健康・医療

《認知症予防のカギを握るウオーキング》いますぐ実践したい「正しい歩き方」 時間帯は「朝」、「“ながら歩き”で脳を活性化」

歩く女性
脳を活性化させる歩き方のコツがあった(写真/PIXTA)
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いつまでも脳が元気で認知機能を維持することは人生100年時代に欠かせない。正しいフォームやちょっとした工夫を取り入れて、ただ“楽しく歩く”だけで、100才までボケない「最強の脳」を作り出すことができるという。

歩くことは脳全体を鍛える

2025年には65才以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計されるなか、長生きするなら心も体も脳も健康でいたいもの。

その鍵となるのがウオーキングだ。2025年、イギリスの老年医学会誌『Age and Aging』に掲載された65~80才の高齢者585名が参加した試験データによると「ウオーキングや軽いジョギングを行っただけで、参加者の認知能力が向上した」という。

おくむらメモリークリニック理事長で認知症専門医の奥村歩さんが、ウオーキングが認知機能を高めるメカニズムをこう解説する。

「私たちの体は老化に抗えませんが、脳だけはいくつになっても新しい神経細胞が作られることがわかっています。それに関係しているのが傷んだ脳の修復、再生につながるBDNF(脳由来神経栄養因子)というたんぱく質。このBDNFが最も多く発生するのはウオーキングなどの有酸素運動といわれています。

食事や睡眠、知的活動など認知機能向上のための習慣はいくつもありますが、歩くことは脳の老化を予防するための最強習慣ともいえます」

脳を若々しく保つことができれば体の健康にも気を配れるという好循環が生まれ、年を重ねても心身ともに健康な生活を送れる可能性が高くなる。

『最強のウォーキング脳』の著者で、加藤プラチナクリニック院長であり脳内科医の加藤俊徳さんは、歩くことの効能をこう力説する。

「人間の脳は場所により果たす役割が異なっていて、いくつかの系統に分けることができます。そのなかでほかの系統と密接な役割を持ち、影響を与えているのが“運動脳”です。歩くことによって“運動脳”のスイッチが入り、脳全体を鍛えることにつながるのです。理想は1日1万歩ですが、歩けば歩くほど認知症リスクが下がっていくといわれています。

ウオーキングの素晴らしいところは、すぐに始められるところ。誰でも気軽にできる最強の脳トレといえるでしょう」

時間帯は「朝」

ただし、やみくもに歩くだけでは充分な効果は期待できない。まず準備段階として気を配りたいのがシューズ選びだ。

「すべての足の指の感覚がしっかりとわかるものがおすすめです。具体的には先端の部分が細いタイプより、広いタイプがいい。長時間歩くなら足裏の疲れを軽減できる厚底、短時間であれば足裏の感覚が伝わりやすい薄底のシューズが適しています。さらに5本指ソックスを履くと足の血行がよくなります」(加藤さん)

正しいフォームで歩くクセをつけることで、認知機能を高める効果が増す。

「胸を張って背筋を伸ばし歩幅を大きくして早歩きをすると、BDNFが出やすくなります。早歩きでもバランスを崩さないためには視線をまっすぐ前に向けて、腕をしっかり振るのがいい。有酸素運動であることを意識して、ちょっと息が切れて汗ばむくらいの速さを心がけて歩きましょう」(奥村さん)

おすすめの時間帯は朝。日中の暑さを避けることに加えて「脳の活性化にもより効果的です」と加藤さんは話す。

「朝の散歩は脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンの分泌を促します。その結果、脳が覚醒した状態で1日を過ごすことができ、夜には質の高い睡眠を得られる。朝7~8時にスタートし、9時までに終えるのがいいでしょう。決まった時間に歩くようにすることで記憶力もアップします」

高齢になると認知症だけでなく老人性うつのリスクが高まるが、外に出て太陽の光を浴びることでうつの予防にもなるという。

五感を刺激して脳を活性化

さらに「歩く速度に変化を加えることでより効果が期待できる」と加藤さんは続ける。

「認知機能が低下すると速度に変化をつけることが難しくなります。例えば“あそこの木まではゆっくり”“その先の電信柱までは早歩き”というように目印を決めて、歩く速度を変化させることが脳への刺激になります」(加藤さん)

脳の認知機能をアップする理想のフォームのイラスト
脳の認知機能をアップする理想のフォーム(イラスト/勝山英幸)
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奥村さんも早歩きを基本にしつつ、ゆっくり歩きを織り交ぜることを推奨する。

「脳の老化を防ぐためには五感への刺激が大切です。認知症の人は嗅覚や聴覚が衰えてくるというデータもあります。時にはゆっくり歩きながら草花のにおいを嗅いだり、夏ならセミの声に耳を傾けるなど嗅覚や聴覚のアンテナを張るといいですね。

ゆっくりと散歩するときは、家族や友人と一緒に歩くのが理想的。目に入ったものや気になるにおいについて言語化しながら歩くことで、脳がより刺激されます」(奥村さん)

加藤さんが自ら実践しているのが“ながら歩き”だ。ラジオを聴きながら歩く“ラジオウオーキング”や、カメラを携帯して気に入ったシーンがあったら写真を撮りながら歩く“スナップショット・ウオーキング”など、歩くことにプラスして別の目的を持つことが脳により強い刺激を与えるという。

「ラジオや英会話などを聴きながら歩くと、座って聴いているときよりも深く理解することができます。これは歩くことで運動脳が鍛えられているのに加え、聴覚や理解力を司る脳の部分が刺激されるからです。

また写真を撮りながら歩くことで、観察力が身につき些細な変化に気づくことができるようになります。視覚や理解力を司る脳の部分が活発になるため、トラブルを回避する力がつく。なにより別の目的を持つことが、毎日歩くモチベーションにもつながります」(加藤さん)

脳を覚醒させる歩き方を図解
脳を覚醒させる歩き方(イラスト/勝山英幸)
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足首や膝の痛みは「歩きすぎ」のサイン

継続して歩くためには体を痛めないようにしっかりとした準備が必要だ。

「歩き始める前に必ず股関節、膝、足首を入念にストレッチしてください。歩きすぎで膝や腱を痛めてしまったら元も子もありません。高齢で足を痛めると、そのまま寝たきりや、認知症になるリスクもあります」(奥村さん)

戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さんが特に注意を促すのが足首と膝だ。

「高齢になると腰が曲がって前かがみになるため、足の重心が後ろにかかって足首の関節の動きが悪くなりやすい。足首が硬いと転倒しやすくなるのでウオーキング前のストレッチは必須。足首の柔軟性を保つためにアキレス腱を伸ばしたり、正座をしたりするとよいでしょう。

膝を伸ばす筋力を鍛えることも大切です。椅子に座って5秒間ほど足を伸ばし、その状態で足を外側にひねることで太ももの筋肉が鍛えられ、膝を痛めにくくなります」(戸田さん)

歩く歩数に目安は大切だが、無理をするのは禁物。

「痛みは“このまま続けると体を悪くする”という脳からの指令なので、無視して頑張ってはいけません。例えば1時間歩くと最後は必ず体のどこかが痛くなるのであれば、それは歩きすぎのサイン。歩く時間や距離を減らす、歩く速度を落とすなどの対策をとりましょう」(奥村さん)

戸田さんによれば、健康のためのウオーキングで足を痛め、整形外科を受診する人も少なくないという。

「痛みをがまんして続けることで膝に水がたまってしまう人は少なくありません。またこむら返りが起こるなら、歩くのはいったんお休みしましょう。こむら返りは鉄分不足により、ふくらはぎに充分な酸素が供給されていないことで起きやすくなります。食事で鉄分を補給してから歩くといいですね」(戸田さん)

これからの季節は熱中症対策も欠かせない。

「歩く前に必ず水を飲み、ウオーキング中はたとえ喉が渇いていなくても意識的に水分補給することが大切。日差しが強ければ、目の保護のためにサングラスをかけましょう」(加藤さん)

気温が高い日中は、無理に外を歩く必要はない。屋内のウオーキングでも、場所を選べば外歩きと同じ効果が期待できる。

「おすすめはデパ地下やショッピングモール。いろんなにおいや音があるので脳が刺激されます。フラワーショップの花の香りやフルーツ店の果物のにおいを楽しめば、外と同じように季節感を感じられるでしょう」(奥村さん)

継続するための鉄則は、なにより楽しむこと。

「“認知症予防のために歩く”だけでは、つらいし楽しくないので長続きしません。“ながら歩き”をしたり、季節の変化を感じたりしながら楽しむことがいちばん大事です」(加藤さん)

衰え知らずの「100年脳」を手に入れるための第一歩を踏み出そう。

※女性セブン2025年7月23日号

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