
寿命の延伸とともに認知症の患者数は年々増加。いまや80代以上の「3人に1人」が認知症、「4人に1人」が軽度認知障害を発症していると推計される。決して他人事ではなく、自分はもちろん家族がいつ認知症になり、介護する側になるかは、誰にもわからない。だからこそ、元気なうちに準備しておくべきこと、決めておくべきことがある。【全5回の第5回。第1回から読む】
「最期に会いたい人」「葬儀の希望」をどう聞き出すか
認知機能が衰えて記憶力が低下すると、人の名前やその人との関係性などを忘れてしまう。本人が人生の最期に会いたい友人や知人などを知らないまま認知症が進行してしまえば、いざというときに残された家族は危篤や葬儀の際に途方に暮れることになる。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが語る。
「周囲に不義理をせず、本人が会いたい人に会えるよう、基本は常日頃の会話から聞き取りを。特に親など、離れて暮らす家族なら、仲のいいご近所さんなど現在の状況を知っている人の連絡先も知っておきたいところです」
だが、聞き出し方には要注意。本人が元気なときの“ボケる前提”の質問は、不快感を与えるだけだ。
「お葬式には誰を呼びたい?」というのは「禁句」だと指摘するのはプレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんだ。
「『葬儀』という言葉の縁起の悪さは敬遠されやすく、気分を害して何も話してくれなくなることも。ポイントは“何かあったときも、あなたの希望を大切にしたいから”というスタンスが伝わるように意識すること。可能なら、葬儀に呼びたくない人こそ聞き出せるといいでしょう」(三原さん)

「友達のお母さんが認知症になって、大変だったんだって」などと、第三者を例に挙げるのも、抵抗感を和らげる有効な聞き方。うまく話を切り出すためのポイントは「3つのT」だ。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが言う。
「1つ目は『タイミング』。入院中や病気から回復した直後など、否が応でも自分の将来を考えるタイミングに切り出します。
2つ目は話す人の『単位』です。きょうだい全員、親戚全員で集まったときなどに話すのは圧迫感が強すぎる。親ひとり、子ひとりのときや、夫婦ふたりきりのときなど、最小限の人数の方が穏やかで話しやすい。
最後は『タイプ』。理屈っぽい人にはあえて感情は伝えず、メリットとデメリットのみを伝える。世話好きな人には“教えてくれたら安心できる”と頼るなど、その人のタイプに合った聞き出し方が求められます」
「もしものときに会いたい人」を聞き出すと、必然的に最期の話になることが多い。認知症を発症して意思の疎通が難しくなってからでは、葬儀について決めることも難しいため、併せて聞き取りをしておきたい。本人が望む葬儀のやり方をあらかじめ聞き、家族の間で葬儀社候補を決めておくといい。一方で、意外と厄介なのがお墓の問題だ。
「本人が先祖のお墓を継いでいる場合、そのお墓に入りたいかどうかを聞く必要があります。
そのお墓に入りたくないうえ祭祀承継者もいないなら、墓じまいの準備を。納骨堂や樹木葬など、本人が望む形を確かめます」(明石さん)
認知症になってからは、本人の意思で決められることや、変えられることは一気に少なくなる。一方で、発症する前に家族が寄り添って準備しておけば、いざそのときが来てからの本人の苦痛も、家族の負担も大幅に減らすことにつながる。
「ある調査では、高齢の親が子供に望むことの第1位は、金銭面や介護面の問題ではなく、“話し相手になってくれること”でした。目に見えることばかり進めようと躍起になるより、大切なのは本人の顔を見て、直接会話すること。それができれば、具体的な準備のために必要なことはおのずと話し合えるはず。互いに心を開いて話し合うことこそ、本当に重要な“第一歩”なのです」(黒田さん)
どんな人でも、人生の終盤にはなりうる病気だからこそ、一人ひとりに合った準備が必要。本音がわからなくなってから後悔することのないよう、いまから少しずつ準備を重ねておこう。



※女性セブン2026年3月12日号