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「2024さだまさしコンサートツアー“51”」レポート「もしくはまだまだ知らない“さだまさ史”について」

12月30日からU-NEXTで『2024 さだまさしコンサートツアー“51”』が配信される(写真提供:株式会社まさし)
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2024年、デビュー51周年を迎えたシンガーソングライターのさだまさし(72才)。以前、『女性セブンプラス』で子供時代にはじまる楽曲の思い出「マイさだまさ史」を綴ったライターの田中稲氏が、先日、初めてコンサートに参戦した。田中氏が、さだまさしに誘われた「2時間半の旅路」をレポートする。

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51周年、音楽機関車“SD51”が走る!

開幕前のコンサート会場の客席は、駅のホームに似ている。新たな世界への旅に胸躍らせ、席でソワソワしている人。お友達に「こっちこっち」と手を振りながら誘導している人。パンフレットを観ながらゆったりと待つ人。チケットを、愛しそうに眺めている人——。

12月3日、大阪フェスティバルホールにて開催された「2024さだまさしコンサートツアー“51”」。どうやらここも、いたずら好き、話し好きの旅先案内人、さだまさしさんによるミステリーツアーの集合場所のようなのだ。客席に座りながら回りをキョロキョロと眺める私も、もちろん旅人の一人。

いよいよ暗転——。会場に、シュポーッと汽笛が鳴り響く。「D51(デゴイチ)」ならぬ、“SD51”が到着したようだ。

いざ、乗りこもう……!

舞台に、銀色のコートに身を包んださださんが登場。まずは、旅の心得とばかりに、『驛舎(えき)』『それぞれの旅』『指定券』が続く。あの高く美しい声を響かせ、バイオリンをひょいひょいと追いかけるように右を向き、左を向き、弦を操る。旅仲間・さだ工務店(ツアーバンド)が奏でるメロディと絡まりながら、音楽の汽車は加速する!

実はさださんのコンサート初参戦の私。『驛舎』は何年ぶりに聴いただろう。思い込みが激しく空回り連続だった若い頃(今も大して変わってはいないが)、大丈夫、心の荷物を軽くすればいいよと慰められた一曲だ。これが聴けるとは……。

まさかのミステリーツアー宣言

しかし、しみじみ感動に浸る間はなかった。なぜなら、MCが流れるように始まったからである。

熱心なさだファンの友人から「ものっすごくしゃべるで! なめたらあかんで」と言われており覚悟はしていたが、それでもなめていたと気づく。私は『男は大きな河になれ〜モルダウより』が大好きなのだが、彼のトークは、まさに立て板に水ならぬ、立て板にモルダウ。想像以上によく話される。よどみなく、リズミカルに! なかでも、4万円するベルリンフィルハーモニーのチケットをゲットしておきながらすっかり忘れて仕事を入れ、コンサートをしている途中で「あれっ、今日もしかして」と思い出した、という話はツボに入り、ガッハッハと手を叩いて笑ってしまった。

そのまま話は続き、「初めてさだまさしのコンサートに来た方、どのくらいいますか」という質問コーナーに突入。私を含め、かなりの手が挙がる。それを見て、「ごめんね、今回、知らない曲ばっかりだと思う。ごめんね」と繰り返すさださんは、申し訳なさそうに見えてとっても嬉しそうだ。

客席の空気も「(ニヤリ)受けて立つ」とばかりにふんわり上がる。オイオイ、年齢層は高いけど、さだファン、冒険者ばかりではないか。この旅どうなる!?

「今、会場全体がまさに一緒に星空に走っている」(写真提供:株式会社まさし)
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旅路は銀河へ──『決心〜ヴェガへ〜』

「このコンサートはミステリーツアー」という説明通り、行く先は風まかせ、いや、さだまかせ。これがとんでもない場所に向かうのだ。

気が付けばステージは夜の色に染まり星座が浮かんでいる。

『決心〜ヴェガへ〜』が流れる。観客の笑顔がふわあと一斉に上を向く。今、会場全体がまさに一緒に星空に走っている。銀河鉄道に早変わりだ。宇宙、ペルセウスに向けて!

あとで調べると、この曲は『恋文』(2004年)というアルバムの収録曲だった。私は初めて聴いた。隣のマダムもそうだったらしく「えっ、知らない(驚)」と呟いていた。その声が本当に悔しそうで何ともかわいくて、無意識に小さくガッツポーズ。尊い。さだまさしライブ、尊い! そうか、知らない曲があると悔しいくらい、もう何年も通う大ベテランの旅人がたくさんいらっしゃるのだ。

同時に、「ごめんね、知らない曲ばっかりだけど」と言ったときの嬉しそうなさださんの顔を思い出す。まだまだ、知らない曲があるぞ。それを巡る旅は楽しいぞ、新しい発見があるぞ。黙って俺に、ついてこい——。そんな風にも思えるこのコンサートは、51年目の関白宣言なのかも?

音で故郷を作る「さだ工務店」とともに懐かしいあの場所へ

MCでさださんは、仲間たちとめぐる音楽の旅について話しはじめた。1年のほとんど、ツアーに出ているという。世界中巡る日々は、とっても楽しそう。ただ、昔来た街の風景はときに、大きく変わりすぎて、手に負えない生き物のようになっていくような、切ない変化もあるようだ。

日本という国が、さまざまなものを失っていく——。そんなトークを挟み、『東京』『1989年渋滞(ラッシュ)』と続く。私は20代から30代、東京に行きたくて行きたくて仕方がなかった。持ち前のビビリな性格ゆえ、結局関西から出ることはなかったけれど、彼の多くの曲に、美しくて寂しくて美しい東京が描かれていて、より憧れたものだ。

その頃の東京の上空に心は飛んだ。

きっと彼の音楽の機関車“SD51”は、こんな風に、せつなかったり、嬉しかったり、ひとりひとりの思い出の駅に停車しているのだ。愛しい土地、故郷の音を作る「さだ工務店」という頼もしい音の職人たちもいる。『さだ工務店のテーマ』『北の国から〜遙かなる大地より〜』では、頭の中に、小さい頃遊んだ場所がパズルのピースが合わさるように、ゆっくりと再生されていく。客席に揺れるペンライトが街灯りのようだ。

「さだまさしさんが歌うのは心の故郷だ」(写真提供:株式会社まさし)
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『pineapple hill』を聴きドラマ『海に眠るダイヤモンド』を思う

今回セットリストの中で印象的だったのが『pineapple hill』。これまた初めて聴いた曲だと思ったが、家に帰って調べたら、エエッ、アルバム『夢回帰線』(1987年)からの1曲ではないか! レコード持ってたのに(汗)。『男は大きな河になれ』と『風に立つライオン』ばかりヘビーローテーションしていたゆえの忘却……。

いや、誰が私を責めらりょうか。なにせデビューから51年、さだまさしさんが出した(オリジナル)アルバムは49枚。曲数は600以上。こんなこともある。

『pineapple hill』は別れの歌だ。彼女は町を離れる前に、「死ぬまであなたが好きだから」とコスモスの種を撒くのだ。

さださんが出演していたドラマ『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)にも、朝子(杉咲花)が鉄平(神木隆之介)にコスモスの種を渡すシーンがあったなあ。ふとドラマの展開を思い出し、切なくなる。

次の『ジャカランダの丘』は、レーズンのアルバム『あの頃について』(1991年)から。かなり前になるが、トーク番組で相棒の吉田政美さんが「二人の声質が合わなくてハーモニーが心地よくなかった。オフコースが羨ましかった」と打ち明け、さださんも「そうなのよ〜」などと同調していたことを思い出す。「聴く側は最高に心地いいのに!?」とビックリしたものだ。今回はソロだったが、またデュオでも聴きたい。

『ジャカランダの丘』も『pineapple hill』も、マウイ島最古の首都、ラハイナにある「ラハイナ・サウンド・スタジオ」で作られた曲だ。ところが2023年に起きた、マウイ島の山火事でラハイナは消失してしまった。

さだまさしさんが歌うのは心の故郷だ。そのなかには消えてなくなってしまった場所や、様変わりをしてしまった場所も含まれる。けれど、歌の線路を伸ばし、彼らはその場所を訪れる。そして、けっして消してはならない土地と人のつながりを歌い継いでいくのだ。今回は、能登について思いを馳せていた。

終盤、線路は迷路に近い螺旋の渦を走る。『51〜2024ヴァージョン〜』『Believe』『いのちの理由』、そして怖いほど美しい月が輝く『まぼろば』へ。余韻冷めやらぬまま、「もう汽車は来ません」と歌う、『空蝉(うつせみ)』(*)を突き付けられるのだ。

【*『空蝉』の「蝉」の正しい表記はつくりの上部「ツ」が「口」2つの旧字体】

時間が止まるような錯覚が起きる。その瞬間、シュポーッと大きな汽笛が叫ぶように鳴り、会場は夕陽が落ちてきたような茜色に染まった。

「72才の成長宣言に、会場から大きな拍手が起こっていた」(写真提供:株式会社まさし)
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『ひき潮』が流れ、汽車が駅に戻り、会場に明かりがともる。2時間半の旅が終わり、客席からゆっくりと、本当にゆっくりと去っていく波が見える。

杖を突いていらっしゃる高齢の方も多い。きっと、じっと長く座るだけでも大変な人もいるだろう。それでも大好きな彼の曲を聴きたくて、知らない曲も知りたくて、訪れる。そして、次の旅に向けて気力をみなぎらせるのだ。

さださんも、コンサートの途中こう告げていた。

「この年ですが、まだまだ成長するからね」

72才の成長宣言。会場から、大きな拍手が起こっていた。

知らぬならワクワク聴こうホトトギス。そんな今回の「さだ旅」に興味を持った方に朗報だ。「2024さだまさしコンサートツアー“51”」(11月22日東京ガーデンシアター公演)が12月30日、U-NEXTで配信される。旅の出発は18時! 私も参加する予定だ(見逃し配信は2025年1月13日まで)。

音楽は、誰もがどこでも行ける特別な指定券なのだと改めて思う。

『銀河鉄道の夜』に出てくる、ジョバンニが手にした、どこへでも行ける緑色の切符とちょっと似ている。

「次はどんな曲が聴けるのだろう」

そう思った瞬間、もう旅の切符はその手に。さあ、汽笛が聞こえてくる——。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。近著『なぜ、沢田研二は許されるのか』(実業之日本社刊)が好評発売中。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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