
国民の3人に1人が該当し、70才以上の半数が薬を服用しているとされる「高血圧」。誰もが人ごとではない一方、高血圧と“判定”する基準値は、実にあいまいだ。基準値に惑わされ、治療や投薬で不調を招かないための、本当に目指すべき数値の見分け方とは。
基準値は40年前の血圧180から140に厳格化
高血圧は、患者数が推計約4300万人にのぼり、日本人の「国民病」といわれる。厚労省の調査によれば、そのうち治療を受けている人は約1617万人。男性約747万人に対して女性は約871万人と、女性の方がその数は多い。名古屋学芸大学客員教授で老年科専門医の下方浩史さんが指摘する。
「若い頃は女性ホルモン『エストロゲン』の影響で血管がしなやかに保たれ、男性に比べて血圧が上がりにくいのですが、閉経を迎える50才頃から女性ホルモンが急激に減少し、高血圧になりやすくなります。実際、閉経からの約10年で、血圧が平均約10mmHg上昇するといわれています」 50才を超えると、病院や健康診断で高血圧と言われることが増え、脳卒中や心筋梗塞への不安が頭をよぎる人も多いだろう。しかし、基準値を超えたからといって、一律に危険と決めつけるのは大きな落とし穴だ。
そもそも「基準値」は、時代とともに変わってきた。約40年前には180/100mmHgが高血圧治療の目安とされていたが、現在は140/90mmHg以上で高血圧と診断され、130/80mmHg未満が治療の目標値とされる。

東海大学名誉教授の大櫛陽一さんは、この基準値の設定に疑問を投げかける。
「基準の厳格化によって、高血圧患者はこの40年で約20倍に増えました。現在の基準値と降圧目標の根拠のひとつが、アメリカで行われた『SPRINT試験』です。しかし、この研究は対象者に腎疾患・心血管系疾患の既往歴があることや、特殊な血圧測定法を行っているなどの理由で世界から批判されており、科学的根拠は乏しい。
実際、イギリスの公式ガイドラインでは採用が見送られています。にもかかわらず日本高血圧学会が採用した背景には、高血圧で患者を増やしている臨床学会と、降圧剤で利益を得る製薬企業の思惑があると考えざるを得ません」
昨年には、75才以上に設けられていた降圧目標の区分「140/90mmHg未満」がなくなり、年齢に関係なく「130/80mmHg未満」に統一されるなど厳格化の傾向は続く。しかし、シニアまで一律の降圧目標を目指すのは危険だと大櫛さんは続ける。
「百寿者を調べた慶應大学の研究では、上の血圧(収縮期血圧)の上昇に比例して自立度(自立して日常生活が送れる)は上がり、156~220mmHgの人たちの自立度がもっとも高かった。
さらに、私が日本人約70万人の健診結果から統計学的に男女年齢別の正常値を計算したところ、健康な人では年齢とともに血圧は上昇し、50~60代なら上は160mmHg、70代なら165~170mmHgくらいまでが『正常』だとわかりました。つまり、加齢に伴う血圧上昇は必要な変化なのです。それなのに、日本では利益相反のある基準値や降圧目標に惑わされて、血圧上昇の原因を調べずに、降圧剤でとにかく血圧を下げることを目標とさせられているシニアがとても多いのです」