健康・医療

「ドライマウス」は口が乾くだけじゃない“怖い症状” 病気のリスクと改善策を医師が解説

「口が渇く」ドライマウスは心身にさまざまな影響があるという(Ph/photoAC)
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アンチエイジングという言葉で思い浮かべる内容はなんでしょうか。美容、食事、脳トレなどさまざまありますが、『歯と口を整えるアンチエイジング』(ビジネス社)の著者で歯科医師・歯学博士の生澤右子さんは、「歯や口を整える」ことこそ「アンチエイジング対策で最初にすべき「要(かなめ)」であると指摘します。そんな生澤さんに、中高年女性に多いという「ドライマウス」対策について聞きました。

ドライマウスは怖い症状

ドライマウスとはどんな症状でしょうか。

「口が渇く症状=ドライマウスは、血圧を下げる薬などの副作用やストレスなどで起こりやすく、むし歯や歯周病などに罹りやすくなるほか、口臭の原因にもなります。さらにドライマウスは、食べこぼしやむせ、滑舌の低下など口の機能を弱め、口での本来の防御力も弱めてしまう可能性がある、実は怖い、注意したい症状です」(生澤さん・以下同)

一方、ドライマウスは自覚症状を持ちにくいのも事実。こんなケースは要注意だそうです。

こんな人は要注意

「『飴や水が手放せない』『口の渇きがつらいと思ったことがある』人は、ドライマウスかもしれません。そもそもドライマウスとは、“口の異常な乾燥状態”または“自覚症状として乾燥感がある”状態を示します。日本ではドライマウス人口は800万人、潜在的には3000万人と言われます」

気になる人は、鏡を見て舌を持ち上げ、唾液がたまっているかを確認しましょう。もしたまっていなかったら口が渇いている可能性があります。

口の中の唾液がたまっているかで確認できる(Ph/photoAC)
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口が渇く3つの原因

口がなぜ乾いてしまうかについては、“口”という空間での水分の出入りの分類により、次の3つの原因が考えられるそうです。

「『口の水分として唾液量そのものが減っている』『粘膜側の保湿機能の衰えや水分量が減っている』『口呼吸や口が開いて水分が蒸発している』の3つです。加齢でも唾液の量は減りがちですが、一番の原因は薬の副作用やストレス。糖尿病や腎臓病などの病気が理由で口が渇くこともあります。唾液の量とは別に、口が開いているとそこから水分が蒸発して乾いてしまうことがあります」

ドライマウスによる健康問題

ドライマウスは、口が渇いていることの不快感や食事の食べづらさ、滑舌の悪さの問題のほかにも問題を引き起こします。

唾液が働かなくなる

「唾液の大きな役割は抗菌作用や洗浄作用。それが減少すれば、むし歯や歯周病などが起こりやすくなるほか、口臭が強くなります。また、いわゆる“カビ”の仲間のカンジダ菌による感染も起こります。

唾液により口を潤す作用がなくなると、口の粘膜が弱まって口内炎ができやすくなります。さらに、乾燥で舌が萎縮して味を感じる部分がうまく働かなくなることもあります」

誤嚥性肺炎のリスクも

唾液の減少は、やがて命に関わる病気のリスク上昇につながるとこともあります。

「唾液が減ると『ゴックン』と飲み込む回数が極端に少なくなるので、飲み込みの“ウォーミングアップ”ができなくなり、本番である飲食の時にむせや咳き込みが多くなります。

喉に詰まってしまったり、気管に入ってしまったりして、『嚥下障害』につながります。高齢になり、咳や飲み込みの反射すら弱くなると、誤嚥性肺炎という命に関わる病気の危険性が高まります」

ドライマウスが引き起こす健康問題は多い(Ph/photoAC)
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エストロゲンの減少も関係

女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)の減少がドライマウスに関係することも。

「ある研究では、閉経期の5割前後の女性が、口の不快感や渇きを感じているという報告があります。

エストロゲンは女性の健康を支えているホルモンで、口の健康もエストロゲンの減少による打撃を受けるということが、いろいろな研究によって分かってきました。エストロゲンが減ると、口から病原菌に感染しやすくなったり、むし歯や歯周病のリスクも上がります」

他にも、更年期以降の女性で危険性が指摘される「骨粗しょう症」のリスクが上がり、これは歯を支えるあごの骨にも影響するそうです。

「閉経後の女性の口の健康を守る医療的なガイドラインはまだありません。エストロゲンと口の健康の関係については、今後の研究が期待される分野です」

ドライマウスを改善するには

ドライマウスそのものや、健康に及ぼす影響にはどう対応すればいいでしょうか。

基本的なオーラルケアを

「ドライマウスの人は口の本来の防御力が弱まっているため、口の中をより清潔に保つ努力が必要です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを使うとか、フッ素(フッ化物)を有効に使います。

文献では、歯や歯ぐき、唾液の検査などを受けるほか、口の中を清潔に保つために、オーラルケアの方法を個別に受ける必要性が強調されています」

運動、マッサージほか

さらに、自分でできるこんな対策もあります。

「口周りの筋肉や唾液腺を刺激する、口の運動やマッサージを行うことも大切です。日本歯科医師会が推奨する“パタカラ体操”や“早口言葉”などを疲れてくるのを感じる状態になるまで繰り返すのを1セットとし、1日2〜3セット続けると良いでしょう。他にも、顎下腺や耳下腺などのマッサージも、自分で簡単にできるのでおすすめです。https://www.jda.or.jp/oral_frail/gymnastics/pdf/print.pdf?2021-01-27

また、一口30回よくかむことも、唾液腺が刺激される天然のトレーニングです」

口周りの運動やマッサージで唾液腺を刺激する(Ph/photo AC)
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保湿剤と食品も有効

口の潤いを補う方法も取り入れたいところです。

「ドライマウスの症状を緩和する保湿剤としておすすめなのが、ヒアルロン酸、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなど。シートタイプとジェルの形状は、特に夜間の使用におすすめです。

また、口の渇きを改善する食品としては、ケルセチンとイソフラボンが代表的。ケルセチンは玉ねぎなどに多く含まれ、酸化防止や血管を広げる作用があります。大豆などに含まれるイソフラボンも、抗酸化作用やエストロゲンの働きを補う作用が期待できます」

ドライマウスを放置すれば、そこからさまざまな症状・病気を招くことになりかねません。少しでも気になる症状があれば、生澤さんの助言によるセルフチェックや対策を実践してみてください。

◆教えてくれたのは:歯科医師、歯学博士・生澤右子さん

歯科医師・歯学博士の生澤右子さん
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株式会社Dental Defense 代表取締役、明海大学歯学部客員講師、日本歯科麻酔学会認定医、日本口臭学会・米国歯内療法学会所属。こどもはいしゃアカデミー主宰。東京医科歯科大学歯学部・同大学院博士課程卒業。ペンシルバニア大学歯学部マイクロサージェリーコース修了。フリーランス歯科医として複数のクリニックで診療を行う。講座、セミナー、商品開発などを通じて世界標準のオーラルケアを発信。2023年2月、『歯と口を整えるアンチエイジング』(ビジネス社)を出版。

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