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クセの強い役を極める岡田将生、新作映画で演じた冷酷な殺人鬼役は「新しい一面」と言えるのか?

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
新作映画で演じた冷酷な殺人鬼役(C)2024 GOLD BOY
写真9枚

岡田将生さん(34歳)が主演を務めた映画『ゴールド・ボーイ』が3月8日より公開中です。沖縄を舞台とした本作は、冷酷な殺人犯と、その殺人犯に頭脳戦を挑む少年少女たちの攻防を描いたもの。衝撃的な展開が最後の最後まで続く、緊張感あふれる作品に仕上がっています。今回は、本作の見どころや岡田さんの魅力について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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岡田将生が殺人鬼に!

本作は、中国のベストセラー作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)による『バッド・キッズ(坏小孩)』を原作とし、金子修介監督が映画化したもの。

金子監督といえば、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)をはじめとする平成ガメラシリーズや『学校の怪談3』(1997年)、『デスノート』シリーズ(2006年)など、数々の名作を手がけてきた映画人。そんな彼が岡田さんを主演に迎えて描くのは、殺人犯と子どもたちの手に汗握る頭脳戦です。

映画『ゴールド・ボーイ』ポスタービジュアル
(C)2024 GOLD BOY
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完全犯罪を遂行したつもりが、まさかの子どもたちに目撃されていました。しかもその子どもたちは度胸があり頭もキレる。先の読めない攻防が繰り広げられるのです。

恐ろしい殺人鬼VS恐るべき子どもたち

事業家の婿養子であり、義父母を崖から突き落とした男・東昇(岡田)。彼はある目的のため、この犯行に及んだのです。

人当たりのいい好青年である彼のことを疑う人間はほとんどいない。知能数が非常に高い東にとって、これは“完全犯罪”となるはず。

ところが、偶然にもこの光景をカメラで捉えている子どもたちがいました。普通であれば恐怖しながら警察に駆け込むところですが、家庭環境による貧困などの問題をそれぞれに抱える彼らは、あろうことか犯人を脅迫して大金を得ることを画策します。

お金さえあればすべての問題は解決する――そう考えているのです。それに、少年法によって、14歳までは何をしたとしても捕まることはないと考えています。

こうして恐ろしい殺人鬼と恐るべき子どもたちの、命懸けの駆け引きがはじまるのです。

新星・羽村仁成、黒木華らがアンサンブルで魅せる

“殺人鬼VS子どもたち”の関係が、緻密な構成とスリリングなストーリーテリングで描かれている本作。これを成立させる面々として、まだ10代の若手から、ベテラン勢までが集っています。

岡田さん演じる殺人鬼・東昇に挑戦しようと画策する子どもたちのリーダー的存在・安室朝陽を演じているのは、アイドルグループ・Go!Go!kidsのメンバーである羽村仁成さん。まだ16歳の俳優ですが、そのキャリアはすでに10年以上。子役期から活動している存在なのです。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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映画への出演はこれが2作目ですが、昨年公開された話題作『リボルバー・リリー』でも主要な役どころを務めていたこともあり、その姿が印象に残っているかたは多いのではないでしょうか。本作での彼の役どころは、主人公の東と同様に非常に高い知能を持った少年。徐々に本性をあらわにしていくさまを繊細に演じ、主演の岡田さんと堂々と渡り合ってみせています。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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そんな羽村さんが演じる朝陽の母に扮しているのが、黒木華さんです。放送中の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)での華やかな演技も好評な彼女が、ここでは女手一つで苦労しながら息子を育てる母親の姿を、とても控えめな演技で体現しています。この安室香というキャラクターの視点が入ることで、本作はより多層的な作品に。そのような重要な役割を、黒木さんは担っているのです。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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さらに、東の妻・静を松井玲奈さん、朝陽の父親・打越一平を北村一輝さん、静の従兄弟にして刑事でもある東巌を江口洋介さんが好演しているほか、朝陽の仲間の子どもたちに星乃あんなさんと前出燿志さんが配され、それぞれのポジションで個々のポテンシャルを発揮。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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この座組を主演俳優として率いているのが、岡田さんというわけです。

岡田将生の新しい一面……?

岡田さんといえば2000年代にデビューを果たして以降、絶えずエンターテインメント界のトップを走り続けている俳優だといえるでしょう。

ドラマだと、キャリア初期には『生徒諸君!』(2007年/テレビ朝日系)に出演していて、映画化までされることになった人気シリーズ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年/カンテレ・フジテレビ系)などに出演。

映画では『告白』(2010年)に『悪人』(2010年)、『銀魂』シリーズ(2017年~)、さらには『Arc アーク』(2021年)や『ドライブ・マイ・カー』(2021年)といった海外から注目される作品にも出演し、“話題作”と呼ばれるものには必ずといっていいほど岡田さんの存在がある気すらします。

そんな岡田さんに対して、みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか。バツグンに演技が上手い俳優だという認識をお持ちのかたは多いことでしょう。これは基本的に個人の好みに拠るところが大きいものですが、演劇作品における彼の生の演技を目の当たりにすれば、誰もが「上手い!」と唸らずにはいられない。が、ここで言いたいのはそのことではありません。近年の彼の俳優としての傾向のことです。

本作ではサイコパス的な性質を持った殺人鬼を演じ、新しい一面をのぞかせているともいえるようです。しかし筆者としては、特別に新しい一面を披露しているわけではないと思うのです。

特異な役どころを極める

近年の岡田さんが演じるキャラクターの傾向として、誰も彼もが非常に個性的というか、ある種のクセの強さを持った者たちだということが挙げられます。『大豆田とわ子と三人の元夫』で演じたひねくれ者の弁護士役がそうですし、『ドライブ・マイ・カー』で演じた性格に難のある若手俳優役もそうでしょう。端的にいうならば、周囲の人々と比べたときにその個性が際立っているのです。

思い返せば、朝ドラ『なつぞら』(2019年/NHK総合)では空回りしては妹に迷惑をかける青年を演じていましたし、2021年公開の『CUBE 一度入ったら、最後』では精神的に脆く、パニックに陥ると行き過ぎた行動を取ってしまう若者を演じていました。作品のジャンルや役のタイプは大きく違うものの、いずれもクセの強いキャラクターたちでした。

映画『ゴールド・ボーイ』場面写真
(C)2024 GOLD BOY
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今回の『ゴールド・ボーイ』で演じる東昇は、確固たる美学と哲学を持った特異な人物。ほとんど顔色を変えることなく、平然と殺人を犯します。個性の強さやクセの強さでいえば、これまでに岡田さんが演じてきたキャラクターたちの延長線上にあり、その最たるものだともいえます。

本作における岡田さんの演技はかなり抑制の効いたものです。感情的になることは少なく、そもそも感情というものがどこにあるのか分からない。それでいて周囲の登場人物たちに対しては好青年を演じているわけですから、つまりは劇中でも演じているわけです。これを成立させるためには、冷静かつ俯瞰的な視点が必要でしょう。作品の全体像の中に東昇というキャラクターをどのように置くのかが要。まだ経験の浅い若手俳優陣を立てることも、本作においては重要です。

『ゴールド・ボーイ』で岡田さんが手にしたのは、“新しい一面”ではなく、俳優としてのポジションの築き方なのではないかと思うのです。

東昇の存在からメッセージを読む

サスペンスである本作には、いくつもの大きな仕掛けが施されています。だから観客は先の展開を読むことができないし、最初から最後までスリルを味わうことができる。その仕掛けについて触れるのは控えておきましょう。

ただひとついえるのは、主人公の東昇と対峙する子どもたちに、観客の誰もが肩入れせずにはいられないだろうということ。殺人鬼を脅迫するくらいですから、少年少女もまた道を誤ります。ですが、東のバックグラウンドが描かれないのとは対照的に、少年少女らの場合は描かれます。そしてそれが、罪を犯す理由につながってくる。だからといって、子どもたちが罪を犯すのはしょうがないと述べたいわけではありません。

劇中では描かれない東のバックグラウンドがどのようなものであるのかを、鑑賞後に想像する人は、どれくらいいるでしょうか。

何か想像を絶するような事件が起こった際、当事者ではない人々の多くがそれを、“ニュース”として消費します。そこで非当事者の私たちにできるのは、想像することなのではないでしょうか。

本作は完全なるエンターテインメント作品ですが、じつはそういったメッセージも込められているように思うのです。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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