
MTG名古屋四季劇場[熱田]のこけら落とし公演として、今年7月から上演されている劇団四季ミュージカル『オペラ座の怪人』。その作曲家であるアンドリュー・ロイド=ウェバーが、9月25日、21年ぶりに劇団四季(東京・横浜)を訪問し、稽古に参加した。直後に行われたインタビューでは、本作品についてはもちろん、初演でクリスティーヌを演じた元妻サラ・ブライトマンとの秘話のほか、現在手掛ける新作についても語ってくれた。完全版でお届けします!【前・後編の後編。前編から読む】

観客は怪人を見に来るからこそ難しいラウル役
──今回初めて四季芸術センターを訪問して、また稽古を見学して、どんな印象を受けましたか?
アンドリュー・ロイド=ウェバー:素晴らしい建物、素晴らしい空間だと思いました。
こういった素晴らしい空間であるからこそ、学びの機会を得るということもありますし、ここでお仕事ができる、素敵な場所だと思います。
そして先ほど稽古を拝見させていただきましたが、まず3人の役者(怪人:飯田達郎、クリスティーヌ・ダーエ:奥平光音、ラウル・シャニュイ子爵:加藤迪)は全員が素晴らしかったですね。
特にラウルという役は、最も大変な役どころ。というのも、ラウルは貴族であり権威を持っているということを、しっかりと表現していかなければいけないですから。それを(加藤は)たいへんうまく表現されていたと思います。
特に、この演目を見に来られるお客さまというのは、概ね怪人を見るのを楽しみにしていらっしゃる。そんな中でラウルをしっかりと演じなければいけない。(加藤を)そういったことができる俳優だと思いましたし、かつ、怪人のしっかりとした好敵手になり得るとも感じました。
もちろん怪人もクリスティーヌも、歌だけではなく、演技力をも兼ね備えた3人だったと思います。この3人と稽古の時間を共有できてよかったと感じています。
ちょうどハイロマンスを書きたかった
──『オペラ座の怪人』は来月ロンドンで初演から40周年を迎えます。世界でも日本でも絶大な人気を誇っているわけですが、この作品の音楽が生み出された背景と、今も人々を惹きつけている魅力について、どう考えていますか?
ロイド=ウェバー:実際にどうしてこれだけの人気が出てきているのか、あるいは何が魅了しているのかというようなことを知っているふりをしてしまったら、嘘をついていることになってしまいます。
ただ1つ言えるとすれば、物語と音楽と、そしてありとあらゆるプロダクションの要素──例えば演出家のハル・プリンス(ハロルド・プリンス=故人)がいたことや、衣裳も振り付けも、照明もそうですし、いろいろなことがすべてカチッとはまったということでしょう。
こういった要素がすべてしっかりとはまるということは、ミュージカル作品の中ではあまり起こることではない、非常に希有なこと。素晴らしい作品が出来上がったということだと思います。
それは自分の力だけではなくて、先ほどお伝えしたような、例えばハル・プリンスや他の要素がすべてはまったということです。
そしてもう1つ、この作品を描いていた当時、ちょうどハイロマンスを書きたかった時期だったのです。それまでハイロマンスのようなものを書いておらず、そろそろ書きたいと思っていたのでした。
加えて、ハル・プリンスもそれまでハイロマンスを演出したことがなかった。ですから、「ハイロマンスをやりたい」というわれわれ2人の思いがあふれた、それが形になって結実したということではないかと思います。

作品のキモは物語。新作は「モナリザ」のコメディー
──長く愛されるミュージカルには音楽の力が大きいと思います。作品と向き合うとき、作曲されるときに苦労されている点はどこにあるのですか?
ロイド=ウェバー:ミュージカルを書くとき、まず大切なのが、良い物語を発見するということ。この、“物語を見つける”ことができてから、その物語に合う楽曲を書いていきます。
いま、新作を手掛けているのですが、その新作が非常にコメディーで、たいへん面白いものになっている。
これは1911年に絵画のモナリザが盗まれて、3年間姿を消していたという実話をもとにした作品になります。非常に面白い作品で、もちろん真面目なトーンもありますが、全体としてはコメディータッチです。つまり、『オペラ座の怪人』のような楽曲とは違う曲調になってくるわけです。
どのような作品であったとしても、長年にわたって成功を収める作品というのは、まずは物語がしっかりとしていることが重要になってきます。
例外は『キャッツ』。これに関しては、物語があるかどうかというようなところを話し始めてしまうと、丸1日かかってしまいますので、例外であるということだけ述べて、その理由は割愛いたします(笑い)。
ですが、どのようなものであれ、物語を見つけるというようなことがまずは課題になってくる。それから音楽を書き上げるというような形になります。

フィギュアスケーターに愛される楽曲
──羽生結弦さんや高橋大輔さんなど、多くのフィギュアスケーターがロイド=ウェバーの楽曲をプログラムに採用しています。トップアスリートが、『オペラ座の怪人』などを楽曲に選んで演じていることをどう感じていますか?
ロイド=ウェバー:私の楽曲を使っていただけることは、非常に光栄です。フィギュアスケートのプログラム向けに書いているわけではないのですが、私が書いた曲の中で、なんらかの光るものを発見していただいて、フィギュアスケートとして解釈をしてくださっていることを、非常に光栄に思います。
「陶器の声」を持つサラ・ブライトマン

──以前、『オペラ座の怪人』の出来が最初からすばらしく、(修正点がないので)すぐバカンスに出掛けられるくらいだったと話していたことが印象的でした。もともとはサラ・ブライトマンさんの存在も大きく、彼女の声があって完成したものと思います。しかし、その後どんどん演者は変わっていきますし、日本でも違う俳優で上演されていますが、そうなると、ちょっと曲を変えてみたくなったりはしませんか?
ロイド=ウェバー:NO! ありません。というのも「変えたい」と思ってしまうと、全部を再構築しなければいけなくなってしまうからです。
サラ・ブライトマンの話が出てきましたが、実はサラと2週間前にランチをしたんです。2人ともアイルランドにいたため会えたのですが、その際に初演のリミックスの音源を聞いてもらうことができて、彼女もとても感動してくれました。感動しているサラを見て、自分としては、その当時、2人がこうした関係性だったというようなこと自体が、とっても特別なものだったのだとあらためて気付かされました。
あのリミックスを彼女に聞いてもらえてよかったと思いますし、さまざまな俳優がそれぞれの声で歌ってくださっているのを聞くと、それぞれの人がまた別のクオリティーをもたらしてくれているという風に感じます。それはそれでとてもいいことです。
ただし、サラが持っているもの──初演時に「ロンドン・デイリー・メール」のある批評家が、「彼女の声は繊細な陶器みたいなものだ」というようなことを言っていたのですが、作曲家としてそうした声の持ち主と一緒に作品をつくるという経験ができたことが、とても素晴らしいことだったと思いました。
ですがそれと同時に、他のかたがたも本当に素敵な俳優ばかりで、いろいろな優れた才能を持っていらっしゃるかたに、どんどんその役どころを演じていただけるということ自体、本当に素晴らしいことだと思っています。誰か一人が優れているというようなことすら言えないほど、全員が素晴らしいと思える……そんな体験ができている自分を、ラッキーだと感じています。
世界中を魅了するアンドリュー・ロイド=ウェバーの名作の数々

ロイド=ウェバーが手掛けた作品は、『オペラ座の怪人』以外にも複数あり、『ジーザス・クライスト=スーパースター』や『エビータ』、『キャッツ』などが劇団四季により繰り返し上演されてきた。それは50年以上も続いている。
ロイド=ウェバーは、インタビューの最後に、日本のファンにこう語りかけた。
「この53年間、日本では温かく(自分と自分の作品を)歓迎してくださっていると感じています。日本の皆さんに対して、あらためて感謝を申し上げます。ありがとうございます」
ミュージカルは、ロイド=ウェバーが語るように、音楽や演技はもちろん、舞台装置や衣裳、照明など、さまざまな要素がそろって成り立つ総合芸術。同じ作品でも、子どものころ観劇するのと、多感な青春時代、あるいは大人になって、はたまた人生の円熟期になって観劇するのとでは、見え方が違うはずだ。
幸いにもロイド=ウェバーが手掛ける作品は、劇団四季により何度となく上演されている。見るたびに違った感動をもたらしてくれることに、観客の立場から感謝したいと感じている人も、多いのではないだろうか。
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『ライオンキング』は有明四季劇場開場5周年

息の長いミュージカルといえば、劇団四季が1998年から日本演劇史上初の無期限ロングランを続ける『ライオンキング』。9月26日には有明四季劇場での上演5周年を迎え、記念舞台挨拶が行われた。
同劇場での公演回数は1607回、観客動員数は約159万人に上る(同日公演終了時点)。この作品も、あと2年で日本上演30周年。さらなる金字塔を打ち立てる日は近い。