
腸内環境が悪化するとさまざまな不調が起こるとされ、特に気をつけたいのが腸の“砂漠化”。知らず知らずのうちに水分が失われると、全身の不調につながる。しかも、その状態はただの腸活ではなかなかよみがえらないという。カラカラになった“不腸”を治す「最強の食品」と「究極の習慣」を伝授します。
腸内環境が悪化すると炎症が起こりやすくなる
女性の2人に1人が便秘になるといわれるが、会社員・Aさん(50才)もそのひとり。
「特に季節の変わり目は悪化しやすく、何日も便通がないのは当たり前。出たとしてもコロコロしたうさぎの糞のような感じで、すっきりしません」
その原因には、生活の悪習慣だけでなくホルモンの影響も。みなと芝クリニック名誉院長で消化器外科医の川本徹さんが言う。
「女性は女性ホルモンの変動で便秘になりやすく、特に更年期以降は女性ホルモンの減少によって腸の蠕動運動が弱くなり、慢性的な便秘を訴える人が増えます。加えて、男性に比べて水分の摂取量が少ない人が多く、腸の水分が不足して東洋医学でいう『腸乾燥』になりやすい」
腸が“乾燥”すると、便秘は悪化するばかり。
「水分が足りないので便が硬くなり、便秘になります。硬い便は肛門を傷つけるので出血しやすく、切れ痔の原因になることもある」(川本さん)
管理栄養士の望月理恵子さんが続ける。
「便秘が続くと老廃物が体内にたまるので、免疫機能が低下したり、肌荒れが生じたりと不調が起こりやすくなります」

消化器外科医の石黒成治さんは、腸内環境が悪化すると全身で炎症が起こりやすくなると指摘する。
「腸の粘液には異物の侵入を防ぐバリア機能がありますが、粘液が少なくなると食べたものの毒素や細菌などが腸の壁を通して体内に入りやすい。そうなると、関節が痛くなったり、頭がぼんやりして集中力が低下することがあります。自己免疫疾患や甲状腺機能の低下が起きることもあります」
脳と腸が密接に関係して、互いに影響を与え合う「脳腸相関」という作用がある。そのため、腸は「第二の脳」とも呼ばれ、腸内環境が悪いとうつ病や認知症になりやすいとされる。
さらに、乾燥による“不腸”は、単なる腸活では治らないと川本さんは指摘する。
「よく菌活がいいといわれますが、単に発酵食品を摂るだけでは状態を改善することはできません。腸に水分を与えうるおいをもたらす食事をとり、血流をよくする生活習慣を取り入れましょう」
専門医と食のプロ10人への取材で、腸をうるおす「最強の食品」と「究極の習慣」が明らかに。
【※別掲載の表は、以下の10人の医師と食の専門家に腸をよみがえらせる「最強の食品」と「究極の習慣」を最大10個挙げてもらい、1位を10点、2位を9点、3位を8点、4位を7点、5位を6点、6位を5点、7位を4点、8位を3点、9位を2点、10位を1点として集計。10点以上の項目を掲載した。
石黒成治さん(消化器外科医)、石原新菜さん(イシハラクリニック副院長)、川本徹さん(みなと芝クリニック名誉院長)、工藤あきさん(消化器内科専門医)、國澤純さん(医薬基盤・健康・栄養研究所ヘルス・メディカル微生物研究センター長)、佐野こころさん(医学博士)、中沢るみさん(管理栄養士)、辨野義己さん(辨野腸内フローラ研究所理事長/腸内細菌学者)、松生恒夫さん(松生クリニック院長)、望月理恵子さん(健康検定協会理事長/管理栄養士)】
みそ汁は一石二鳥の効果
うるおいを取り戻す食品として、多くの専門家が挙げたのは「ヨーグルト」だ。
「ヨーグルトの約80%は水分で、乳酸菌が腸内環境を整える。ヨーグルトに含まれる乳たんぱく質には、水分を体内に保持する機能もあります」(望月さん)

3位の「みそ汁」も票を集めた。
「大豆製品のみそには、必須アミノ酸の『トリプトファン』が多く含まれている。リラックス作用がある『セロトニン』の原料となるため、自律神経を整えて腸の動きを活発化させます。発酵食品なので腸内環境の改善も期待できる。水分も摂取できるみそ汁は、これから寒くなる季節におすすめです」(医学博士の佐野こころさん)
11位にランクインした「オリーブオイル」を1位に推すのは、便秘外来を開設する松生クリニック院長の松生恒夫さんだ。
「オリーブオイルに含まれるオレイン酸は消化吸収されにくく、短時間で多めに摂ると腸を刺激して動きを活発化させる。油分は便の滑りをよくするのでスムーズな排便も期待できます」

石黒さんは、食事で重要なポイントは水溶性食物繊維だと話す。
「腸内細菌のエサとなる食物繊維が不足すると、代わりに腸の粘液が腸内細菌のエサとなり、失われてしまう。腸内の水分を保持するためにも、水分を含んでゲル状になる水溶性食物繊維が含まれる食品をしっかり摂るといいでしょう」
高い整腸作用が期待される食品でも、今回はランク外になったものがある。その代表がバナナだ。
「今回は“うるおい”がテーマなので、ランクインしなかったのでしょう。
バナナはカリウムを豊富に含み、ナトリウムとともに体内の余分な水分・塩分を尿中に排出する働きがある。その特徴からランク外になったと考えられます」(望月さん)
スクワットで押し出す力をアップ
日々の習慣も大事になる。ダントツは「充分な水分摂取」だ。消化器内科専門医の工藤あきさんが言う。
「気づかないうちに水分不足になっている人は意外と多い。温かい飲み物は血流を改善して、蠕動運動を促進します」
朝一番の炭酸水を推奨するのは川本さんだ。
「起きてすぐに水分を摂ると、夜に眠っていた自律神経が刺激され、蠕動運動が促進されます。特に炭酸水は、炭酸ガスが胃や腸を刺激して血流をよくする作用があるので、蠕動運動が導かれやすい」

2位につけたのは「運動」だ。医薬基盤・健康・栄養研究所ヘルス・メディカル微生物研究センター長の國澤純さんが言う。
「運動は腸管の働きを活性化し、便秘や腸の乾燥を防ぎます。ウオーキングのように負担が軽いものから始めて、習慣化するといいでしょう」
辨野(べんの)腸内フローラ研究所理事長で腸内細菌学者の辨野義己さんは、「ウオーキング」に加えて「スクワット」もすすめる。
「腸の周りのインナーマッスルである腸腰筋と腸骨筋を鍛えることで、便を押し出す力がアップします」
「ストレスを減らす」(7位)、「腹式呼吸」(8位)とストレスを緩和する習慣を推す声も多かった。イシハラクリニック副院長の石原新菜さんが言う。
「過度なストレスは交感神経を優位にするので、腸の働きが悪くなる。リラックスする時間を持つようにするといいでしょう」
食事と習慣を見直して、自分のペースで取り組もう。
※女性セブン2025年10月16・23日号