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「生きがいなんていらない」薄井シンシアさんがそう語る理由と、社長を務めたホテルの退職そしてこれから

自分が食べていけるだけのお金があればいい…次は働き方を変えるかもしれない

決して居心地が悪くなく、給料が毎月入ってくるのに、なぜ辞めるのかとよく聞かれます。でも、今の私はお金に重きを置いていないので、物事の判断にお金という要素が影響することはないんです。

私はいい家や車が欲しいと思わないし、豪華な食事やハイブランドのファッションにも興味がない。趣味らしい趣味もない。養うべき家族もいない。お金の使い道がないわけです。だから、自分が食べていけるだけのお金があればいい。毎月15万円でいい。このラインなら、何も今の仕事にしがみつかなくても見つかります。だから、辞めるべき理由ができた以上は辞めます。

薄井シンシアさん
辞めるべき理由が見つかったという
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実際、退職を公表してから、いくつかの会社から声をかけてもらっています。フルタイムの雇用が前提で、興味があるならインタビュー(面接)を、という話ですね。ありがたいことではありますが、それに対して、自分が「ぜひ!」というテンションにならないので、どうしたものかなと思っています。

自由になったのに、就職だけはまた古い考え方ですると違和感を覚える

63歳で一人暮らしで仕事を辞めた私は今、すごく自由です。例えば今日これから、バッグ1つ持って電車やバスを乗り継いで遠出してもいい。自宅にしばらく帰らずに他のところに寝泊まりしてもいい。これから羽田空港へ行ってフランスへ飛んでチーズの勉強を始めるのも面白いかもしれません。誰も私に何も求めていないので、私を制限するものは何もないんです。

これほど自由になったのに、就職だけは、また古い考え方でするのかと思うと、違和感を覚えます。週5日フルタイムの仕事をする会社を探して、面接して、合格すればその会社に所属して。それも可能でしょうけど、でもそうする必要はあるんだっけ、と疑問に思うようになりました。

先日、ホテルに宿泊中の外国人のお客さまと雑談していて、話の流れで、その方のお仕事を数日手伝うことになりました。「今度、大阪で商談するから、通訳や営業サポートの仕事をしてくれる人を探している」と言うので「私はもうすぐここを辞めるから、手伝えるけど?」と。期間限定なら抵抗はないんです。でも、「このまま、うちで(正社員として)働かない?」と言われると、うなずくことはできませんでした。

生きがいを探すのをやめた

今回の退職についてLinkedInに書いたら、コメントがたくさんついて、その中に「あなたは何に情熱を持っているの?」「人生で成し遂げたいことは何?」というものがありました。

薄井シンシアさん
一番やりたかったことは生まれてきた娘を育てること
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その問いに答えるなら、私が人生で一番やりたかったことは、生まれてきた娘を育てることです。全身全力で期間限定の子育てをやりました。最高に幸せな毎日! でも、それは終わりました。同じように夢中になれるものが見つかるかと思って仕事をしてきたけれど、結局、子育てが終わって心に空いた穴を埋められるものは見つからなかった。

「生きがい」を探すつもりはない

私は人生の早いうちに、大好きなこと、情熱を傾けられるものをちゃんと見つけられたし、それに対して全身全力で向き合うことができました。幸せなことです。ただ、それが今は終わったというだけ。同じぐらいの幸せを、情熱を、と探し求めれば、きっとみじめになる。だからもう、探すつもりはありません。

薄井シンシアさん
生きがいを探すワークショップに参加したことも
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達観したようなことを今は言えますが、実は私も、何か好きなことに打ち込まなくちゃと思って、生きがいを探すワークショップに参加したんです。ほんの2年ほど前のことです。

そこで確か、「好きなもの」「得意なもの」「世の中があなたに求めるもの」「お金がもらえるもの」、この4つを自分なりに挙げてみる課題があって。私は唯一、好きなものがどうしても答えられませんでした。大好きな子育てが終わっていたから。

でも、他の3つは答えられるし、3つが重なる領域はちゃんとある。そこが、私が働ける場所です。そこで働いて生きていけるのに、どうして、好きなことが見つからないというだけで苦しむ必要があるんだろう。急にそんな気持ちになりました。

それでワークショップの先生に言いました。「今回のワークショップで私は生きがいを見つけられなかった。でも、生きがい(を探すこと)を捨てることができました。それで楽になれたから、ありがとうございます」って。