
ライター歴45年を迎えたオバ記者こと野原広子(66歳)。自宅介護の末、母親を看取ったのは一昨年春のこと。その母親の妹(叔母)が認知症を患い、先日、特別養護老人ホームに入所した。「他人事ではない」と感じたオバ記者が考えるこれからの生き方――。
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認知症、次は自分の番?
66歳の私が最も恐れるもの。夜中、ひとり暮らしのマンションでつらつら考えると、とどのつまりは認知症なんだよね。というのもここ1年で身近に認知症の人がわっと増えてきたからなの。

認知症といっても人それぞれでね。「もう、やだ~」と笑ってすませられるレベルから、こちらの精神に食い込んでくるタイプまでいろいろだけど、私の場合、両親を見送っているので介護をする心配はない。その分、親がいない世を生きるのはこんなに心細いのかと母親が亡くなって3度目の夏、しみじみ思い出したんだけど、それはともかく。これまで認知症の親をどう介護するかと、そっちばかり考えていたけど甘かったね。今度はお前の番だよという悪魔のような声がどこからともなく聞こえてくるんだって。

「認知症になったら何もわからない」にショック
私が認知症をわが事として意識しだしたのは、昨年10月に卵巣と子宮の全摘手術をして退院してしばらくたったとき。9歳年上の友だちのA子とLINEでやり取りをしていたときに、「退院後2週間は湯船に入るの禁止と医師から言われているから、足だけにしている」と書くと、「それじゃ、温まらないね」と返ってきた。と、ここまでは思いやりのある言葉が並んだんだけど、「でも湯船を見ているとついお湯に肩を沈めたくなるのよ」と書くと、「ちょっとボケたか」と。(笑)も何もない、ストレートど真ん中。

それだけじゃない。「入院をきっかけに認知症になる人もいるっていうから気を付けてね」だって。A子はときどき「えっ?」と驚くようなことを言う人だけど、大手術を終えて不安のかたまりになっている友人に言う言葉? 混乱して頭全体が真っ白になり、さらに頭の芯が痺れだした私は、「そうなったら私は一巻の終わりだよ」と返したの。
「でもいいじゃない。認知症になったら何もわからないんだから」とA子。「いやいや、たいがいの認知症の人は自分がおかしなことをしているとわかっているみたいだよ。それでも止められないから悲しいんだよ」と、だんだん私も本気モードになってきちゃった。

アマゾンの倉庫でバイトしたことも
ライターとして一生現役を想定している、といえば聞こえはいいけれど、前にここで書いた通り、30代から50代初めまでギャンブル依存症になって、まあ、死ぬまで働くしかない状況といったほうが正確だよね。それをとくに大変だとも思わなかったのは、生来ノンキ者で、行き当たりばったりの性格だったから。てか、年金暮らしの友人から「毎日、やることない。仕事をしているあなたがうらやましい」なんて言われると、心の中で「でしょ。一生働けることが最高の幸せだって」と大きくうなずいた私。

ところが60歳になる少し前から、高血圧とか心房細動とか、心臓系の不具合が出てきて、そのたびに病院に駆け込み、薬を処方してもらう。でも、だからといって働けないということはなくて、ライターの仕事が減ったときはアマゾンの倉庫で仕分けのバイトをしたり、ユニクロのバックヤードで働いたり、けっこうな肉体労働で帰りは口もきけなくなったけれど、でもまだ働ける。まだイケる。これは私の大きな自信になったんだよね。

頭がハッキリしているからライターができる
ところが昨年の今頃、お腹が急に膨らんできて、検診を受けたら「卵巣がんの疑い」。そりゃあ、がんになっても働けないことはないと思っても正直、お先真っ暗よ。幸い、手術の結果は卵巣がんではなくて、境界悪性腫瘍という良性とも悪性ともつかない診断。思わず医師に「ってことは切られ損ですか?」と悪たれをついてしまったわよ。そんなことでも言わないとやりきれなかったの。

まぁ、いずれにしても私は働いて、そのときの収入に応じてひとり暮らしを死ぬまで楽しむ。自分ではとてもシンプルで控えめなモットーと思っていたけれど、そうではなかったんだよね。みんな健康であってこそで、いったん病を得るとたちまち立ち往生よ。そんなわが身の頼りなさをしみじみと実感していたところに「入院をきっかけに認知症になる人もいるっていうから気を付けてね」ってさっきのA子の言葉。あのね~。

いずれにしても自分の頭がハッキリしていると思っているからライターをしていられるんで、ボケたら廃業だよ。とはいえ、前に話したことを初めてのことのように話し出すことは、たまにある。相手のちょっとした顔の表情を見て、「あ、これ、話したっけ?」と聞くと「聞いた」とスラッと返ってくる。まだ指摘してもらえるのね。これがうれしいんだわ。そのたびに、私はまだ大丈夫と胸をなでおろすんだよね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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