「好きを仕事にしよう」とは言ってられない
都内でも有数のラグジュアリーホテルに転職して、今度は「ディレクター」の肩書をもらいましたが、役職がついても奥に引っ込んでいるのではなく、常にお客さまと接することのできる最前線にいました。お客さまの荷物を持ったり、お客さまにコーヒーをお出ししたり、エレベーター前で待ち構えていたり。
ラグジュアリーとは何か、富裕層が求めるサービスは何か、勉強したかったので、一言でもいいからお客さまと会話するようにしていました。お客さまが東京に来て何を見たか何を食べたか、どんな靴を履いているかどんなバッグを持っているか、全部知りたいことだったんです。
「ラグジュアリーホテルの仕事が性に合ったんですね」「好きなんですね」と言われることもありますが、そうではないですね。英語力があって、これまでのキャリアがサービス業中心だったからその経験を生かして選んだ場所。要は、“好き”ではなく“得意”を仕事にしたんです。目いっぱい努力したのは、単に仕事だからです。
自分にできることで稼ぐだけ
17年間、子育てという最高に楽しい時間を過ごしたあと、ワケアリ人材として労働市場に出て行くからには、「好きを仕事にしよう」などとは言っていられない。だいたい、娘以上に好きなものもありません。自分にできることで稼ぐだけだと割り切りました。
私と同じ事情でなくても、「好きを仕事に」が遠い話に思える境遇の人がたくさんいると思います。それを腐すような価値観はあまり広まってほしくないなと感じます。
裏方仕事に精を出して人脈をつくる
そうやって目の前のことに一生懸命になっていると、たまたま飲料メーカーの人事部長にお会いすることがあって、その会社のオリンピック接遇チームに誘ってもらいました。ところが、これがコロナ禍の影響を受けてリストラにつながって――、という以降の話は前回書きましたね。
こうして振り返ると、人の紹介や招きがあって仕事が見つかることが何度かありました。人脈って、誰かと一度会ったことがある、顔と名前と肩書を知っている、というだけでは成立しないものです。大事なのは、相手に自分を“役に立つ人間”として印象づけること。これをどう実現するかですよね。
人生を通してワークライフバランスを考える
私が取った方法は、よく働くことでした。ホテルに転職してから、仕事とボランティア活動しかしなかった。ワークライフバランスを1日の中で取ろうとしないで、人生を通してバランスが取れたらいいと思っているので、仕事漬けの時期があっても構わないんです。
ボランティアというか、第二の仕事として取り組んでいたのが、在日米国商工会議所(ACCJ)の観光委員会の委員長。著名なホテルの総支配人に声をかけ、「2人で委員長を務めましょう」と誘って、実務は私がやりました。例えば、観光庁長官を講師に招いた出国税の勉強会だとか、メンバーに有益なイベントを企画・運営するんです。そしてイベント当日、開会あいさつなどは、もう一人の委員長にお願いしました。
忙しい総支配人には委員会の仕事でわずらわせないで、花を持たせるというわけです。イベントにとっても、管理職の1人にすぎない私が登壇するより、総支配人に出てもらったほうが箔が付くというものです。
そうすると、総支配人も少しは私に恩を感じてくれるし、一緒に仕事をした事務方の人たちは私の働きを見ていてくれるので、続けていれば評判が広まります。これが大事。自分でいくら「私、仕事できるほうなんですよ!」と言っても痛いだけです。そういうことは周りに言ってもらわないと(笑い)。飲料メーカーのかたとは、この活動で知り合いました。