
1988年の初演以来、上演回数は8000回以上、総観客動員数は820万人以上を誇る劇団四季のミュージカル『オペラ座の怪人』。熱狂的なファンも多い同作は、21年ぶりとなる福岡公演も話題を集め、今年7月にオープンする劇団四季の専用劇場・MTG名古屋四季劇場[熱田]のこけら落とし公演の作品にも決まった。『女性セブンプラス』では、メインキャストのオペラ座の怪人役のひとり 飯田達郎さんと、彼に魅入られた歌姫・クリスティーヌ・ダーエ役のひとり 山本紗衣さんに独占でインタビュー。かつて明かされることのなかった秘話まで、とことん詳しくお伝えします。【前・後編の前編】
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『オペラ座の怪人』あらすじ
19世紀末のパリ・オペラ座では、“オペラ座の怪人”の仕業と噂される不可解な事件が続いていた。そんな中、コーラスガールのクリスティーヌ・ダーエがプリマ・ドンナの代役に選ばれ、亡き父が贈った“音楽の天使”に教わったという美しい歌声で舞台を成功させる。公演後、成長した幼なじみのクリスティーヌに会うためラウル・シャニュイ子爵が楽屋を訪れるが、彼女は突然姿を消してしまう。実は、“音楽の天使”を名乗り、彼女を連れ去った人物こそ、人々が恐れる“オペラ座の怪人”だった。
──飯田さんは今回の福岡公演(2025年9月〜)からオペラ座の怪人役として出演されていますが、『オペラ座の怪人』には、2009年から別の役で、足掛け17年にわたって出演されてきました。大役に抜擢されたと当時のことを覚えていますか?
飯田:ぼくが最初にラウル役で出演が決まったのは、入団してまだ2年目でした。セリフがある役は初めてで、しかも、「こんな大きい役!」という驚きとプレッシャーが半端なかったです。
当時、別の作品の稽古をしていたのですが、演出家の浅利慶太先生(※劇団四季創立者。2018年に逝去)から、ボソッと早口で声をかけられたことがあったんです。
「いま、“ラウルを勉強しろ”って言われた!?」と思ったものの、まさか前年に入団したばかりの自分にそんな大役が回ってくるなんてあり得ないと思っていた。
ところが後日、あらためて「ラウル役でお稽古に入ってください」と、正式に連絡が。震えましたね。
入団以前は、アカペラ大会などに出演したりして、好きに歌を歌ってきた人間でしたから、ミュージカルで演技をしたり、セリフを言ったりすることの難しさにぶち当たっていたころでしたし、先輩がたからアドバイスをいただいても、それを消化する時間が全然足りなくて…。
休演日も先輩に付き合っていただきながら、なんとかデビューにこぎつけたという形でした。

どれくらい頑張れる人間なのか、浅利先生に見られていた
──浅利さんが入団して間もない飯田さんを抜擢した理由は、なんだったと思いますか?
飯田:理由を説明されたことがないからわからないのですが、その頃、ぼくは『ジーザス・クライスト=スーパースター』の稽古をしていて、浅利先生からこっぴどくダメ出しされたことがあったんです。めげずに食らいついていったら、「お前、根性入り直したな」と言ってもらえて。おそらくその一件があって、チャンスをくださったのではないかと思います。
最初のダメ出しでくじけていたら、声をかけていただくこともなかったでしょうし、声をかけていただいた後も踏ん張らなかったら、出演にこぎつけられなかったでしょう。おそらく、浅利先生からは根性を見られていたのではないかと思います。
山本:ほんとうにそう! 浅利先生は「その人がどのぐらい歌えるか、どのくらい踊れるかは、オーディション会場に入ってきて名前を言っただけでわかる。でも、その人がどのぐらい頑張れるかっていうのは、やっぱりやらせてみないとわからない。根性だけはわからない」って、いつもおっしゃっていたものね。
飯田:そうだね。(浅利先生は)その人のエネルギー、マンパワーを見る力がすごくあったと思います。だからいまだに「もし、今日の本番を見ていたら、怒られただろうな…」と思うときもあります(苦笑)。
──それはどういう時に感じますか?
飯田:公演中は、週6、7回演じるわけです。それが1か月続くうちに、芝居をしているとなぜか足りない気がして、もっと、もっと、という気持ちがわいてくることもあるんですよ。ですから意識して、その気持ちを削がないといけない。
浅利先生はよく、「100回や200回演じたくらいで、違う表現をしたくなるような芝居なんて、やめてしまえ!」って言っていたので、そうならないようにと肝に銘じています。

憧れていた役に抜擢も怖さをわかっていなかった
──山本紗衣さんは2011年にアンサンブルで出演後、2014年からはクリスティーヌ・ダーエ役で出演されています。クリスティーヌ役を入団4年目で演じるなんて、大抜擢でしたね。
山本:私は音大で声楽を学んできたこともあって、声楽の要素がふんだんに取り入れられた『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ役は、憧れの中の憧れでした。劇団四季に入って一番やりたい役がクリスティーヌだったんです。
ですから、もちろん劇団内のオーディションを受けたんですが、浅利先生から「まだダメ」と言われ、毎日、研究室で稽古していました。その後も、浅利先生の前で歌唱を披露するチャンスがあったんですが、ずっとダメ出しされ続けていました。
10回目にして、ようやく「よし、稽古に入れ」と言われたときは、とにかく「うれしい!」という感情が先に立って、キャストに選ばれた実感がなかったんです。そのときは、プレッシャーもよくわかっていなかったですね(笑い)。

飯田:わかる! ぼくもラウルに選ばれたとき、同じ感覚だった。プレッシャーはあると言っても、本当の怖さがわかってなかった(笑い)。若くて体も元気だから、パワーで押し切っていた部分はあったよね。
山本:そう。だから、デビューの日もまったく怖くなかったんです。無知ゆえなんですけど(苦笑)、楽しくて仕方なかったんです。
──そうだったんですね。クリスティーヌのとっても高いソプラノボイスを出せる人は限られていますから、よほどの実力者しか選ばれない難しい役で、大変だろうなって思っていました。
山本:そうですね。もちろん高音も大変なのですが、ソプラノを専門にしている人にとって、クリスティーヌの歌は低い部分が難しいと感じる人が多いかもしれません。使用する音域が広くて、中音域はチェストボイスという“地声”を出さなければいけないんですが、オペラのソプラノ歌手はどの音域も裏声で歌いますから、チェストボイスで歌うのが難しい。
でも、だからこそミュージカル『オペラ座の怪人』には、オペラにはない魅力があって、とてもやりがいがあるんですけどね。

「舞台の神様」に許しを請ってオペラ座の怪人に挑戦
──再び飯田さんに伺いますが、ラウルを経てオペラ座の怪人として出演が決まったときの心情はいかがでしたか?
飯田:これまでぼくの中で怪人という役は、“雲の上の存在”という感じだったんです。ただ、年齢的にも入団年数的にも、「そろそろ挑戦しても、舞台の神様に許されるんじゃないか」と思って、「歌わせていただいていいですか、 ファントムさん?」という気持ちでオーディションを受けました。
というのも、怪人の楽曲は声楽的な難易度が高いんですよ。もともとぼくはヴォーカルポピュラー(※ポップスやロック、ジャズなどポピュラー音楽の歌唱法)というジャンルで入団しているので、こうした声楽発声のミュージカル曲って、どちらかというと苦手なんです。
最近は(正当派の)声楽を教わっていないからこそ、逆に自由に歌えるんじゃないかと考えるようになりました。
例えば、ぼくは割と声帯を自由に動かせるので、声帯全体を厚くしっかり閉じたり、薄く引き延ばして縁の部分だけ合わせたりしながら、艶やかな声や柔らかな声を出してみています。最近も『美女と野獣』でビースト役を演じていたのですが、くぐもった感じでセリフを言っていたら、いつの間にかそれを出す喉の筋肉が育っていて、新しい歌い方ができるようになっていました。

──これだけキャリアのある飯田さんでも、日々進化をしているんですね! 実際怪人を演じてみて、やりがいを感じる点、難しい点はどんなところですか?
飯田:全部難しいからなあ…。
ぼくが思うに、劇団四季のミュージカルの中には醜い容姿から“怪人”や“怪物”と言われ、内側に閉じこもってしまう主人公のいる作品がいくつかあります。ぼくはオペラ座の怪人の他にも『ノートルダムの鐘』のカジモド、『美女と野獣』ビーストなどを演じているんですが、それらに共通しているのは、風貌ゆえに葛藤を抱えた人物にも、必ず周りの人から受け入れられる瞬間があるということなんです。そしてその受け入れられるタイミング次第で、物語がハッピーか、悲しい話になるかが決まるんですよね。
それが、ある作品では2幕の最初で、また別の作品では中盤、この作品は最後と違っていて、ただそれだけの違いであって、みんなそれぞれの正義を持って生きているんです。それをぼくが悲劇の物語としてかわいそうに見せようとするのは、絶対違う。判断するのは観ているお客さまなんだと、そこを強く意識しながらフラットに演じるようにしています。
あとはラウルを演じながら大先輩の怪人の芝居をたくさん見せてもらってきたので、そのイメージに引っ張られないよう気をつけることも難しかったですね。実はこれが一番努力したところかもしれないです(笑い)。
──先輩たちからアドバイスを受けるんですか?
飯田:先輩側から発信されることはまずないので、こちら側から「こういう解釈で演じているんですが、それって合ってますかね?」とか、「どうやったら安定して声が出せますか?」みたいな質問をして、「それもいいね、ぼくはこう思ってたけどね」とアドバイスをいただく形が多いです。
大先輩の村俊英さんは20年以上オペラ座の怪人役を演じ続けてきた、それこそ“怪人”ですから、当時の話から現在のトレーニング法までいろいろ質問しまくっています(笑い)。
稽古中、怪人なのにうっかりラウルのせりふが出て…
──ラウル役をやってきたからこそ、怪人を演じる上で役立ったことはありますか?
飯田:怪人の譜面を覚えるのがめちゃくちゃ早かったことですね(笑い)。あとはラウル目線だと怪人は恋人を拉致していく“敵”でしかなかったんですが、いざ怪人を演じてみると、とても孤独な人だと実感しています。完璧主義で孤高の天才。執着はあるけれどピュア。より怪人への理解が深まった感じはあります。
ただ、実は弊害もありまして(苦笑)。ラウルと怪人を交えたやり取りの場面で、つい、ラウルのセリフを言ってしまいそうになったり、ラウルのところを歌っちゃいそうになったりすることです。いまはもう慣れましたが、稽古中は、本当に苦労しました。

苦労話も、どこか楽しそうに話してくれたふたり。歌うこと、演じることが好きで好きで仕方ない、という感情が滲み出ていた。
【後編】では、さらなる作品の魅力のほか、知られざる幼少期やプライベート秘話も交えてお伝えします。