「医者は病気を治せない」と話すのは、『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)を上梓した医師の川嶋朗さん。基本的に医師ができることは、一時的に病気を抑え込むことだけだという。そこで、川嶋さんが考える医師の役割と、病気を治すために患者側ができることについて教えてもらった。
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医師ができることは「病気を一時的に抑え込むこと」
病気になったら病院に行けばなんとかなる、と思いがちだが、「医師はあなたの病気を治すことはできません。医師は命を救うのが仕事ですが、根本原因がわからなければ『治せる』とは言えないからです」と川嶋さん。多くの生活習慣病やがんはその根本原因がわかっておらず、原因がわからなければ、医師ができることは「薬や治療法を使って、その病気を一時的に抑え込む」ことだけだという。
「延命することはできても、原因がわからない限り、その病気を治すことはできません。医療技術は日進月歩で進化していますが、症状を抑える治療をしたり、薬を出したりすることを繰り返すだけなのです」(川嶋さん・以下同)
西洋医学の欠点を補う補完代替医療
現代の西洋医学は急性疾患や感染症などの原因究明と治療方法の開発によって発展してきたが、生活習慣病などの慢性疾患や原因不明の病気などには治療方法が見つかっていないという例が少なくない。
伝統的な西洋医学の手法の欠点を補い、患者を全人的に治療できる補完代替医療は欧米を中心に進んでいる。一方、日本では保険診療制度に漢方が部分的に組み込まれる程度で、医療現場では西洋医学が主流をなしている。
「こうした状況のなかで、私は世界的にも関心が高まっている補完代替医療に、西洋医学的アプローチを含めた統合医療に関心を持ち、医療の現場で実践してきました」
医者の役割は患者が持てる選択肢を増やすこと
川嶋さんの考える統合医療とは、西洋医学でカバーできない部分を他の手段でカバーするもので、現代西洋医学では一般に用いられていないことでも患者一人一人の立場になって選択して提供するものだという。
患者の希望は「早く治したい」「完全に治したい」「痛くない」「治療費が安い」といったものであり、こうした希望を持つ患者に合致した治療法を提供するのが医師の役割であると川嶋さんは話す。
「この観点からすれば、患者さんにとって西洋医学、東洋医学、補完代替医療などの区別は本来関係がないものです。患者さんにとって、より安全で効果のある方法が最優先となるのです」
自分の健康は自分の努力の積み重ね
医者は患者の健康のため、できる限りのことをするが、元気でいたいのであれば、自分の間違った生活習慣を正すのが第一歩。「誰かが何かをしてくれる。そういう考えを正さないと、病気は治るはずがありません」と川嶋さんが語るように、医者ができるのは根本的な治療ではなく、患者が治っていくために背中を押すことだという。
自分で治療を選ぶ
「医師の偏った価値観の押し付けが、残念ながら多くの病院で起きています」と川嶋さん。患者は医師を仰ぎ見るような関係性がはびこり、自分の希望する治療方針でなくとも、医師にそれを伝えられなかったり、伝えても受け入れてもらえなかったりといったことが起きているという。
この背景には、患者の体を預かる医師としての責任感によるものもある一方、患者側にも過剰な遠慮があるのではないかと川嶋さんは言う。
「自分が行っていない治療が適していると思えば、私は患者さんにそう話します。患者さんもまた、医師の言いなりになって治療を受けるのではなく、自分自身で自由に治療を選ぶべきです」
不安や疑問は医師にぶつける
治療について後悔しないためには、医師の言うことを鵜呑みにせず、必要に応じてセカンドオピニオンを求めることもためらわない心構えが患者側に必要だ。
「自分の体のこと、病気のことなのですから、不安があれば十分に納得がいくまで医師に聞いたほうがいいと思います。他人の言いなりになって悪い結果になったら、悔やんでも悔やみきれないということになるからです」
医師は専門家だから素人が口をはさむべきではない、と考える人もいるが、きちんと自分の意思を持って治療方針を決めることも大切と言えそうだ。
◆教えてくれたのは:医師・川嶋朗さん
かわしま・あきら。神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授。統合医療SDMクリニック院長。北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学入局。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院などを経て2022年から現職。漢方などの代替、伝統医療を取り入れ、西洋近代医学と統合した医療を担う。著書に『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)など。https://drs-net.com/profile/