時間もお金も節約主義の薄井シンシアさん(65歳)は、外交官の妻をしていたときに「ルイ・ヴィトン」のバッグを購入した。それにはシンシアさんならではの合理的な理由があったという。子育てが終わり、専業主婦から再就職し、キャリアアップを重ねていた17年間には「カルティエ」の腕時計も購入。シンシアさんが大きな買い物をするときの目的を聞いた。
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「ルイ・ヴィトンのバッグは目立つから」
私は高級なブランド品をほぼ買いませんが、ステータスが必要なときもあるので、それなりに持っています。ブランド品は、セールをしないものや値下げしないものを選びます。
夫の駐在でウィーンに住んでいたときはルイ・ヴィトンのバッグを買いました。
当時のウィーンはすごく保守的で、人を見た目で判断するところがありました。例えば、ハムやチーズ屋さんで買い物をするとき、日本ならラップを手に取って、自分で選ぶかもしれません。けれどもウィーンでは、客がカウンターの前に並んで立ち、店員から指名されるのを待つのです。
先着順に呼ばれるかというと、そうでもない。結構、意地が悪いと感じることも多くて、見た目で判断されることもある。お金持ちそうな常連を優先するんです。だから私は買い物へ行くとき、上から下までバシッと決めた服装で行きました。遠くから見て、一目でブランドが目立つバッグはルイ・ヴィトンでしょう? だから私は、「お金を落とす人」に見せて、買い物を手早く済ませるためにルイ・ヴィトンのバッグを買いました。見た目で判断する人たちへの対抗策です。
営業用にカルティエの時計
時間の管理はカルティエの腕時計、スケジュール管理はiPhoneを使っています。腕時計は15年ほど前、外資系ホテルの営業をしているときに買いました。
ここがたぶん私のすごく冷たいところですが、すべてはツールなのです。やっぱり営業をしていると、そこそこ良い時計をしないと相手から下に見られてしまいます。だから営業のツールだと割り切って買いました。
でも、腕時計をとっかえひっかえしたくはありません。だから、どんなアクセサリーにも合わせやすいシルバーとゴールドの両方が入っているデザインで、カルティエのタンクの時計を買いました。腕時計は、その一つしか持っていません。その当時で30万円か40万円ぐらいでした。それ以外は持たないから、コスパは良いほうだと思います。
余談だけど、ニューヨークに住んでいたとき、台湾人の友人から「ティファニーで時計でも買ったら?」とすすめられたことがありました。でも、そのときは買いませんでした。
買わなかったティファニーの時計
アメリカでは借家を探すとき、不動産屋さんに手数料を払わなければなりません。外務省の場合、手数料は自腹でした。当時のニューヨークのマンションの相場が月額3500ドルぐらいだったから、手数料はその2か月分の7000ドル。私はお金がなかったので、なんとか、そのお金を節約したいと思いました。
そこでまず、職場に近くて治安が良い、自分たちが住めるエリアを40丁目から52丁目までにしぼりました。その範囲のすべてのマンションに入って、 ドアマンに「ここに空いている部屋はありますか? 紹介してくれたら高額なチップあげるよ」と言って回りました。そうやって7000ドルを支払わずに良い部屋を見つけたのです。
それを台湾人の友達に話したら、「すごいね。7000ドル近くも節約したんだからティファニーで時計を買ったらいいよ」とすすめられたのです。でも当時の私は専業主婦。いくら7000ドルを節約したとはいえ、自分で稼いでいないのに、余計な買い物をするのは、はばかられるでしょう? だからカルティエの時計を買ったのは、それから20数年後になりました。
アレクサにいたずら心で質問をしてみる
デジタル機器にも興味はあります。アマゾンのAIアシスタント「Alexa(アレクサ)」が家にありますよ。買った理由は、「世の中で騒がれているアマゾンプライムってなんだろうな」と思って調べたら、アレクサが検索画面の一番上に出てきたから。当時、3000円ぐらいだったので、「これでも買ってみようか」と買いました。
私は買ったら無駄にせずに使う性格なので、まず、音楽をかけてみました。あとは天気やニュース、為替レート、タイマーとして使っています。時々、いたずら心で「こういう質問をしたら、なんて答えるんだろう?」と実験してみることもあります。もっといろいろ教えれば活用できるんだろうけど、今はそんな感じですね。私はグロスマインドセット(人間の能力は、努力次第で伸ばせるという考え方)が大事だと思っているから、新しいものに対しては柔軟です。
◆薄井シンシアさん
1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ
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