犬や猫は虫歯にはなりにくいと言われています。しかし、歯の手入れを怠ると重大な疾患につながることも…。
飼い主が知っておきたいペットの健康情報について専門家に聞くシリーズ。今回は、歯の手入れや歯周病リスクについて聞きました。
虫歯はにはなりにくいが、歯周病には要注意
獣医師の山本昌彦さんによれば、「犬や猫は虫歯になりにくい」と言います。それでも、犬や猫も歯磨きをしたほうがいいとのことですが、どうしてでしょうか?
「犬や猫の口腔内は、人間とはpH(水素イオン指数)が異なり、虫歯を引き起こす細菌が生息しにくいので、虫歯になりにくいです。しかし、歯垢や歯石はたまりますし、歯石を放置すれば歯肉炎などの歯周病になってしまいます。歯茎の炎症は痛みや悪臭を伴いますし、歯が抜けてしまったり、顎の骨が溶けてしまったりすることもあります。
さらには、内臓疾患につながる可能性が指摘されているので、日頃から歯の手入れをして歯周病を予防したいところです」
歯垢が歯石に変わると危険!?
たまってしまった歯垢が歯石に変わると、動物病院で除去することになります。このときにかける全身麻酔が、犬や猫には重大な結果を引き起こすこともあるといいます。
「歯の手入れが不十分だったために、麻酔の事故で亡くなってしまうといったことが起きるとあまりに悲しいので、日頃から愛犬、愛猫の歯のケアに努めていきましょう」
歯磨きトレーニングは乳歯のうちから
犬の乳歯は28本。生後8週頃までに生えそろい、生後5か月頃から永久歯に生え変わっていきます。永久歯は42本です。猫は乳歯が26本。やはり生後8週頃までには生えそろい、生後3か月頃から生え変わります。永久歯は30本。生涯、1本も欠けないように大事にお手入れしていきたいですね。
「乳歯は汚れてもどうせ生え変わると考える人がいるかもしれませんが、歯磨きに慣れてもらうためにも、乳歯のときからトレーニングは始めてください。成犬・成猫になってから急に口に触ろうとしても、嫌がってうまくいかないことが多いです。子犬・子猫の頃から、飼い主が口に触るのは普通のこと、歯磨きは当たり前、と教え込む必要があります」
歯磨きトレーニングはステップをいくつも踏んで
歯磨きトレーニングは、最初から歯ブラシで磨こうとしないで、段階を踏むとスムーズに進みやすいそうです。
「まずは、外から口に触ってみましょう。慣れてきたら、唇をめくったり、口の中にも指を入れたりしてみてください。歯や歯肉を触れるようになったら、指に歯磨きシートを巻きつけて、歯の表面を拭うようにします。これにも慣れたら、歯磨きジェルをつけてシートで歯をこする。ここまでできれば、歯ブラシに変えても大丈夫な子が多いですね。
歯ブラシは歯間や歯周ポケットにもブラシの毛が届くので、汚れを落とすには最も適した歯磨き道具です。基本的には、ブラシで磨けるようになることを目指しましょう。
歯ブラシは犬・猫用を使ってください。歯磨きジェルは必ず犬・猫用のものを選びましょう。人間用のものを使ってはいけません。特に、キシリトールは犬・猫に中毒を引き起こすので、絶対NGです」
歯ブラシが使えなくてもできる範囲でケアしよう
歯磨きトレーニングで大切なことは、歯磨きをするといいことがある、と愛犬や愛猫に意識づけることだといいます。
「ご家族で飼われている場合は、1人が抱っこして、もう1人が口に触れたり歯を磨いたりすると、愛犬や愛猫もリラックスできると思います。ごほうびもうまく使いながら、時間をかけてトレーニングしてください」それでも、愛犬や愛猫が、歯ブラシを口に入れられるのを、どうしても嫌がる場合にはどうしたらいいのでしょうか。
歯磨きシートで丹念に拭くだけでもいい
「トレーニングの開始が遅かった子や、性格上どうしても歯磨きを嫌がる子は確かにいます。その場合は無理をしないでください。無理をして飼い主さんが手を噛まれたりしてペットとの関係が悪くなってしまうのは残念です。また、一度そういうことが起きれば、その子の口に触れることさえ難しくなってしまいます。
歯ブラシを嫌がる場合は、次善の策を取りましょう。歯磨きシートで丹念に拭くだけでも何もしないよりはいいですし、液体歯磨きや歯磨きガム、歯磨きトイを与える方法もあります。口臭や歯茎の状態はこまめにチェックして、何かあれば早めに動物病院へ。病院やサロンの歯磨きサービスを利用してもいいと思います」
歯磨きの頻度は少なくとも2~3日に1回
人間なら毎食後に歯を磨く人もいると思いますが、犬や猫の場合も1日何度も磨いたほうがいいのでしょうか。
「食べたあとに毎回磨ければベストですが、飼い主さんにも仕事や生活があるので、それはあまり現実的ではないかもしれません。1日1回、夜に磨ければいいのではないでしょうか。歯垢が歯石に変わるのに3日ほどかかると言われているので、少なくとも2~3日に1回はケアして歯垢を落としてあげてください」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん
獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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