
日々の健康のため、と思って毎日しっかりとっている三度の食事が、実は体を疲れさせ、消化や排泄に悪影響を及ぼしている可能性がある--。「排出」がスムーズにいかなくなるとメンタルへの悪影響が出てくると話すのは、『メンタルは食事が9割』(アスコム)の著者で、うつを食事で克服したという精神科医の宮島賢也さん。体を疲れさせない食事でスムーズな排泄を促すことの重要性と、具体的な食事法を教えてもらいました。
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三度の食事は体に負担をかけている
3食きちんととることで、体に必要な栄養を摂取し、体を元気にさせていると思いがちですが、むしろ食べることは体を疲れさせる行為であると宮島さんは話します。食べることで体が疲れてしまうというのはどういうことなのでしょうか。
「栄養を体に行き渡らせるには、消化吸収が必要です。その前段階として食べ物の分解も必要です。つまり、食べることは、胃腸や肝臓など消化器官に負担をかける行為でもあるのです。体は、胃腸や肝臓に頑張って働いてもらうために、大量の血液を送らなければなりません。
それと同時に、消化酵素など、大量の体内酵素も動員されます。酵素は、栄養の消化吸収、そして分解とすべてにわたって必要な体内物質だからです。消化吸収の担い手は、この酵素といってもいいと思います」(宮島さん・以下同)

かなりの活動エネルギーを必要とする働きが起こるため、消化器官からすれば、食べることは一大イベント。食べているときより、食べた後のほうが疲れてしまうのだそうです。満腹まで食べることが多ければ、それだけ胃腸や肝臓に負担がかかります。
「一説によれば、三度の食事は、フルマラソンに匹敵する消費カロリーともいわれます」
体内酵素は生産量に制限あり。食品酵素の摂取が不可欠
栄養をきちんと摂取するための消化活動に不可欠な酵素。酵素は大きく分けて、人間の体内で作られる体内酵素と、食べ物に含まれる食品酵素の2種類があります。しかし、体内酵素には生産量に限りがあり、体内酵素は使えば使うほど枯渇してしまうそうです。その不足分は食べ物から摂る必要があると宮島さんはいいます。

「加熱した食品に酵素はありません。逆に、生の食品にはすべて酵素が含まれています。野菜や生野菜に限らず、肉や魚、卵も、加熱されず生の状態であれば酵素は含まれています。
しかし、肉や魚のように高たんぱく質、高脂肪の食べ物は、消化に時間を要します。肉や魚は、たとえ生で食べても体に負担をかけやすいのです。少し専門的にいえば、高たんぱく質、高脂肪の食品は分子構造が複雑なために分解するのに多大な労力を必要とします。その労力とは酵素にほかなりません」
果物と生野菜で食品酵素を摂取
たとえ肉や魚を生で食べて食品酵素を摂取したとしても、分解する際には大量の酵素が必要に。そこで、食品酵素を効率的に得る方法として宮島さんがすすめているのが、酵素をたっぷりと摂ることができる果物と生野菜中心の食生活です。
「しかも果物や野菜には、ビタミン類、ミネラル、糖質のほか、脂質、たんぱく質、抗酸化成分であるポリフェノール類までバランスよく含まれているものが多くあります。果物や生野菜は、実は体にやさしい『栄養の宝庫』といっても過言ではないでしょう」

果物や生野菜には体に吸収されやすい水分が豊富に含まれている点も、果物と生野菜のおすすめポイント。「果物、生野菜なら、いくら食べてもOK。好きなだけ食べてください」と宮島さん。
「普通は加熱して調理するごぼうでも、生でガリガリ食べました。そして果物もよく食べるようにしました。りんご、バナナ、オレンジ、キウイ、果物であればなんでもよいのです。とくに朝は数種類の果実を用意しておいて、お腹がすいたら食べるようにしていました。我慢しない。これが宮島式食事法の特徴でもあります」
午前中の排出で生理サイクルを整える
果物や生野菜でしっかりと食品酵素を摂取。宮島さんが提唱する宮島式食事法では、午前中を排出の時間ととらえ、特に朝食で果物や生野菜を食べることをすすめています。
「ぼくの場合、朝は果物だけを食べることにしました。毎朝、果実を3~4種類用意して、ほかの食べ物は食べないことにしたのです。用意する果実の種類や量は適当で、たくさん食べることもあれば、バナナだけという日もありました。どんな時間に何を食べるかさえ守れば、量は好きなだけ食べていいのが宮島式。『お腹が減ったら、好きな果物を食べよう』そう思うと心に余裕が出てきます」
毒素の排出で自律神経が整う
体は朝目覚めると、便や尿、体の老廃物といった「毒素」を体外へ出そうとします。この毒素の排出がきちんと行われることで、生理リズムが整い、気持ちよく一日を過ごすことができると宮島さんは言います。
「たとえば、朝起きると痰を出したくなったりします。これも一種の毒素の排出行為であり、体は、こうした排出、排泄行為を通じて自律神経の切り替え(リラックス系の副交感神経から活動系の交感神経への切り替え)をスムーズに行おうとします。朝、すっきり排便できると気持ちもスッキリ。一日をアクティブに過ごそう、仕事も頑張ろう、そんな気持ちが自然とわきあがってくるのは、排便によって自律神経の切り替えがうまく行われた証拠ともいえます」

一方で、排便を含め毒素の排出がうまくいかないと、交感神経への切り替えができず、なんとなく調子が出ない、気分が乗らない、といった状態を引き起こしやすくなります。
「朝は腸の排便運動を妨げない食品をとることがポイントになります。その点、果物は理想的な食べ物です。なぜなら、果物には、酵素が豊富なため、消化に負担をかけず(消化を助けるといってもいいでしょう)、その結果、腸の排便リズム、排便機能が邪魔されないのです。体の自然な生理サイクルを狂わすことがありません」
果物は果物だけでとるのがおすすめ
消化に負担をかけず、生理サイクルを狂わせない、果物の朝ごはん。このとき、果物とほかのものを合わせず、果物だけを食べたほうがいいと宮島さんは言います。
「たとえばごはんやパン、肉などを一緒に食べると、でんぷんやたんぱく質の消化に時間を要し、その間、果物は消化を待たなくてはならないからです。このとき果物は腐り始めてしまいます。体は、食べ物に含まれる栄養素をすべて吸収できるわけではありません。果物にはさまざまな栄養素が含まれていますが、胃の中で発酵してしまうと栄養分が損なわれます。発酵するとガスが出る原因にもなります」
体を元気にする理想的な朝食レシピ
果物をそのまま食べるのはもちろんのこと、朝は野菜や果物をジュースにして飲むのもおすすめと宮島さん。ジュースだとさっととることができるため、忙しい朝にもぴったりです。宮島さんおすすめの献立を一例として教えてもらいました。

◆果実と生野菜たっぷり!「小松菜とりんごのスムージー」レシピ
《材料》(2人分)
小松菜…3株(100g) りんご…1/2個 水…1と1/2カップ オリゴ糖など…適宜
《作り方》
【1】小松菜とりんごを一口大くらいに切り、水と共にミキサーに入れて撹拌する。オリゴ糖を入れて、お好みで味を調整する。
酵素を補う「ミニトマトとグリーン野菜のサラダ」レシピ
《材料》(2人分)
ミニトマト…6個 レタス類…適宜(約80g) ザワークラウト…適宜(約100g) オリーブオイル・塩・こしょう…各適宜
《作り方》
【1】レタスをちぎって器に盛り付け、食べやすく切ったミニトマトとザワークラウトを盛る。お好みで、オリーブオイルと塩・こしょうを振りながらいただく。
「野菜ジュースに、オレンジやりんごなどの果物を混ぜて、ミックスジュースにするとおいしさが増します。あるいは、野菜ジュース、果物のジュースと豆乳を混ぜて、豆乳野菜ジュースや豆乳野菜果物ジュースにする方法もあります。豆乳を加えると腹持ちがよくなるのと、大豆に含まれるイソフラボンがホルモンのバランスを整えます」
◆教えてくれたのは:精神科医・宮島賢也さん

みやじま・けんや。精神科医・産業医。防衛医科大学校卒業。研修中、うつ病の診断を受ける。自身が7年間抗うつ剤を服用した経験から「薬でうつは治らない」と考え、食生活と考え方、生き方を変え、うつ病を克服。その経験を踏まえ、患者が自ら悩みに気づき、それを解決する手伝いをする方向へと転換。うつの予防と改善へ導き、人間関係を楽にする「メンタルセラピー」を考案する。著書に『メンタルは食事が9割』(アスコム)など。