健康・医療

在宅ホスピス医が教える、希望通りの在宅医療を受けるための準備「人生会議」と介護の負担を減らす10か条

家族会議
希望の在宅医療を叶えるための「人生会議」とは?在宅ホスピス医が解説(Ph/photoAC)
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人生の最期は住み慣れた自宅で過ごしたいと考える人は多くいるが、希望通りの在宅医療を叶えるためには、しっかりと準備をしておくことが必要だ。そこで、『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)を上梓した在宅ホスピス医で僧侶の小笠原文雄さんに、人生の最期を自宅で過ごすために知っておきたいことを詳しく教えてもらった。

ACP(人生会議)を行っておく

人生の最期を自宅で過ごすためのポイントの1つは、「ACP(人生会議)」をやっておくことだと小笠原さんはいう。

ACPとは「Advance Care Planning」の略で、患者に関わる人が話し合い、患者がどのように生きたいのかを皆で共有する会議だ。医療を受けるときは、医師の説明のもと、本人が納得して希望する医療を受けることが原則だが、病気や怪我の具合によっては自分の意思を伝えられなくなる場合がある。

「自分の意思を伝えられなくなったときに受ける治療について、本人が家族や医療従事者、ケアマネジャーなどと前もって話し合って共有するために、ACPを行うのです」(小笠原さん・以下同)

小笠原内科のACP6か条

小笠原さんが院長を務める小笠原内科では、次のACP6か条を掲げている。

【1】家族の意見をとりまとめる人が、必ず参加する
【2】患者さんに関わる人はできる限り参加する
【3】何度も繰り返し行う
【4】参加できなかった人にも内容を伝える
【5】延命処置を希望しない人は意思表示の書面を作っておく(もしくはACPのときにはっきり伝える)
【6】本人が話せる環境を作る(周りが答えを誘導しない、体調がいいときに行う、信頼関係ができている訪問看護師が必ず立ち会う、など)

ACPに参加するのは、患者の家族に加え、医師、訪問看護師、歯科医師、薬剤師、療法士、管理栄養士、ケアマネジャー、介護職、福祉用具専門相談員などで、民生委員や町内会長、親族が呼ばれることもあるという。

医者など
ACPには医師をはじめとしたさまざまな人が参加する(Ph/photoAC)
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「このように、たくさんの人を集めてACPを行うのは、『最期まで家にいたいという願いをかなえてあげたい』、『最期に苦しんでほしくない』と思うからです」

ACPは繰り返し行うこと

小笠原内科のACP6か条にもある通り、ACPは繰り返し行うことが大切だという。

「病気でも普通に歩くことができたときと、歩けなくなったときとでは、患者さんの気持ちが変わりがちです。人の気持ちは、そうそう割り切れるものではないのです」

在宅医を見つけておく

自宅で過ごすためには、在宅医を見つけておくことも大切だ。在宅医療で大切なのは信頼関係であり、どんな質問でも丁寧に答えてくれる、本音で話してくれるなど、最後までお世話になりたいと思える医師を選ぶのが重要だ。

「信頼関係が築けないと感じたら、交代する勇気も必要です」

在宅医選びは「かかりつけ医」を見つけるところから

在宅医を選ぶときは、まず信頼できる「かかりつけ医」を見つけることが欠かせない。日本医師会では、「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のこと」を「かかりつけ医」と呼んでいる。

女医
まずは信頼できるかかりつけ医を見つける(Ph/photoAC)
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「まだ通院ができるうちに、信頼できるかかりつけ医を見つけましょう。かかりつけ医が在宅医療を行っていない場合は、『先生のご家族が在宅医療を希望されたら、どの先生にお願いされますか?』と尋ねてみましょう」

スキルと患者の状態がマッチしている在宅医を選ぶ

在宅医を選ぶ際は、在宅医のスキルと患者の状態がマッチしているかを見極めることも大切だ。原則、24時間対応している在宅医で、末期がんの人であればモルヒネを使い慣れている在宅医、心不全の人は心不全の専門知識のある在宅医、腎不全で人工透析が必要な人は家で腹膜透析ができる在宅医を選ぶのがおすすめだ。

また、在宅医療をしている診療所の中には、在宅緩和ケア充実診療所などとして厚生労働省に認定されているところもあり、この認可の有無も参考になる。

「こうした診療所については、各都道府県の健康医療局や医療整備課、医療政策課、あるいは医師会などに問い合わせるといいでしょう。また、ホームページで紹介している自治体もあります」

「介護の負担を減らす10か条」を知っておく

在宅医療では必ずしも家族が介護をする必要はないが、介護をしたいと考えるケースもある。そうしたときのために、「介護の負担を減らす10か条」を知っておき、介護をしたい家族に共有しておくといいだろう。

《介護の負担を減らす10か条》
【1】介護保険を上手に使う
【2】ACP(人生会議)を繰り返し行う
【3】PCA(患者自己調節鎮痛法)を行う
【4】夜間セデーションを行う
【5】尿道留置カテーテルを検討する
【6】タッチパネル式テレビ電話を使う
【7】教育的在宅緩和ケアをお願いする
【8】THP(トータルヘルスプランナー)に相談する
【9】THP+を活用する
【10】心のケアで支える

介護保険を使えば、家族の身体的負担や金銭的負担を減らすことができ、ACPは本人が望む在宅医療の選択につながる。PCAは患者自身が操作できる医療機器で、痛みや苦しみがあるときに効果的な量の鎮痛剤をすぐに投与できる。

「PCAポンプの大きさは弁当箱ぐらいなので、カバンに入れたり車いすのカゴに入れたりして外出することもできます」

夜間セデーションなどで夜の負担を減らす

夜間セデーションは、睡眠薬を使って夜間は深い眠りに入り、朝は薬の効果が切れて自然に目覚めるように調節する方法だ。薬で熟睡できるようになれば、家族が夜に起こされることもなくなる。また、尿を排出させるために尿道から膀胱に挿入する尿道カテーテルを使えば、排尿のためにトイレに行ったり、夜中におむつ交換をしたりする必要もなくなる。

このほか、タッチパネル式テレビ電話を導入すれば、さらに夜の負担を減らすことができる。

薬
睡眠薬を使った夜間セデーションやテレビ電話などを使えば夜の負担が軽減(Ph/photoAC)
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「タッチパネル式テレビ電話とは、画面に触れるだけでコールセンターにつながる電話で、音声だけでなく、テレビと同じように通話相手の画像も画面に映し出されます。コールセンターが24時間、365日対応してくれるので夜も安心です」

教育的在宅緩和ケアやTHPで全面的にサポート

教育的緩和ケアとは、患者を支えきれない医師の訪問医療に在宅緩和ケアに慣れた医師が同行して実践教育を行うことで、かかりつけ医が在宅医療を経験していない場合などに有効だ。

また、医師や訪問看護師、歯科医師、薬剤師など、在宅医療に関わる人たちのチームを取りまとめるキーパーソンである「THP(トータルヘルスプランナー)」への相談や、情報共有アプリである「THP+」の活用などで、在宅医療の連携や協調がスムーズに行われるようにするのも大切だ。

スマホアプリ
「THP(トータルヘルスプランナー)」や情報共有アプリ「THP+」なども活用しよう(Ph/photoAC)
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「THP+は情報共有アプリで、厚生労働省や岐阜県が行った事業の中で、小笠原内科とサンテン株式会社が共同開発しました。どの医療機関でも、THP+の導入ができます。THP+のメリットは在宅医療のチームで情報が共有できるだけでなく、患者さんや家族も閲覧・書き込みができる点にあります」

患者を笑顔にする「心のケア」

そして最後に家族が意識しておきたいのは、患者が笑顔になり、心が温かくなるように支える「心のケア」をすることだ。患者が穏やかに暮らせるよう選んだ在宅医療で、必ず大切にすべきポイントとなる。

「体のケアはプロに任せて、心のケアを家族で行ってほしいと私は思っています」

ACP(人生会議)を行うこと、適切な在宅医を選ぶこと、そして介護の負担を減らす10か条を守ることで、家族が無理をすることなく、「人生の最期を自宅で過ごす」という患者の望みを叶えることができると小笠原さんは語っている。

袈裟を着た男性
在宅ホスピス医で僧侶の小笠原文雄さん
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◆教えてくれたのは:在宅ホスピス医、僧侶・小笠原文雄さん

おがさわら・ぶんゆう。医学博士。浄土真宗大谷派聖徳山伝法寺住職。日本在宅ホスピス協会会長。医療法人聖徳会 小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長。名古屋大学医学部卒業後、同医学部附属病院第二内科を経て小笠原内科を開院。医師として約2500人、僧侶として約500人の死を見つめる。著書に『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)など。https://ogasawaraclinic.or.jp/staff

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