《ロッチ中岡創一の免疫年齢はなぜ18才なのか?》ノーベル賞受賞で注目「免疫」の新常識「いろいろな菌に触れて活性化される免疫細胞」「免疫力維持につながる食事」

人間の寿命は、これから先どこまで延ばすことができるのか──近年、その問いの鍵を握るのが「免疫」だと注目されている。今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学特別栄誉教授の坂口志文さん研究がその象徴だ。坂口さんが30年前に発見した免疫細胞の「制御性T細胞(Treg)」は、世界の医学や研究分野に影響を与えている。「制御性T細胞(Treg)」とは、免疫を制御するブレーキ役の細胞だ。『倍速老化』の著者で、純真学園大学客員教授の飯沼一茂さんが説明する。
「免疫細胞には『アクセル』と『ブレーキ』役がいます。アクセルの攻撃役は、体内に侵入する細菌やウイルスなどの異物に集まって攻撃して、制御役は適切なところで攻撃にブレーキをかけて傷ついた細胞を掃除する。制御の中心的存在が制御性T細胞です。免疫細胞は体の中にあるがん細胞や古くなった細胞も破壊して、再生を促します。アクセルとブレーキのバランスがとれていれば健康を保てますが、どちらかに傾くと病気になります」
そして“免疫力”を上げることで、感染症に対処することだけではなく、寿命延伸や生活習慣病予防、美容などにもつながるという。ノーベル賞を受賞し、注目される「免疫」の新常識に迫る。【前後編の後編】
免疫が弱ると見逃されたがん細胞が増えて、がんが発症しやすくなる
長生きするためには死ぬまで免疫のバランスをとり続けることが望ましいが、免疫細胞は年齢とともに数が減少し、働きも低下する。飯沼さんが説明する。
「加齢によって胸腺が萎縮して小さくなり、炎症を抑える制御性T細胞の働きも低下します。すると体のあちこちで起きる小さな炎症が治まらずに、慢性炎症が続く状態になってしまう。慢性炎症は老化を加速させ、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病などの生活習慣病、自己免疫性疾患などの原因となります」

さらに、老化による慢性炎症はアルツハイマー型認知症のリスクも高める。
「加齢に伴って増える歯周病が要因の1つです。口腔内で歯周病菌が増殖すると、菌が出す毒素が歯肉の炎症部位から体内に入り込み、免疫細胞は毒素を排除しようと全身で慢性炎症を起こして、サイトカインが分泌される。
問題は歯周病である限り毒素が消えずに慢性炎症が起き続けること。サイトカインが血流に乗って脳に届くと、認知症の原因となるアミロイドβを増加させることがわかっています」(飯沼さん)
ちなみに歯周病罹患率は45〜54才で50%、55才以上は55〜60%と高い。早めの歯周病対策が慢性炎症を減らし、ひいてはアルツハイマー型認知症の予防になるのだ。免疫力の低下は、がん発症のリスクも高める。順天堂大学医学部の講師で、免疫学研究に30年以上従事する玉谷卓也さんが言う。
「子供の頃から毎日数千個のがん細胞が体の中でできています。しかし、若い人ががんになりにくいのは、免疫細胞が常にパトロールして、できたがん細胞を見つけ出して撃滅しているからです。免疫が弱ってくると見逃されたがん細胞が増えるので、がんが発症しやすくなります」

長寿者に共通する免疫細胞の特徴もある。京都府北部の京丹後市は、100才以上の百寿者が全国平均の3倍にも上り、日本屈指の「長寿のまち」として有名だ。この地で8年前から調査研究に取り組む京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二さんが指摘する。
「京丹後市の長寿者の血液を調べたところ、リンパ球が多く、免疫機能がしっかり保たれていることがわかりました。かぜやインフルエンザにかかりにくいというデータもある。免疫力を維持して感染症とがんを遠ざけていることが、彼らの長生きの秘訣でしょう」
人によって免疫力に差が生まれるのは、リンパ球のT細胞の老化に原因があると考えられている。
「がんや感染症と闘うために必要なT細胞の老化が、健康寿命に影響を与えている可能性があります。T細胞の老化を抑えたり、T細胞を制御する樹状細胞などをコントロールできれば、寿命を延ばせるかもしれない。免疫分野の最先端では、そのための研究が行われています」(内藤さん)
免疫は病気だけでなく、美容とも切り離せない関係にあると指摘するのは玉谷さんだ。
「免疫のバランスが崩れると、皮膚でも炎症が起きやすくなり、肌が荒れます。免疫細胞は腸内細菌や腸内環境によって強化されます。便秘になると肌が荒れやすいのも、腸内細菌の動きが悪くなることが原因です」
シミやしわも免疫に左右される。
「不要になった細胞を壊すのは、攻撃系のマクロファージ。制御性T細胞は、その死んだ細胞を除去して新しい細胞を作る指示を出します。これらが機能しないと古い細胞が放置されて肌の新陳代謝が滞り、肌つやが悪くなってシミやしわができやすくなるのです」(飯沼さん)

免疫は生まれつきの体質やこれまで過ごしてきた環境もあり、自分では変えられない部分があるのは確かだ。だが、イシハラクリニック副院長の石原新菜さんは、何才になっても免疫力を高めることができると強調する。
「いま持っている免疫力を高めることは、何才になっても可能です。そのためには、いろいろな菌に触れて免疫細胞を活性化させるといい。以前テレビ番組で、お笑いコンビ・ロッチの中岡創一さん(47才)の血液中の白血球を調べて免疫年齢を測定したら、驚くことに18才でした。
彼は人気バラエティー『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)の企画で、世界中でロケをしています。そこで何百回と泥の中に落ちて、いろいろな菌に触れたことで、免疫細胞が活性化されているのだと推測できます」
免疫細胞の7割が集中する腸が健康であれば、体全体の免疫が底上げされる
コロナ禍を経て、2023年以降に子供の手足口病や季節外れのインフルエンザが流行ったのは、人との「3密」を避けたことで菌に触れる機会が失われ、免疫力が低下したからだとされる。
「免疫細胞を活性化させるには、ある程度いろいろな菌に触れることです。中岡さんのように泥の中に飛び込むわけにはいきませんので、食事で腸内の免疫細胞を活性化させてください。
そこで重要になるのが腸内細菌です。まず意識してほしいのはいろいろな菌を取り入れて、腸内環境を改善し、免疫を整えること。キムチや納豆、みそ、漬けものなどの発酵食品は菌の種類を増やすのに効果的です」(石原さん)
食物繊維を食べて菌そのものを増やすのもいい。飯沼さんは発酵性食物繊維を食べてほしいと話す。
「発酵性食物繊維とは、腸内細菌がエサとして発酵・分解する食物繊維のことです。多くの水溶性食物繊維と一部の不溶性食物繊維、レジスタントスターチを指します。具体的には大麦やきのこ類、酵母、海藻類、豆類、いも類、玉ねぎ、バナナ、小麦全粒粉、小麦ふすま、玄米などがそれにあたります。酪酸菌は酪酸を産生し、酪酸が分化前のT細胞を刺激すると制御性T細胞が多く作られます」
内藤さんは野菜や豆類を中心とする「プラントベース食」が、酪酸を増やして免疫力の維持と長寿につながると話す。
「健康長寿の高齢者は、主に魚と豆で良質なたんぱく質を摂っています。植物性たんぱく質である大豆は、酪酸菌のエサとなり酪酸を生み出す。免疫細胞の7割が集中する腸が健康であれば、体全体の免疫が底上げされます。抗酸化作用があるベリーやくるみもいいです」
寒さが厳しくなるこれからの季節、石原さんがすすめるのはいろいろな具材が入った鍋料理だ。
「体が冷えると自然免疫が働きにくくなるので、鍋でしっかり体を温めてほしい。しょうがやねぎなどの薬味のちょい足しもおすすめ。しょうがには殺菌効果があり、薬味は体を温めます。鍋の定番食材であるきのこ類は食物繊維が豊富なだけではなく、免疫バランスを整えるビタミンDも多い。にんじんやほうれん草、春菊、にらなどに含まれるβ-カロテンは、のどや鼻などの粘膜で体を守るIgA抗体を作るのを助けるので、意識的に食べてください」
同時に、生活習慣の見直しも行おう。
「免疫力を維持するにはストレスをためず、最低でも7時間程度の睡眠をとるのが基本。寝ている間は最も副交感神経が優位で、免疫が活発になります。意外と知られていないのが加湿。粘膜が乾燥するとIgA抗体の働きが低下してウイルスが侵入しやすくなるので、冬は加湿器を上手に使ったり、白湯を飲んだりして粘膜を潤してください」(石原さん)

免疫力を保つために、識者たちが口を揃えて推奨するのは運動だ。玉谷さんが言う。
「軽い運動なら何でもいいですが、ウオーキングなら1日7000歩がいちばん効果的だといわれています。いきなり上を目指さずに、最初は5000歩を目指して歩いてみるといいでしょう。以前は1万歩といわれましたが、そこまで歩く必要はありません。体が温まって血流がよくなると、免疫細胞が全身を巡りやすくもなります。ハードな筋トレなど翌日に疲れが残るような運動は、逆効果になることがあるので注意してください」
飯沼さんが言い添える。
「ウオーキングなどで肥満が解消されれば、脂肪細胞から出る炎症性サイトカインが減るので、慢性炎症も起きにくくなる。室内での運動も悪くありませんが、外出して日光を浴びれば皮膚でビタミンDが合成されるので、より免疫にいい。
体温36.5〜37℃くらいが免疫の働きがよくなるといわれているので、お風呂につかって体を温めるのも大事です。日常生活には笑いを取り入れるといいでしょう。笑うことでストレスが軽減し副交感神経の働きがよくなり、バランスのとれたいい免疫機能が活性化されます」
免疫は一朝一夕では高まらない。毎日着実に積み重ねていくことで、免疫が形成されるのだ。内藤さんが言う。
「毎日同じ時間に起きて、昼間は太陽を浴びて、夜は決まった時間に眠る。甘いものや塩辛いもの、動物性脂肪を摂りすぎないようにして、暴飲暴食はしない。そんな当たり前の生活リズムを守ることこそが、確実な免疫ケアです」
免疫は強すぎても弱すぎても病を呼ぶ。長く生きるとは、免疫のブレーキとアクセルをうまく使いこなすこと。私たちの行動の一つひとつが、健康寿命を支える免疫につながるのだ。


(了。前編を読む)
※女性セブン2025年11月27日号