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デビュー35周年の工藤静香、カラオケで“追い静香”をしたくなる「魔力と中毒性」

35周年記念のセルフ・カバーアルバム『感受』をリリース
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年末の第73回紅白歌合戦(NHK)に出場が決まった工藤静香。今年、2022年はデビュー35周年の記念イヤーでもあり、それを記念したセルフカバー・アルバムの発売や、歌番組などへの出演が続きました。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんは、彼女の持つ「魔力と中毒性」を、カラオケで歌って改めて気づいたと言います。その魅力について、田中さんが綴ります。

* * *

気合いと歌声に圧倒されたデビュー曲

なぜか猛烈に惹かれてしまう……! どこか強気で攻撃的なルックス。濃厚な恋愛を漂わせる楽曲。正直、私は本来ならストライクゾーン圏外のタイプである。しかし彼女の引力には抗えない。なんというか、歌う彼女からものすごく美しい紫の糸が出ていて、それに絡まれ、引っ張られていくイメージ。

思い出せば、工藤静香さんとの出会いは1987年。まだおニャン子クラブの派生ユニット「うしろ髪ひかれ隊」として活動していた頃である。当時大好きだったアニメ『ハイスクール!奇面組』の主題歌『時の河を越えて』が滅法よかったのだ。

彼女は同年『禁断のテレパシー』でソロデビュー。ただ、ザ・ベストテンでこの曲がランクインし登場したとき、私はすぐにうしろ髪ひかれ隊の人だと気づかなかった。急に「攻撃的なタレ眉」という珍しいタイプの美人が出てきて、歌を歌ったらそれがのけぞるほど上手。

歌声に圧倒された(写真は1988年、PH/SHOGAKUKAN)
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「なんか迫力が凄い子出てきた!?」とひたすらビックリしたのであった。

私は先入観で「おニャン子はみな歌がうまくない」と決めつけていた節がある(演歌を歌っていた城之内早苗さんは除き)。好きだったうしろ髪ひかれ隊もまあまあ、おニャン子にしてはうまい、程度の評価だった。いわばレッテルを貼っていたのだ。

工藤静香のソロは、その隙を与えなかった感じ。レッテルを貼る暇もなく、オラオラとパフォーマンスを見せつけられ、ただただその気合いと歌声に圧倒された。あれからもう35年!

ソロデビュー曲は『禁断のテレパシー』(写真は1990年、Ph/SHOGAKUKAN)
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カラオケで「静香ファーストチャレンジ」直後の「追い静香」

工藤静香の歌は、カラオケで歌うとものすごく気持ちがいいのも大きなポイントである。20代の頃、私の友人の間で人気だったのは『恋一夜』と『嵐の素顔』、そして『黄砂に吹かれて』。特に『嵐の素顔』を十八番とする彼女が、本当に気持ち良さそうに歌うので、思わず「私も一度……」と『嵐の素顔』を入れてみた。

振り付けも話題になった『嵐の素顔』(写真は1990年、Ph/SHOGAKUKAN)
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すると、かっ体が勝手に! 片手が、直角から並行にするあの振り付けに動いてしまう! そしてなにより、ものすごくイイ女気分になる。歌い方も「絶対寄せるまい」と決めていたのに、どうしても真似をしたくなり、鼻にかかるように歌う部分と、太い声で歌うところの差をつけ、ほんの少し静香っぽくしてしまった。

「魔力と中毒性」の虜になる(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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しかもこの「静香ファーストチャレンジ」があまりにも気持ちがよく、私は舌の根も乾かぬうちに「追い静香」を敢行。『恋一夜』がこれまた友人の十八番と知っていながら先に入れるという裏切り行為をし、上手い下手はともかく陶酔した。最後の「なぜ……」というところでは、自分がおかっぱのメガネということなどすっかり忘れ、「ワンレングスのイケイケ美女」になりきり、首を傾げアンニュイに歌ってしまったのだった。

ヤバい。工藤静香の歌、ヤバい──。それまで「気が強そうなモテ歌手」というイメージで少し遠ざけていた彼女の魔力と中毒性を、カラオケという文化に一度バウンドさせる形で、私はやっと認めることができたのである。

こうなると、さらに欲が出てくるのが人間というもの。ある日彼女がテレビでつけていた青みがかったピンク(薄紫?)の口紅を真似して買い、結果、プール上がりで寒くて震えている人のようになった。歌はともかく、彼女のヘアメイクはハードルが高かった……。

セルフカバーで聴く『千流の雫』が素晴らしい

そんなトライ&エラーを繰り返しながら工藤静香さん楽曲と親しんできた私。一番好きな楽曲は何かと問われれば、『千流の雫』と『雪・月・花』の2曲同率である。中島みゆきさん作詞作曲の『雪・月・花』は、圧倒的な満たされなさと、工藤静香さんの持つ勝気な感じがぶつかり合って、ヒンヤリとした空気が流れ出る感じがたまらない。

デビュー35周年の工藤静香(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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『千流の雫』は、「愛絵理」というペンネームでご本人が作詞。シングル盤もいいが、ソロデビュー35周年を記念し、今年リリースされた初のセルフカバー・アルバム『感受』に収録されたセルフカバーバージョンを私は推す! 甘い声はそのままといっていいほど変わらず健在。言葉をそっと置くように繊細に歌い、そこにピアノが絡み、震えるほど儚い。静かな夜、枕を抱えながらひとり、イヤホンでじっくり聴きたくなるような美しいカバーだ。

今年、紅白歌合戦にぶりに出場する彼女。何を歌ってくれるのがとても楽しみである。『千流の雫』、歌ってくれないかな……。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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