
世間ではさまざまな健康法が取り上げられ、流行を生むこともしばしば。著書『予約の取れない漢方家が教える 病気にならない食う寝る養生』(学研プラス)が話題の漢方コンサルタント・櫻井大典さんは、「巷で支持されている健康法の中には、胃腸を冷やす食べ方・飲み方があるので注意が必要」と指摘します。
毎朝のローフード、ヨーグルトに要注意
そもそも、なぜ胃腸を冷やすことが健康にマイナスなのでしょうか。
「感染症の流行もあり、“免疫力”という言葉が注目されています。免疫力とは、ウイルスなどの病原体や病気から体を守る力、体の抵抗力のことです。中医学では、外敵から体を守る力はすべて“気”という言葉で表現しています。
免疫力の高い体を作るには、中医学的には『胃腸の状態がよいこと』『穀類、いも類、豆類、きのこ類など“気”のもとになる食べ物を摂っていること』『しっかり睡眠時間を確保していること』が条件として必要です」(櫻井さん・以下同)
ところが、流行の健康法のなかには胃腸を冷やすものが少なくないようです。
「モデルや芸能人をはじめ、健康意識の高い人たちの間で支持されているローフードには少し注意が必要です」
ローフードとは、生の状態や高温(48℃以上)で加熱調理していない食べ物を食べること。一見すると体によさそうな印象がありますが、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。

「酵素」より「胃腸を冷やさない」が大事
「ローフードが支持されるようになった理由の一つに、野菜や果物などを生で食べることで、その食べ物に含まれる食物酵素や、ビタミン、ミネラルなど加熱に弱い栄養素が損なわれずに摂取できるため、美肌、アンチエイジング、ダイエットに効果的ということがあります。ですが、生の食べ物は胃腸を冷やしてしまうので、おすすめはできません。
中医学的に、胃腸を冷やすことは、どんどん健康を遠ざけることです。胃腸を冷やすと、消化機能が低下すると同時に、再度温めるためにエネルギーを消耗するため、疲労につながります。毎日、毎食のようにローフードばかりを食べていたら、やはり胃腸を冷やします。
いかに酵素が健康に役立つ成分だとしても、元気を失った胃腸では十分に働くことができません。酵素を増やすことよりも、胃腸が健康であることのほうが大切です。もし、野菜の栄養素を丸ごと取りたいなら、味噌汁やスープにして汁ごといただくのが一番です」
ヨーグルトより甘酒がおすすめ
体によいとされる「発酵食品」を摂る際も、胃腸を冷やさないコツがあるそうです。
「発酵食品が優れた食品であることは有名です。代表として挙げられるのがヨーグルトですが、体を冷やしてしまいますので、私は甘酒をおすすめします。
(人間の体と住んでいる土地は切り離せないものだから、その土地のものを食べるのが一番体にいいという)“身土不二(しんどふじ)”の考え方があるように、先祖の代から食べ慣れているもののほうが、体は消化吸収しやすいはずです。だからヨーグルトより甘酒がおすすめなのです」
味噌やしょうゆ、みりん、納豆、漬物、かつお節などの食べ物も全て発酵食品です。和食を食べていれば、発酵食品は自然に摂ることができます。

寝起きに「白湯」を飲めばいい?
寝起きに白湯を飲むことも、健康や美容への関心が高い人たちの間で流行っています。櫻井さんに、寝起きの白湯の飲み方について話を聞きました。

無理に飲まなくてOK
「体は寝ている間に発汗しているので、起きたときに『飲みたいな』と感じるなら飲んでください。白湯を飲めば必ずしも全員が健康になる、というわけではないので、無理に飲んだり、“朝の決まり事”にする必要はありません」
飲むなら温かいものを
また、きちんと沸かしてから冷ましたものでないとダメ、ということはないそうです。
「大事なのは飲み物の種類ではなく温度。寝起きの体は冷えているので、飲むなら冷たいものではなく温かいものがおすすめです」
排便を促すために、冷たい水を飲む習慣がついている人もいるかもしれませんが、お腹を強制的に下しているのと同じ、と櫻井さんは指摘します。
果物の唯一の欠点を「焼いて」解消
果物には食物繊維やビタミン、抗酸化物質など、体にいいものがたくさん含まれています。
「甘いものを食べたいときは、季節の果物がおすすめですが、食べ方にひと工夫を」と櫻井さんはすすめます。

冷えた果物は胃腸を冷やす
「冷蔵庫から出したばかりの冷え冷えの果物を食べてしまうと、胃腸を冷やす原因となります。それでは、せっかくの果物の栄養をうまく吸収できません」
焼きフルーツがおすすめ
「果物を“焼いて”食べてみてください。焼きりんごや焼きバナナはメジャーですが、みかんやいちごなどもぜひ焼いてみてください。新しいおいしさに出会えます。
私のいち推しは、“柿”。ヘタから1〜2cmの部分を切り落として、身の部分は格子状に、皮と実の境目にもぐるりと切り込みを入れて、オーブントースターで10分ほど焼いたら完成です。皮がパリッとして果肉はジュルッとした食感になり、とてもおいしいです」
櫻井さんがすすめる果物の「新しいおいしさ」。胃腸を冷えから守るためにも、試す価値がありそうです。
◆教えてくれたのは:漢方コンサルタント・櫻井大典さん

漢方コンサルタント。国際中医専門員。日本中医薬研究会会員。漢方薬局の三代目として生まれ育つ。カリフォルニア州立大学で心理学や代替医療を学び、帰国後はイスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。中国の首都医科大学附属北京中医医院などでの研修を修了し、国際中医専門員A級資格を取得。これまで年間数千件の健康相談を受け、延べ4万件以上の悩みに応えてきた。今年7月、病気にならないための食事と睡眠の新常識をまとめた『予約の取れない漢方家が教える 病気にならない食う寝る養生』を出版。https://yurukampo.jp/