
口にしないことの方が難しいともいえるほど、あらゆる食品に含まれている人工甘味料。ダイエットや健康の“味方”ともいわれるが、近年はそのリスクに対する警鐘が鳴らされている。どんなメカニズムで人体に影響を及ぼすのか、最新研究も交えて解き明かす。
混乱した脳が“もっと食べるよう”促す
美容と健康のためにと、つい手を伸ばしてしまうのが“魔法のゼロカロリー”食品や、「糖質ゼロ」をうたう食品や飲料、調味料だ。
それらに含まれる人工甘味料のリスクはすでに知られているところだが、摂取し続けることで体が蝕まれるという研究結果が欧米で続々報告されている。
2025年3月、学術誌『ネイチャー・メタボリズム』が人工甘味料「スクラロース」に関する驚きの最新研究データを掲載した。アメリカの南カリフォルニア大学のケイティ・ペイジ博士らによれば、「スクラロースの摂取は脳を混乱に陥らせ、誤った空腹信号を発信させる」というのだ。
長年食生活と病気の研究に携わってきたアメリカ在住の内科医・大西睦子さんが、脳が混乱を起こすメカニズムを解説する。
「スクラロースを含む飲料は砂糖を含む飲料よりも、食欲を調節する脳の視床下部の活性化を促すことが明らかになりました。スクラロースはゼロカロリーなので、摂取しても脳に必要なカロリーが供給されず、混乱した脳が“もっと食べるよう”促すのではないかといわれています」
脳の混乱は血糖値を乱す可能性もある。加工食品ジャーナリストの中戸川貢さんが解説する。
「スクラロースの甘さを感知した脳は血糖値を下げるためにインスリンを分泌しますが、実際には糖分は摂取されていないため、血糖値が下がりすぎてしまう。脳は混乱し、血糖値を平常値に戻そうと誤った空腹信号を出してしまいます」
インスリンはすい臓から分泌されるホルモンで、血液中の糖分を細胞に取り込むよう促し、血糖値を下げ、一定に保つ働きをする。
一般的に女性はインスリンの分泌が活発なため、男性に比べ糖尿病リスクが低いとされる。だが、「女性特有の血糖コントロールの高さゆえに、スクラロースに脳がだまされやすくなる」と中戸川さんは話す。
「スクラロースは同量の砂糖の約600倍もの甘さがあります。脳はその“架空の甘さ”に敏感に反応し、インスリンを分泌して血糖値をコントロールしようとします。その結果、空腹感が増大し、実際に不足しているカロリー以上に食べてしまう。せっかくの血糖コントロールが無効化されるどころか、マイナスとなる影響を及ぼすのです」

注意すべき影響はほかにも。
「加熱により、発がんリスクを高める有毒な塩素ガスを発生させる可能性が指摘されています。調理過程で熱を加えるパンや焼き菓子に使用されることも多いので、注意が必要です」(中戸川さん・以下同)
これだけ健康被害の懸念があるにもかかわらず、スクラロースはあらゆる食品に重宝されている。
「最大の理由は砂糖より、さらには遺伝子組み換えトウモロコシから作った果糖ブドウ糖液糖よりも、コストが安く甘くできるから。
そのうえスクラロースには、添加物特有の不快な風味を覆い隠す効果もあります。たとえば減塩の梅干しは、塩分を減らすために防腐剤代わりとなる添加物をいろいろ入れるため、独特なえぐみが出てしまう。ところがそこにスクラロースを入れるだけで、添加物由来の不快なえぐみをゼロにすることができるのです」
つまりスクラロースの使用は、私たちの体を考えてのことでは決してなく、安価なコストで食品を作りたいという売り手側の都合でしかないのだ。できるだけスクラロースを避けるには「食品表示を確認すること」だが、そこにも“抜け道”が作られたという。
「食品衛生法により、スクラロースを使用している場合は原材料表示に記載することが義務づけられていますが、その危険性が徐々に注目を集めるようになったからか、最近では別名を記すケースが出てきました。『トリクロロガラクトスクロース』という名称で書かれている場合があります。一見すると別の人工甘味料に思えますが、これは実はスクラロースの正式名称。聞きなじみがないので別物だと勘違いしないよう気をつけましょう」
少量の摂取でも高まるがんのリスク
危険な人工甘味料はスクラロースだけではない。WHO(世界保健機関)は、砂糖の約200倍の甘さがあるとされる「アスパルテーム」と「アセスルファムK」にも警鐘を鳴らす。
「WHOは人工甘味料の長期使用は体脂肪を減らす効果がないうえ、長年摂取した場合、糖尿病の発症リスクが20〜30%、脳卒中が19%、心血管疾患全体では32%の増加が見られるとの分析結果を公表しています」(大西さん・以下同)
体への悪影響はこれだけにとどまらない。フランスの研究チームが10万人以上のデータを分析した結果、人工甘味料の摂取が「多い」グループは「摂取なし」のグループと比較し、がんリスクが13%高かったという。
「特に乳がんリスクは、アスパルテームの摂取量が多い人は22%高くなっていました。しかも摂取が多いといっても、がんリスクが高くなった人のほぼ全員が許容量の範囲内でした」
人工甘味料はたとえ少量でも、体に与える影響が大きいといえる研究データだ。
さらに中戸川さんは、「人工甘味料の摂取が腸内環境の悪化や認知症の発症にもつながる」と話す。
「人工甘味料が腸内の悪玉菌を増やすことで腸内環境が悪化し、腸の粘膜に炎症を起こす可能性が指摘されています。また人工甘味料を含むダイエット系炭酸飲料の飲みすぎで、脳卒中や認知症リスクが高まるという研究論文もある。

腸と脳は密接につながっているため、人工甘味料による腸内環境の悪化が脳にも影響を与えてしまうのかもしれません」
近年使用され始めた人工甘味料には、砂糖の甘さの約1万倍の「ネオテーム」、約2万〜4万倍の「アドバンテーム」がある。従来の人工甘味料をはるかに上回る甘さを持つため、摂取量は少量で済みそうだが、体への影響もゼロだと言い切るのはまだ早い。
「これらの人工甘味料の危険性はまだ明らかにされていませんが、スクラロースの危険性が取り上げられるようになったのは認可されてからおよそ20年経った最近のことです。
ネオテームやアドバンテームといった“高性能”の人工甘味料の研究はまだまだこれから。10年後に予想もしなかった健康被害が出てきてもおかしくありません」(中戸川さん・以下同)
命を危険にさらすリスクが指摘される人工甘味料を避けるには、「糖質ゼロ」や「ゼロカロリー」を安易に選ばないこと。そして手に取った商品の食品表示をくまなくチェックする必要がある。
「人工甘味料はすべて表示義務があるので、食品表示を確認すれば必ず見極められます」
人工甘味料の“甘い罠”には注意したい。
※女性セブン2025年6月5・12日号