
ここ数年で改めて注目が集まっている「ヴィーガン」(完全菜食主義)。食生活や社会の仕組みに問題意識を持ち、地球の環境を考え、支持する人もいますが、人間の体にとってはいいことばかりとはいえないそうです。『怖いけど面白い予防医学 人生100年、「病気知らず」で生きるには?』(世界文化社)を上梓した、医師の森勇磨さんが語る、ヴィーガンのメリットとデメリットとは?
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ヴィーガンに不足しがちなビタミンDとヘム鉄
ヴィーガンを、健康面のよし悪しだけで語るのはナンセンスかもしれません。しかし、人間が野菜一色の食生活を営んだ場合、予防医学や栄養学的観点から、体にどのような影響が出るのか、知っておくと役立つこともあるでしょう。
ビタミンDが不足すると骨粗鬆症のリスク
野菜にはビタミンA、Cなどのビタミン類や、カリウムなどのミネラルを豊富に含んでいるので、一見野菜だけの食生活は問題がないように思えるかもしれません。しかし、野菜にはビタミンDがほとんど含まれていないのです。
「ビタミンDには、腸でカルシウムを吸収しやすくする役割があります。ですから、ビタミンD不足になるとカルシウムの吸収が上手にできなくなり、骨がもろくなって骨粗しょう症になるリスクが上がってしまいます」(森さん・以下同)
ビタミンDが豊富なきのこでカバーを
一般的にビタミンDは鮭やマグロなどの魚介類や、鶏卵に多く含まれています。これらの食材を食べないヴィーガンの場合は、サプリメントで補充するか、きのこ類を多く摂取する必要があるのだそうです。

「しいたけやきくらげといったきのこ類には、ビタミンDが豊富に含まれています。きのこを野菜に含めるかどうかは議論の余地があるかもしれませんが、ヴィーガンの信念からすると許容できる場合もあるのではないでしょうか」
女性のヘム鉄不足は貧血を引き起こすことも
ビタミンDのほかに、ヴィーガンにとって不足しがちなものが鉄分です。鉄分は、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類に分けられます。「ヘム」は血液の赤い成分のことで、赤身の魚や肉類に多く含まれており、野菜に含まれている鉄分は非ヘム鉄が多いそう。
野菜から鉄分を摂ることができるとはいえ、ヘム鉄のほうが体での吸収効率がよく、非ヘム鉄だけでは十分な量の鉄分を摂取するのが難しいといいます。
「特に女性は鉄分不足が誘引となる鉄欠乏性貧血という貧血になりやすく、氷を無性に食べたくなる氷食症という症状が出たり、髪の毛や皮膚が乾燥し、パサパサする症状が出ることもあります」

魚や肉を食べない場合には、こちらもヘム鉄のサプリメントなどで対策する必要があります。
ヴィーガンのメリットは植物性たんぱく質中心の生活
ここまでヴィーガンのデメリットを紹介しましたが、メリットもあると森さんは話します。
健康面では植物性たんぱく質に軍配
筋肉や髪のもととなるたんぱく質は、赤身肉などから摂取できる動物性たんぱく質と、大豆製品や白米、ナッツなどから摂取できる植物性たんぱく質の2つに分かれます。実はこの2種類のたんぱく質は、健康への影響の観点ではヴィーガンの人がよく食べる植物性に軍配が上がるそうです。

「動物性たんぱく質の摂取のし過ぎで死亡率が上昇したが、植物性では死亡率が低下したというデータも存在します。体を構成するたんぱく質を補うためには、植物性のものを積極的に摂ることがよいのです」
ヴィーガン生活を続けるなら注意点は?
ヴィーガン生活には、このようにメリットもデメリットもあります。しかしビタミンDや鉄分のように、摂取が難しい成分もあるので、予防医学的な観点では長期的に続けると健康を損なうリスクのほうが大きいそうです。
ヴィーガンを続けるならば、上記のような摂取しにくい栄養には人一倍注意を払うべきだと、森さんは注意を呼びかけています。
◆教えてくれたのは:産業医、内科医・森勇磨さん
Preventive Room代表。神戸大学医学部医学科卒業。2020年2月より「予防医学ch/医師監修」をスタートし、登録者は53万人を超える。上場企業、株式会社リコーの専属産業医として予防医学の実践を経験後、独立。Preventive Room株式会社を立ち上げ、書籍やYouTubeでの情報発信のほかオンライン診療に完全対応した「ウチカラクリニック」を開設している。https://www.youtube.com/channel/UCN1w0Esm19bl7kMh5O23y-w