女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第69回は、寧々さんの母親が突然言い出したことから行くことになった「福井旅」について。
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朝から夜まで連日撮影が続いていて、睡眠もずっと3時間くらいの日々。 疲れているが、6日後の二日間の休みを目指して何とか頑張っていた。そして、いよいよ明日は休みだ~と思った日…夫が「ばあばが明日一人で一泊福井に行くって言ってるんだけど…」とポツリと言った。ひえ~と思った。母は言い出したらきかない。大阪に住んでいた母は戦時中に数年間福井に疎開していた。 幼少期のたくさんの思い出があり。その景色を急に見たくなったらしい。
86歳、一人で新幹線。後はタクシーで行くと言っているらしい。心配すぎる…夫が、「自分はしばらく休みだから、一緒に行ってレンタカーで回るよ」と言ってくれる。優しい。しかし、自分の母のことなので申し訳なさすぎる。これは、これはもうもう行くしかない~~~! 結局母と夫と私の三人で行くことになった。
「疎開していた家が見たい」
母はいつも夕方には寝て、夜中にはもう起きている。なので、予約してある新幹線の時間も朝早い! 頑張って朝5時に起きるから、またしても睡眠不足だ。東京駅でお弁当を買う。色々な種類があって、母はまるで遠足に行くみたいに楽しそうだ。
久しぶりの北陸。北陸新幹線は私が爆睡している間に、目的の駅に着いた。3月に開業したばかりの新駅で、きれいな駅だった。北陸新幹線が延伸して、母は住んでいた場所の近くに駅ができたのを知り、行きたくなったのかもしれない。
疎開していた家が見たいと言う。80年ぶりらしい。果たして家はまだあるのだろうか? 景色はどうなっているのだろう。そういえば、祖父がやはり昔住んでいた場所に行きたい!と言いだした事があり、母や叔父や 従兄弟と岡山に行ったのだが、景色が変わっていて、祖父は「違う!」と悲しそうに怒って大変だった。
今回はどうなるのだろう。夫がネットでレンタカーを予約してくれていた。無人の駐車場でスマホと車をBluetoothで繋げてレンタル開始。ロックやロック解除もアプリで行う。私一人だったら、あたふたしただろう(笑)。すごい時代でまさに未来だ。そんな未来から80年前の記憶を辿って当時住んでいた地域を目指す。後部座席の母は嬉しそうに、キラキラした目で窓から景色を見ている。まるで少女時代に戻っているかのようだ。
(次回に続く)
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。