永野芽郁が喜怒哀楽を大胆かつ繊細に体現
主演の永野さんといえば、非常にコミカルなイメージの強い俳優です。もちろん、すでにキャリアが10年以上もあるのでさまざまな作品に出演されてきましたが、代表作の一つである『半分、青い。』をはじめ、ハツラツとした役、演技を得意としてきた印象が強くあります。近年の作品ならば、ヤンキーOLたちの闘いを描いた『地獄の花園』(2021年)や、肩の力の抜けた警察ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(2021年/日本テレビ系)での姿が当てはまるでしょう。観る者の多くに笑顔を提供してきたのです。
本作で見せた“凄み”
シイノ役が永野さんだと知ったとき、ちょっと意外に思いました。それは先述しているように、多くの作品で見る永野さんはいつもハツラツとし、コミカルな印象があったから。本作の“鎮魂の物語”からは、遠い人のように思っていました。
けれども『マイ・ブロークン・マリコ』は、シリアス一辺倒なものでもありません。シイノは感情の振れ幅がじつに大きく、笑わせられることも多々あります。そして、深刻になる瞬間はどこまでも深刻になる。マンガのコマで表現されていたシイノの喜怒哀楽を、ときに大胆に、そしてまたあるときには繊細に、永野さんは体現してみせています。
コミカルとシリアスを自在に行き来する彼女の演技は、現時点での集大成にして真骨頂だといえるでしょう。特に、マリコの父に立ち向うシーンなどは、“凄み”すら感じさせられるものになっています。
深い怒りと悲しみに貫かれている
本作は、たった1人の大切な人に置いていかれてしまった者の深い怒りと悲しみに貫かれた作品です。この「怒り」と「悲しみ」というのは、シイノのマリコに対するものであり、また同時に、マリコを救うことができなかったシイノ自身に対するものでもあります。
いまは本当に大変な時代だと思います。自ら命を落としてしまう人も絶えませんし、かくいう筆者自身も、不意にネガティブな感情に囚われることは少なくありません。こんな時代に、「どんなにつらくても頑張れ」などと簡単には言えません。けれどももしも、もしも「死にたい」と考えている人が身近にいるならば、そう正直に話してほしい。それができる環境をつくるようにしたい。そんなことを考えました。みなさんはどうでしょうか。
配給:ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun