
2015年から30年にわたり、ディズニーミュージカルを上演、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、大ヒットロングランの舞台裏を独占で徹底取材! 今回は『アラジン』から、ランプの魔人・ジーニー役俳優が語った舞台裏、そしてゴージャスな衣裳についても、本誌では掲載しきれなかった情報を盛り込んだ完全保存版で公開します!【前・中・後編の中編。前編から読む】
マンパワーで再現されたきらびやかな街こそがまさに“魔法”
前編では、オーディションや稽古について、初演当時やこの10年を振り返って貴重なエピソードを語ってくれた瀧山さん。ここでは、10年にわたり、途切れることなく上演が続いてきた『アラジン』の魅力について、明かしてくれました。

──瀧山さんが思う、『アラジン』の見どころ、魅力はどんなところでしょうか?
瀧山:いちばん見てほしいのは、随所に散りばめられている魔法ですね。よく「魔法の絨毯はどうやって飛んでいるの?」と聞かれるのですが、私が思う魔法とは、ただそうしたことだけじゃない。
約10年前、ブロードウェイで開幕した当時の最新の舞台技術が使われていることも間違いないんですが、実は意外とアナログな演出もたくさんある。マンパワーも含めてあのきらびやかな舞台が作られていることが、“まさに魔法的”だと感じています。


──では、どういうところがアナログなのでしょう?
瀧山:例えば100人以上もの大行列が登場する『プリンス アリー』のナンバーでは、同じ俳優が1人3〜4回着替えながら、踊って、歌って、はけて、着替えて、また出てきて…というのを繰り返します。
アラジンが逃げ回る『逃げ足なら負けない』のナンバーでは、実物のビルディングのセットをコンピュータ制御で動かします。映像でできるところをあえて実物にこだわるからこそ、迫力が出るんです。
魔法の絨毯も……おっと、深くは言えませんね(笑い)。


──瀧山さんの好きなシーンを教えてください。
瀧山:好きというか、私にとって刺激的なシーンは、やぱり冒頭ですね。幕が上がる前、幕の目の前3cmのところでスタンバイするんです。音楽とともにバーンと幕が開き、その日の客席の空気を全身で受け止めるわけです。もちろんウェルカムでいらっしゃると思うんですけど、その日のお客さまがどういう感じで来るのか微妙な変化もあって、“サラーム”をどう言うか、ドキドキ綱渡り状態です。

せりふを母音にして棒読みするのが日課
──10年にわたり、試行錯誤しながらジーニー役を演じてきたわけですが、血反吐を吐くような努力があるんでしょうね。せりふや動きは徹底的に叩き込んで…。
瀧山:それはそうですね。私は毎日2回ランニングしているんですが、走りながらジーニーのせりふをすべて母音だけで棒読みするようにしています。
時間がもったいないので声帯を温めるのと体を温めるのを一緒にしちゃっているだけなんですが、棒読みすることで一度ついてしまった抑揚を洗っている(リセットする)んです。棒読みのほかにも、母音法で言ってみたり、お経みたいに言ってみたり、全部を関西弁にしてみたりもしてみます。それぞれ15分ぐらい。出演しない日でも毎日やっていますね。
──そういえば、ずいぶん体形がスリムになられましたよね。体重がある程度ないと声が出にくいとも聞いたことがあるんですが、発声に支障はないのですか?
瀧山:ピークはいまより20kgも重かったんですよ(苦笑)。かといって、いまと比べて当時はめちゃめちゃ声が出ていたかというと、そうでもないので、体重は関係ないと思います。
そもそも健康診断でやせた方が良いというお医者さまからの指摘を受けて体重を落とし始めたんですが、数値が良くなると体重を落とすのが楽しくなっちゃって。衣裳がガバガバになって、詰めてもらったりしました。
初演時はいまより7、8kgは重かったかな? 体重を落としていく過程で、声に影響があると感じたときがあったので、そこから少し体重を戻しましたが…。
──では、いまはおいしいものもセーブしているんですか?
瀧山:いえいえ、自分でご飯を作るのがすごく好きなので、休みの日は基本料理してそれを楽しんでいますよ。ただお酒は下戸で、まったく飲めないタイプですが。

──休日の素顔も教えてくださりありがとうございました。それでは最後に、瀧山さんにとってジーニーはどんな存在でしょうか?
瀧山:出会い、チャンス、気づきをくれた大切な存在です。いろいろなかたと出会えたり、いろいろな機会に恵まれたり、ここからすべてが始まりました。“3つの願い”以上の夢を叶えてもらっていますね。
ジーニーという役が大好きですし、日本初演に立たせていただいた人間として、この役を大事にしないといけないという責任も感じています。これからも立ち止まらず、お客さまに対しても劇団に対しても、この役を磨き続けていきたいと思っています。

撮影時には、最近、父を介して譲り受けたという100年前の曽祖父の紬を、ジャケットのようにさらりと羽織っていた瀧山さん。取材スタッフ3人にまんべんなく視線を向けながら真摯に答えてくれていたのも印象的だった。
インタビュー中、百面相のように表情を変え、声色さえも、まるでジーニーのようにコロコロと変わる様子は、「瀧山劇場」を見ているかのよう。
相手を楽しませようとするその素顔は、誰のことも取りこぼさない“いい奴ジーニー”そのものでした!
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥