
お金の話は親としづらいものですが、いざというとき頼るのはやはり親という人が多いのではないでしょうか。さらに、元メガバンクの支店長を務め『一生お金に困らない!新・お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)を上梓した菅井敏之さんは、親とお金の話をすることが親孝行のきっかけになると話します。詳しくうかがいました。
【目次】
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自分の人生に必要なお金がどのくらいか把握する
「家族全員で『未来』を考える」ことが親孝行になると話す菅井さん。未来を考えることにおいて、まずライフプラン表を作ることが重要なのだそうです。
ただお金を貯めるだけでは意味がない
菅井さんは銀行員時代に、家をリフォームしたり、旅行に行ったり、おいしいものを食べるわけでもなく、財産を渡す子どもがいるわけでもないのに、一生懸命貯金だけを増やしているという人を呆れるほど見てきたといいます。
「ただお金を貯めるだけでは、なんの意味もない。3000万円貯めようが3億円貯めようが、墓場や天国に持っていけるわけではありませんから」(菅井さん・以下同)
ライフプラン表を作る
そこで菅井さんが提案するライフプラン表とは、“○年に長男が進学するために○円”“○年に車の買い替えのために○円”“○年に海外旅行の費用が○円”“○年に退職金が○円くらい入る予定”“○年から年金が○円、毎月の生活費が○円”…というように、家族の年齢ごとのライフイベントを書き出し、収入と支出の予定額をまとめたものです。

「すると、いつ、いくら必要になるか、わかります。自分の夢を実現するためには、いつまでに、いくら貯めないといけないかも、見えてきます」
ライフプランに必要なのはゴール
現在から未来へ連なるライフプランを作る上で必要なのはゴールです。そこを目指して、資金計画を立てることで必要な貯金と余裕が見えてきます。
「例えば、『将来、子どもの世話にならず人生を終える』というゴールを設定し、80歳で老人施設に入る想定をした場合、「調べると夫婦で入居費1000万円。毎月の費用が20万円。年金が月10万なら、10年間で2200万円くらい必要と計算できる」
「いま、60歳で貯金が1000万円あるから、20年で1200円貯めなくてはならない。どうするか、というように資金計画を立てるのです」

具体的な期間と金額が見えることで、いざというときに困ることを防ぐことができます。さらに、必要なお金を貯めながら、旅行など楽しみな計画にお金を使うことができる可能性もあります。やみくもにお金を貯めるよりも、人生を充実させるお金の使い方ができるようになるのです。
家族のライフプランを親に見せる
老人ホームの話まで考えられないという場合は、定年後のプランでも構わないそうです。そして菅井さんは、現在の資金内容や子どもの教育資金の必要額なども記載したライフプランを親に見せることを推奨します。
「もし私が息子にこれを見せられたら、『こいつ、家族のことをしっかり考えているんだな』と感心するでしょう」
事業計画表(=ライフプラン)で親に心配をかけないようにする
「ライフプランは、企業が銀行に融資を頼むときの「事業計画表」に似ています」という菅井さん。
「『フレンチの店をオープンしたい。一流シェフを雇う予定なので、開店資金1000万円を貸してくれませんか?』こういわれても、銀行はお金を貸しません」
銀行からお金を融資してもらうには、いつ、どのくらいの規模の店をオープンするのか、売り上げと経費の概算、あわせて返済計画や客を呼ぶための施策など、数字を出して具体的な計画を提示し、「信用」を得ることが必要なのだそうです。

「親に対しても同じです。親だからと甘えて『いざとなれば500万円くらい出してくれるだろう』なんて思っていてはダメ」
家族の「事業計画書」(=ライフプラン)を提出し、「正直10年後にピンチを迎えそうだから、500万円くらい援助してほしい」などと、事前に相談しておくことで親に信用してもらうことができ、安心させることができるでしょう。
親のライフプランも書き込む
さらに大切なこととして、自分たち家族のライフプランに親のライフプランを書き込んで行くとよいそうです。
「これこそ、『親のことを大切に思っている』という強いメッセージになります。親はとてもうれしいはずです。自分と子どもと孫。そこに一体感が生まれ、自分も家族の一員であると再認識できますから」
たとえば年祝い(古希・喜寿・傘寿・米寿・卒寿など)や親の○歳記念の家族旅行など、親が主人公になるイベントの計画をたてて、ライフプランに書き込みます。その費用も記載し、積み立てや分担をどうするかを、例えばお正月など定期的に話し合うといいでしょう。
「私は父がなくなる前、こうして計画を立て、『最後に行きたい』という特攻隊基地があった鹿児島の知覧に連れていきました。とても喜んでくれました。親は子どもが自分のために計画し、段取りしてくれることが、なによりうれしいんです」
親のための計画をきっかけにやりとりすることが親孝行に
自分のために子が立てた予定があるだけでなく、それにともなって子からマメに連絡が来たり、顔を見たりすることが親にとっての楽しみになるでしょう。

菅井さんは毎週土曜日の朝8時に親に電話をすることを習慣にしていたそうです。
「『元気?』と確かめたあと、大体旅行の話になって『箱根と決めたんだけど、やっぱり房総のほうにしようか』と、よく話していました。前週と同じような話ですが、それが結局、親とのきずなを保ち、円満な家庭をつくっていきます」
お金を借りるにしても、イベントごとで親を喜ばせるにしても、地に足のついたライフプランを元に信頼関係を築いておくことが親孝行になるでしょう。
◆教えてくれた人:菅井敏之さん

すがい・としゆき。1960年、山形県生まれ。学習院大学卒業後、1983年に三井銀行(現・三井住友銀行)へ入行。個人・法人取引、およびプロジェクトファイナンス事業に従事し、2003年に金沢八景支店長(横浜)、2005年に中野支店長(東京)に就任する。48歳で銀行を退職したのちアパート経営をスタートし、現在は10棟80室のオーナー。銀行を舞台にしたテレビドラマの銀行監修を務めるほか、報道・情報番組などのメディアにもお金の専門家として出演している。著書『お金が貯まるのは、どっち!?』シリーズ(アスコム)はシリーズ52万部を突破。https://toshiyukisugai.jp/
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