
ご飯をよりおいしく炊くために、米を研いだあとに水を吸わせる「浸水」をしてから炊飯している人もいるでしょう。ところが、「今どきの炊飯器は、スイッチを入れてから炊き上がるまでの工程に、浸水の時間を含んでいるものが多い。そのため、基本的には浸水は不要です」と、家電ライターの田中真紀子さん。詳しく聞いてみましょう。
浸水した方がごはんがおいしくなる理由
そもそも、米に水を浸したほうがよりおいしくなるのはなぜ?
「浸水は、おいしいご飯を炊くために必要な工程です。米は、水に浸けてから熱を加えることででんぷんが分解され、もっちりと粘り気が出てきます。これが『糊化』(=『α化』)と呼ばれる現象です。ですから、あらかじめ米を浸水しておけば、内側までしっかり熱が通り、全体にふっくら炊き上がるのです。
一方、浸水が足りないと表面はもっちりしているけれど、内側は糊化しきらない状態、つまり芯が残る状態になりかねません」(田中さん・以下同)
今どき炊飯器の工程には浸水と蒸らしの時間が含まれる
かといってといだお米をボウルに入れて水に浸けておく作業が必要かというと――最近の炊飯器には、炊き上がるまでの工程に浸水が含まれているものがほとんど。

「炊飯器で米を炊く場合、一般的には、浸水を促すために水の温度を上げて米に水を浸透させます。その後炊飯し、最後に炊き上がったご飯を蒸らして、出来上がり。なお、早炊きコースは、浸水と蒸らしの時間が短縮されています」
最近の炊飯器は、通常コースでも、炊飯のスイッチを入れてから炊き上がりまで1時間前後かかります。その中には、水温を上げて効率よく浸水する時間と蒸らし時間が含まれているのです。
別途浸水したほうがいいケースもある?
一方、炊飯を始める前に、別途浸水したほうがいいのは、「一つは、炊き上がりの味に不満がある場合」だと、田中さん。
「特に、火力が弱く全体的に熱が通りにくいマイコン方式など2万円以下の安価な炊飯器の場合、あらかじめ米に水分を浸透させておくと熱の通りが進みやすくなるでしょう。もう一つは、気温が高い時期の朝に、炊きたてを食べたい場合。夏場は雑菌の繁殖予防に、前日の夜から予約炊飯するのではなく、冷蔵庫に一晩入れた後に、朝早炊きコースで炊くといいでしょう」
さて、今の上位モデルの炊飯器には、炊飯工程の「浸水」に力を入れているものも出ています。
「メーカーによっては、真空と圧力、あるいは超音波の技術を使うことで、短時間でしっかり浸水できるものもあるんです」
その機種は次のとおりです。
【1】三菱電機『備長炭 炭炊釜 NJ-VXD10』※IH方式、炊飯容量5.5合

6万2700円(税込) ※2022年10月7日時点の実勢価格、編集部調べ
洗米直後に「お急ぎ」モードで炊いてもふっくら甘い炊き上がりに
超音波振動で吸水を促し、甘くふっくら炊き上がる。
「三菱電機のジャー炊飯器のフラグシップ『本炭釜』の流れを受け、内釜は5層構造で3.5mmの厚み。内釜の表面には備長炭コートを施し、炭の力でご飯をふっくら炊き上げるのが特徴です。
吸水工程では、超音波振動で吸水を促進するため、米を洗ってすぐに炊いてもしっかり吸水されます。炊き加減が『ふつう・やわらか』の場合は超音波振動を強めに、『かため』の場合は弱めに行い、炊き加減にあわせた吸水に調整。この超音波振動は沸騰工程にも取り入れることで、より旨みと甘みを引き出します」
「あと30分後にご飯を食べたい!」というときでも、洗米後すぐに「お急ぎ」モードで炊けば、0.5合で約19分、3合では約23分でおいしいご飯が炊けます。時間に追われている人には特におすすめですね。
【2】東芝ライフスタイル『真空圧力IH 炎匠炊き RC-10ZWT』※圧力IH方式、炊飯容量5.5合

米の芯まで吸水させる独自(*)の真空技術で玄米や麦でもふっくら

「東芝ライフスタイルの、真空圧力IHジャー炊飯器は、独自の真空技術を採用。内釜の中を真空にし、圧力差で、米の芯までたっぷり吸水させます」
まず真空で米の空気を抜いて、水を芯までしみこませます。しっかり水を吸った米は内部まで熱が伝わりやすく、芯まで高温で加熱することでふっくら炊き上がります。

「これにより、白米銘柄おまかせ・かまど名人『おすすめ』コースで、カップ3杯分(約3合)炊いたときにかかる時間は、約38分と、短時間での炊飯が可能に。また一般的に吸水しにくい玄米や麦なども真空の吸水力で、ふっくらもちもちに」
炊飯後も、真空状態で保温するため長時間保温してもご飯はふっくらツヤツヤ。白米(「エコ炊飯」を除く)は最大40時間、玄米なども最大12時間、酸化によるご飯の黄ばみや水分の蒸発を抑えながら保温。朝炊き立てを食べて夜までそのまま保温し、食べることもできるというのが特徴です。
*2022年8月1日現在。国内家庭用100Vジャー炊飯器において、内釜内を真空にし、圧力差で吸水させる技術および保温時に真空にする技術
上記のようなモデルなら米の芯までしっかり吸水させ、おいしく炊ける。少し値は張りますが、検討する価値アリですね。
◆教えてくれたのは:家電ライター・田中真紀子さん

白物家電や美容家電を中心に家電に詳しいライター。雑誌やウェブなど多数のメディアで、新製品などをレビューしている。https://makiko-beautifullife.com
取材・文/桜田容子
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