薄井シンシアじゃなくても交渉はするべき
会社とは必ず交渉する、あくまで冷静にする、得意を生かして仕事を選ぶ、つくれるときに人脈をつくっておく――転職のポイントはこんなところでしょうか。会社側と交渉なんて普通はできない、生存者バイアスでものを言っている、と思う人もいるでしょう。かつては、あるいはそうだったかもしれませんね。私だったからうまく事が運んだのかも。でも、今は違います。
とある省庁に正規職員として勤める知人が、「海外へ転居するので退職します」と申し出たら、「頼むから辞めないでくれ」「シリコンバレーからリモートワークの形で構わないから続けてくれ」と言われて、今は実際にリモートワークをしているそうです。お堅そうな官庁でも、こんな柔軟な対応を取るんです。
人手不足の今は従業員の要求が通りやすい
派遣社員としてとある企業に数年間勤めていた人が、出産を機に退職して、数年経って元の会社と交渉して、同じ職場の同じ仕事に戻ったという話もあります。実質、制度はないけれど産休が取れたような形ですよね。
通販大手の非正規従業員だった人が、競合他社に鞍替えして、数か月後に出戻りが許された例もあります。他社で働き始めて、やっぱり前の会社のほうが水が合うなと思ったので、ダメもとで元の職場に戻りたいと連絡してみたら、あっさりそれが叶ったんだそうです。
人手不足なんです。どこもかしこも。従業員が多少の要求をしても通りやすい時代です。少なくとも交渉してみる価値はあるので、不満を抱えながら働いている人がもしいたら、勇気を出してみてもいいのではないでしょうか。
◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う大学のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラ社に入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
撮影/黒石あみ 構成/赤坂麻実、編集部
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