検査では異常がないのに、慢性的に胃もたれが続いて困っている…。そんなときは漢方薬が役に立つかもしれません。
胃もたれは胃腸の病気のほか、食べすぎや飲みすぎ、冷えやストレスなどによっても起こります。薬剤師の道川佳苗さんによると、胃もたれにおすすめの漢方薬はいくつかあり、胃もたれのタイプに応じた漢方薬を用いることで予防や緩和が期待できるそうです。
そこで、道川さんに教えてもらった胃もたれタイプのセルフチェックリストから、自分に合っている漢方薬を見つけてみましょう。
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「胃もたれ」の症状と原因
胃の不調には胃もたれ、食欲不振、胃痛、胃が焼ける感じなど、さまざまな症状があります。まずは、胃もたれの原因について、病気とそうでないものを分けてご紹介します。
病気による胃もたれ
胃の不調が続く場合、以下のような胃腸の病気が原因の可能性があります。
<胃もたれを引き起こす胃腸の病気>
・胃・十二指腸潰瘍
・ピロリ菌の感染
・薬剤性胃炎(NSAIDSなどの鎮痛薬によるもの)
・自己免疫性胃炎
病気や薬剤が原因である場合は、西洋医学的な治療を優先させる必要があります。そのため、胃もたれの症状が続く場合、まずは医療機関の受診をおすすめします。
明らかな病気が見つからない胃もたれ
検査をしても何の異常もないのに、慢性的に胃もたれなどの胃の不調が続く状態を医学的には「機能性ディスペプシア」といいます。原因ははっきりしませんが、ストレス、過食、不規則な食生活、喫煙、アルコールなどが一因となり、胃の不調が慢性化していることが多いです。このような、明らかな原因がない胃もたれには、漢方薬が向いています。
漢方医学的にみる胃もたれの原因
漢方医学では、主に以下の3つが胃もたれの原因となると考え、状態に合わせた漢方薬を服用することで対処しています。
<漢方的にみる胃もたれの原因>
・「胃腸虚弱」…胃の動きが悪いことによるもの
・「ストレスによる気滞(きたい)」…みぞおちの辺りに気が停滞することによるもの
・「食べすぎ・飲みすぎによる熱」…過剰な熱がたまることによるもの
漢方薬は心と体全体のバランスを調整することを目的としており、原因がわからない不調や繰り返す不調を根本から改善することを得意としています。そのため、明らかな原因が不明の「胃もたれ」にも、漢方薬なら根本から対処できます。
漢方薬は薬として効果が認められているものの、自然の生薬から作られており、西洋薬よりも副作用が少ないといわれていることも特徴です。
チェックリストで胃もたれのタイプを診断
漢方では、人の健康を「気・血・水(き・けつ・すい)」3つの巡りの状態で考えます。そのため、漢方薬を選ぶときには、もともとの胃腸の強さや気・血・水の状態によるタイプ分けが必要です。タイプに合った漢方薬を服用することで、より効果が現れやすくなります。
これから紹介するチェックリストで、胃もたれタイプを診断してみましょう。
胃腸虚弱タイプ
以下のチェック項目に当てはまる人は、もともと胃腸が弱く冷えにも弱い体質の「胃腸虚弱タイプ」の可能性があります。
・冷えると胃の調子が悪くなる
・疲れやすい
・食欲がない
・少量ですぐにお腹がいっぱいになってしまう
・みぞおちがつかえる感じがする
胃の動きが悪いために胃もたれが起こりやすいタイプです。このタイプは「気・血・水」では気(エネルギー)の不足した気虚(ききょ)タイプに当てはまります。胃の働きが悪いときには、水(すい)の停滞も起こりやすくなります。
ストレスタイプ
以下のチェック項目に当てはまる人は、気の流れが滞っている人に多い「ストレスタイプ」の可能性があります。
・ストレスで胃の不調が起こる
・吐き気や胸焼けがある
・食欲がない
・胃痛がある
・ため息やゲップが多い
みぞおちの辺りに気が停滞していることにより、胃の不調が引き起こされるタイプです。漢方では人間の感情も気の働きの表れと考えるため、ストレスを感じると、より気の巡りが滞って症状が悪化します。胃の働きが悪いときには、水(すい)の停滞も起こりやすくなります。
熱タイプ
以下のチェック項目に当てはまる人は、もともと胃腸が強い「熱タイプ」の可能性があります。
・体力があり、がっちりした体形である
・高血圧傾向でのぼせやすい
・イライラしやすい
・普段から飲酒が多い
・胃痛がある
胃腸が強いために、食べすぎたりお酒を飲みすぎたりしてしまい、体に余分な熱がたまっている状態です。炎症が起きやすく、胃炎に伴う胃もたれが起こりやすくなります。
体質に合った漢方薬で胃もたれの悩みを改善
体質に合った漢方薬を用いることで「気・血・水」の巡りが整えられ、根本から胃もたれなどの不調の改善が目指せます。それぞれのタイプにおすすめの漢方薬は下記です。
胃腸虚弱タイプにおすすめの漢方薬「六君子湯」
六君子湯(りっくんしとう)は、胃の動きを促進させる漢方薬です。消化器を温め、気を補い消化機能を改善する効果があるので、胃もたれや食欲不振、消化不良などに用いられます。胃にたまった水(すい)の停滞も改善します。
ストレスタイプにおすすめの漢方薬「半夏瀉心湯」
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、気の滞りを解消する働きをもつ漢方薬です。気の巡りをよくし、胃腸の炎症を抑えるため、ストレス性の胃炎に用いられます。胃にたまった水(すい)を取り除く働きもあります。
熱タイプにおすすめの漢方薬「黄連解毒湯」
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、熱を冷ます生薬が複数含まれており、熱による胃炎症状を改善します。そのほか、二日酔いや動悸などにも用いられます。
自分のタイプに合った漢方薬で胃もたれを解消しよう
冷えやストレス、乱れた生活習慣などにより体のバランスが崩れて引き起こされる胃の不調に漢方薬をもちいれば、心と体の状態を正常に整える作用で、慢性化した胃もたれも解消できる可能性があります。
漢方薬は自分の体質やタイプに合ったものを選ぶことにより効果が発揮されるので、まずは専門家に相談しましょう。
教えてくれたのは:薬剤師・道川佳苗さん
みちかわ・かなえ。漢方薬・生薬認定薬剤師。調理師。薬膳アドバイザー。大学卒業後、薬局にて従事し服薬指導をする中、病気の予防、健康維持には食育が大切であると感じ、服部栄養専門学校で調理技術、栄養学を学ぶ。現在はweb上で健康相談や薬膳や漢方に関する情報発信をしている。
・あんしん漢方(オンラインAI漢方)