民をも巻き込む激しい地上戦へと発展した沖縄戦。やがてこの惨事が起こる沖縄へと本土から派遣された、2人の内務官僚がいたといいます。
1人は、戦中最後の沖縄県知事として沖縄に赴任し、軍の要請を受けて職務をまっとうしようとしながらも、県民の命を守ることこそが使命なのだと決意する島田叡(萩原)。もう1人は、自らの職務を超えて県民の命を守ろうと努める警察部長の荒井退造(村上)です。
1951年に建立された「島守の塔」とは、この2人をはじめ、沖縄県民のために身を挺した戦没者を祀る慰霊塔の名称。熾烈を極めた沖縄戦中、人々は軍部から押しつけられた思想と彼ら2人の願いの間で、翻弄されていくことになるのです。
吉岡里帆と香川京子が1人2役 過去の悲劇を現代へ
物語を牽引するのは、萩原さん演じる島田と村上さん演じる荒井です。戦中ながらも明るく希望を持つことを忘れない島田という人物を萩原さんが快活に演じ、県民の命を守るために過酷な現実に対峙する荒井を村上さんが終始、険しい表情で演じています。戦中の日本において彼らは特別な立場にあり、それぞれが葛藤するさまの細部までもがスクリーンには映し出されます。
そんな過去の悲劇を現代へと伝える本作で、とても重要な役割を果たしているのが吉岡さんと香川京子さん。この2人はともに比嘉凛という人物を演じています。そう、“戦中パートの凛”を吉岡さんが、そして、もはや戦争が忘れ去られそうになっている“現代パートの凛”を香川さんが演じているのです。