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横浜流星の言葉に頼らない演技に吸い込まれる…主演映画『線は、僕を描く』で見せた「瞳による表現」

映画『線は、僕を描く』場面写真
横浜流星、主演映画『線は、僕を描く』で見せた「瞳による表現」とは!?(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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横浜流星さん(26歳)が主演を務めた映画『線は、僕を描く』が10月21日より公開中です。清原果耶さんや三浦友和さんらを共演に迎えた本作は、1人の青年が水墨画との出会いによって大きく変わっていくさまを描いたもの。“水墨画”というとなかなかなじみのない人が多いかもしれませんが、何かしら夢中になれるものと出会った経験がある人ならば、きっと深く心に刺さる作品に仕上がっています。本作の見どころや横浜さんをはじめとした役者陣の演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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夢中になれるものとの出会いで世界が変わっていく青春映画

本作は、「本屋大賞」にもノミネートされた砥上裕將さんによる同名小説(講談社文庫)を、映画『ちはやふる』シリーズの小泉徳宏監督が実写化したもの。競技かるたの世界を描いた『ちはやふる』の製作チームが再集結し、今回は水墨画の世界に挑んでいます。

映画『線は、僕を描く』ポスタービジュアル
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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“競技かるた”はおそらく多くのかたにとってあまりなじみのないものだったと思います。それはこの“水墨画”も同じでしょう。けれども無我夢中になれるものに出会うことで世界が変わっていく経験は、多くのかたがしたことがあるのではないでしょうか。本作はそんな“青春映画”なのです。

水墨画との運命的な出会いから始まる

大学生の青山霜介(横浜)は、アルバイト先の絵画展設営現場にて水墨画に初めて出会います。それはまさに運命。“線”のみで描かれた絵を前に彼は立ち尽くし、思わず涙を流すのです。

映画『線は、僕を描く』場面写真
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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そんな霜介は、水墨画界の巨匠・篠田湖山から「弟子にならないか?」と声をかけられます。水墨画に対して感想を述べた霜介の感性を、湖山は気に入るのです。

やがて霜介は“弟子”ではなく“生徒”になりたいと自ら申し出て、水墨画の世界にのめり込んでいきます。控えめな性格の彼が何かに夢中になるのは久しぶりのこと。霜介は水墨画との出会いによって、新しい人生を切り拓いていくのです。

豪華布陣で挑む、水墨画の世界

2010年代の“青春映画の金字塔”である『ちはやふる』の製作チームが手掛ける作品とあって、とても豪華な布陣になっている本作。

霜介を水墨画の世界に招く湖山役は三浦さんが務め、その穏やかな口調と優しいまなざしとで、孤独な青年を導いています。

映画『線は、僕を描く』場面写真
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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そしてその湖山の孫娘であり、気鋭の水墨画家の篠田千瑛役を主演ドラマの放送も開始されたばかりの清原さんが演じています。霜介と千瑛のライバル関係や、やがて手を取り合って“線”を描くようになっていく変化にも注目です。

映画『線は、僕を描く』場面写真
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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さらに、湖山とともにいつもそばで霜介を見守る西濱湖峰役を江口洋介さんが務めているほか、細田佳央太さん、河合優実さん、富田靖子さんらが脇を固め、この映画を彩ります。そんな座組の中心に立ち、作品の看板を背負っているのが、主演の横浜さんなのです。

映画『線は、僕を描く』場面写真
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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心臓の音まで聞こえてきそうな横浜流星の演技

キャリアを重ねるごとに、名実ともに若手俳優の中でも頭一つ抜けていく横浜さん。今年も出演した話題作の放送・公開が途絶えません。日曜劇場『DCU〜手錠を持ったダイバー〜』(TBS系)では数少ない若手キャラクターにしてドラマの中心人物を演じ、ゲスト出演した『オールドルーキー』(TBS系)では高慢なサッカー選手に扮しました(実は根の優しい人物でしたが)。

『流浪の月』ではヒステリックで暴力的な男性の役に徹し、竹内涼真さんとダブル主演を務めた『アキラとあきら』では合理性を重視する冷たい男を好演。いずれも今作『線は、僕を描く』の霜介という人物とは対極にあるキャラクターたちで、誰もが強い言葉を口に、あるいはトゲのある言い方をよくしていました。

言葉にあまり頼らない

それに比べて霜介は、発言も口調そのものも柔らかい。不慮の事故で家族を失った彼は、深く傷ついています。そんな彼が、水墨画との出会いによって変わっていくのです。しかし本作での横浜さんは、そもそも言葉(セリフ)にあまり頼っていない印象です。

映画『線は、僕を描く』場面写真
(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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霜介が初めて水墨画を前にして圧倒される冒頭の一連のシーンでは、その瞳の輝きから、彼の感じているときめきや高揚感がスクリーンを超えてありありと伝わってきます。それは心臓の音までもが聴こえてきそうな気がするほど。いや、本当に聞こえるのです。横浜さんは我を忘れてしまうほどの霜介の静かで深い興奮を、瞳による表現に込めているように思います。それと呼応するように私たち観客も、この水墨画の世界に吸い込まれていくのです。

日常の風景をしっかり見つめてみることの大切さ

“無我夢中になれるものに出会うことで世界が変わっていく経験は、多くのかたがしたことがあるのではないでしょうか。”と冒頭に記しました。もちろん、経験したことのないかただっているでしょう。

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(C)砥上裕將/講談社(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会
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けれども人生を変えるような「何か」との出会いは、どこに転がっているのか分からない。本作は霜介という1人の青年の姿をとおして、この事実と、日常の風景をしっかり見つめてみることの大切さも訴えていると思います。もしかするとこの『線は、僕を描く』という映画こそが、誰かの人生を変えるものかもしれません。劇場で出会ってみてはいかがでしょうか。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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