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薄井シンシアさん、仕事を辞めて転職するまでの100日間の小休止で初めて気がついたこと

薄井シンシア
仕事を辞めて転職するまでの100日の小休止で初めて気がついたことがあるという
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47歳のときに専業主婦から17年ぶりにキャリアを再開した薄井シンシアさん(63歳)。2022年7月末、外資系ホテルの日本法人社長の職から退き、同年11月に外資系の大手IT企業に新たな職を得ました。3か月余りの離職期間を過ごしたシンシアさんに、その間にしたことや、そうしたインターバル、ブレイクタイムの価値について聞きました。

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休み中に大掃除、自分が好きな空間を取り戻す

ホテルを辞めた当初はすぐに再就職するつもりではなかったし、そもそも再び組織に属する形で働くかどうかも決めていなかったので、しばらく自由な生活を満喫しました。転職活動を始めてからも、働いていた頃よりは時間に余裕のある生活でした。

それで、この100日ほどのブレイク中は、普段なかなかできないことを片っぱしからやってみました。部屋を徹底的に片付けたり、健康診断を受けたり、美容医療レーザーの施術を受けたり、人とたくさん会ったり。

私はもともと散らかった部屋が“無理”なので、普段から整理整頓はしているんですけど、大掃除みたいなことは長らくできていなかったので、この機会にと思ってしっかり取り組みました。

「要らないもの」を処分した

家の中の決まった場所にいちおう収まっているから、普段の掃除では手をつけないけれど、実は要らないものってあるでしょう。あまり気に入っていない家具とか、山のようにたまった古い書類とか。そういうものを、業者を呼んで引き取ってもらいました。

おかげで、部屋がかなりスッキリしました。人によっては、スペースが空いたら、何か新しいものを置いたりするんでしょうね。観葉植物とかクッションとか。私は物が増えるのが嫌いだから、何もないスペースができた、シンプルな空間になった、これで完成です。

今回、ベランダも掃除したんです。うちはベランダが45平米あって広いので、遊びに来た友達が、片付いたベランダに出て「ここに植物とか置いてもよさそうだよね」って言うんですよ。でも、それは却下(笑い)。植物は面倒を見なくちゃいけないし。シンプルな空間が広がっているのを見るほうが、私は気持ちがいいんです。

人とどんどん会って心に新しい風を取り込む

人にもどんどん会いました。たまたま知り合った人の仕事を数日手伝ってみたり、仕事を探している友人と働き手を探している会社の仲立ちをしたり、久しぶりに会う友人と一緒に食事をしたりもしました。

薄井シンシアさん
さまざまな人に会った
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さまざまな世代のいろんな人とコミュニケーションを取りましたね。例えば、ある週は3回、ランチに出かけています。3回とも1対1で相手は大学の後輩。日本に住んでいるインド人、中国人、マレーシア人。みんな30代で、私が新たに挑戦しようと思っていた業界で働いています。

3人とも最初は日本企業に就職したものの、終身雇用に年功序列が土台となった企業文化・風土になじめなくて、外資系に転職しています。ちなみに、転職した途端に彼らの年収は1000万円を超えていて、自分の持てる力を新しい職場でしっかり発揮できている。彼らからも、いい刺激をもらいました。

転職活動がうまくいってない人こそ人に会うべき

転職活動中は人に会いづらい心境になるという話を聞いたことがあります。仕事がアイデンティティになっている人は、そういう心理状態に陥りがちなのではないでしょうか。けれど、もしも転職活動がうまく進んでいなくて落ち込んでいるのだとしたら、そういう人こそ、本当は人に会ったほうがいいと思います。

特に、一つの業界が長かった人は、SNSでも何でも使って気になる人に自分から声をかけて会うことをおすすめします。それは口利きをお願いするとか、そういう意味ではなくて、他の業界の情報も取り入れる、他人のものの考え方に触れるという意味で。心が凝り固まってしまったら新しい風が入る余地がないので、人と会って自分の殻を壊す作業は大切です。

休んで初めて自分の余裕に気づいた

私も今回の3か月で、自分をあらゆる面から整理できた気がします。人と会って話せば自分の考えがより明確になるし、時間がある分、物事を深く考えられますしね。人間、ブレイクしたほうが活性化されるものだなと思いました。

薄井シンシア
仕事を辞めても焦りは出なかった
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まとまった時間ができたときに、さぁやろうと自分が思うのはどんなことか。部屋を片付けていて、今見てもこれいいなと思うものはどれで、実は使っていなかったと気づくものはどれか。自分の健康状態がどうなっているか。そういうことを明らかにすることができた。

経済的にも精神的にも余裕があった

そうやって自分を見つめ直すと、今の自分には余裕があるということが分かりました。仕事を辞めたら、私も焦りが出たりするのかなと想像したこともありますが、実際にはそういうことは全くなかったんです。こういう感覚は、実際に休んでみなければ分からないですね。

今の私は、経済的にも精神的にも結構ゆとりがあるんだなと思えて、だからこそ、これからまた冒険ができると思いました。60代って冒険ですよ。しなくちゃいけないってことがないんですから。今回の就活のテーマも、そういう余裕の中から「モダンエルダーになること」に定まっていきました。

女性に求められる役割が多すぎる 一度にやらなくてもいい

離職期間の心境や過ごし方って、人生のフェーズによってまるっきり異なるものだと思います。子育て中だったり、家族が病気になったり、人それぞれ、いろんな事情でお金が喫緊に必要な時期というのはあって。そういうときは、次が決まらないと会社を辞められないと考えるのも当然です。金銭的に少し余裕がある場合でも、自分の計画にないタイミングで退職すると不安が募りますよね。

ちなみに私は2021年2月に飲料メーカーを解雇されて次の仕事が決まるまで、やっぱり3か月ほど時間があいて、あのときは今のような余裕はなかったです。たった2年前のことです。

「60代って自由」「ブレイクも大切」と強調する理由

私が「60代って自由」「ブレイクも大切」と強調する理由は、50代や60代の人に今の自分に目を向けてほしい思いが一つ。冒険してもいいだけの余裕や自由を獲得した人も多いはずなのに、そのことに気づいていない人も多いと思うから。もう一つは、私が今いるフェーズを将来経験するはずの30代、40代の女性に知っておいてもらいたいことだからなんです。

女性は、子育てに家事に仕事に、求められる役割が多すぎる。今そんなにあれもこれも一度にやらなくていいよ、と私は思うし、この考えがもっと広まってほしい。後でもっと余裕を持って取り組めるときが来ますから。この連載でも繰り返し主張していますが、「Retire Now Work Later」、今は仕事を辞めてまた後で再開する。そういうことも本当に可能な世の中になってきたということを伝えたいですね。

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/黒石あみ 構成/赤坂麻実

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