
最近耳にするようになった「フェムテック」。2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされたフェムテックとは、Female(女性)+Technology(技術)の造語です。生理や妊娠・出産に関連するイメージを持つ人も多いものの、実は更年期世代にも役立つことがたくさんあります。日本フェムテック協会の代表理事を務める山田奈央子さんと、同じく代表理事を務める医師の関口由紀さんに詳しく教えていただきました。
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フェムテックが更年期女性にもたらす影響
女性特有の健康問題やライフステージに関する課題を解決するためのものに対して、広く使われるフェムテックという言葉。
「女性の健康課題を技術や科学で改善しようという概念を指します。とはいえ、テクノロジーに限らず、女性が自分自身で体のことを学んで、よりよい方向に持っていくという意識もフェムテックに含めようという考え方が広がってきています。
つまり、トラブルに対するお道具という感じではなく、女性の健康課題を技術やセルフの知識や能力で解決して、よりよい人生につなげましょうという広い概念がフェムテックなんです」(関口さん)

女性の悩みに、技術やヘルスリテラシーを広めることで寄り添うフェムテック。では、更年期の悩みの解決の糸口には、どんなものがあるのでしょうか?
更年期の症状と治療などのアプローチ
更年期とは、閉経の前後10年間のこと。女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が急激に減少してホルモンバランスが崩れ、イライラや頭痛、ホットフラッシュ、皮膚の乾燥、尿漏れなどの自律神経失調症状と精神神経症状が現れます。
「症状を抑えるために、適切な治療やケアを行うことで、つらさは軽減できます。医療分野では、例えば、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、抗うつ薬などの処方を行います。一方で必ずしも治療が必要とは限らないケースも多く、セルフケアとしては、規則正しい生活習慣や、食生活、ウォーキングやヨガを行うことでも症状の緩和が期待できます」(関口さん)
更年期の悩みに対して医療も進化してきている
女性ホルモンの分泌量は20代のピークから、年齢を重ねるにつれ減少し、閉経を迎えると10分の1にまでなるそうです。それが、尿道を締める役割を持つ骨盤底筋の緩みにつながり、尿漏れや頻尿などの症状が現れるといいます。
こうした症状はかつては的確な治療法がなかったそうですが、近年では治療の技術が発達してきているといいます。

「かつては、死なない病気は病気ではないという時代も長く、尿漏れといっても医療で扱うものではありませんでした。医者の技術が追いついていなかった部分もあったのかもしれません。しかし現代では治療法も発達してきています。高齢化社会になり尿漏れが自分ごととして悩まされる人が増えて医療ニーズも高まり、情報も多くなったことで、医療や技術も進歩するという良い循環も起きています」(関口さん)
尿漏れに限らず、医療の進歩によって更年期の悩みを解決する方法は増えているので、我慢を続けてつらい思いをしなくてもよくなってきているといえます。
更年期女性の悩みに寄り添うアイテム
フェムテックでは、更年期の女性をターゲットにしたアイテムが拡大中。テクノロジーの進化により、尿漏れやフェムゾーン(腟と外陰)の不快感といった大人女性ならではの悩みを改善する商品やサービスが多く開発されています。

たとえば、尿漏れパッドや機能性ショーツなどが代表的です。特に、日本製の尿漏れパッドはクオリティーが高く、世界的にも注目されているそうです。漏れる量によってパッドの種類を選べたりと、こまやかな配慮が行き届いたさまざまな商品が出ています。
「ショーツも尿漏れが防止できるものや温活ができるものなど、機能性下着ながら見た目は華やかなものが増えています。骨盤底筋を支えるインナーウェアやサポーターなどもあるので、自身の悩みを解決するアイテムを探してみましょう」(山田さん)

「腟の健康を保つために、フェムゾーン専用の石鹸、クリーム、オイルなどでうるおいをプラスすることも大切です。また、腟トレや骨盤底筋エクササイズができるアイテムもありますね。また、自身のフェムゾーンの状態を知り、異変などに気づくためには、セルフプレジャーを行うこともよいです。セルフプレジャー用のアイテムも初心者向けのスリムなものや、部屋においてもかわいらしいリップスティック型のものが販売されています」(関口さん)
更年期のフェムテック市場の未来
まだまだ発展途上のフェムテック市場。中でも更年期に関することは、これからどうなっていくのでしょうか。
国も動き始めた!更年期市場の拡大に期待
更年期市場は大きいにも関わらず、解決するサービスや商品が、日本だけでなく世界的にまだ少ないと山田さんは話します。
「アメリカやヨーロッパではフェムテック市場は成長が期待されていることから、投資家からも注目されています。ベンチャー企業が成長しやすく、さまざまなアイディアを活かした商品が増えています。それらの新しい商品を輸入したり、国にも働きかけて日本にもよりよい環境を作っていくのが私たちの役目です。
また、悩みを抱える女性に、フェムテックにもっと頼ってもいいと思っていただけるよう、活動を広めていく予定です」(山田さん)
認定資格でフェムテックの知識を深める
フェムテックについて知りたい人には、日本フェムテック協会が認定資格の制度を行っています。1〜3級まで設けられており、3級では5分程度の選択形式のWebテストを無料で受講可能です。

例えば3級は、セルフケアのための情報や知識のベースとなる、生理やフェムゾーンケアなどさまざまなフェムテックの知識について。テストに合格すると「認定フェムテックアンバサダー」の資格を取得することができます。
「管理職の男性が資格を取得したことで職場の女性への理解が深まり、関係がよりよくなったというケースもあります。男女の垣根なくフェムテックの知識を深めることは、社会活動の中で役に立つといえますね」(山田さん)
◆教えてくれたのは:一般社団法人日本フェムテック協会代表理事・山田奈央子さん

大手下着メーカーで企画・開発を行った後、世界初の下着コンシェルジュとして独立。株式会社シルキースタイルを設立し、女性特有の悩みに寄り添ったインナー、コスメ、健康雑貨などの商品企画開発を17年間行う。自身の女性疾患もきっかけとなり、2021年に日本フェムテック協会を設立し、代表理事としてウィメンズヘルスリテラシーの重要さを雑誌・TV・企業・行政などで周知する活動をしている。2男児の母。
◆教えてくれたのは:一般社団法人日本フェムテック協会代表理事・関口由紀さん

女性医療クリニックLUNAグループ理事長、(株)フェムゾーンラボ社長、女性泌尿器科医師、医学博士、経営学修士、横浜市立大学客員教授、日本泌尿器科学会専門医、日本東洋医学会専門医、日本性機能学会専門医、日本排尿機能学会専門医。2006年に横浜元町女性医療クリニック・LUNAを開業。2022年に女性のためのインターネットサイト「フェムゾーンラボ」を開設し、『女性のからだの不調の治し方』(徳間書店)など著書も多数。www.luna-clinic.jp
撮影/小山志麻 取材・文/イワイユウ