食欲の秋とは言いますが、たくさん食べたはずなのに、食べたい気持ちが止められない人も多いのではないでしょうか。
しかし、肥満や生活習慣病などの病気につながるほどの過食は、体や心からのSOSという可能性もあります。
漢方にも詳しい管理栄養士の小原水月さんによると、食べ過ぎてしまう理由を知って、日頃の食事に気をつけたり、原因となっている生活習慣を見直したりすることで、改善できるそうです。さらに、イライラからくる食欲のコントロールには、漢方薬が役立つ可能性もあるとのこと。
そこで、食欲が止まらない原因と改善におすすめの食材、漢方薬について小原さんに教えてもらいました。
* * *
食欲が止まらない・抑えられないのはなぜ?
コントロールできないほどの食欲を感じる大きな原因は、栄養不足と自律神経の乱れであることが多いです。
栄養不足
成人女性に必要なエネルギー量は、1日およそ2000kcal。「ダイエットを意識して食事の量を減らしている」「体が重く感じるから朝食は食べない」というような食生活では、必要なエネルギーや栄養素を確保できていない可能性があります。
また、特定の食材ばかり食べる、もしくは抜くというような食事も、栄養不足のリスクを高めます。栄養素は単体ではなく連携して働くので、ひとつの栄養素が不足するだけでもバランスが崩れやすくなるのです。
栄養不足が続くと体は食欲を高めて食べ物をとろうとするため、食欲が増してしまいます。
自律神経の乱れ
呼吸や体温、食欲など、心も含めた体全体のバランスを無意識に調整しているのが自律神経です。しかし、ストレスや外からの刺激を受けることで自律神経が乱れることがあります。
例えば、以下のような状況は自律神経の働きを乱す原因となります。
・気候の変化
・気圧の変化
・引っ越しや異動など環境の変化
・睡眠不足
・強い我慢、行動制限
・近しい人が亡くなるなどのショック
大きなストレスがかかると自律神経のバランスが乱れ、体にさまざま不調があらわれます。抑えのきかない食欲もその症状のひとつです。
また自律神経の乱れはホルモンバランスの乱れも招きます。女性ホルモンは食欲のコントロールにも関わるため、ホルモンバランスが乱れることが食欲を抑えられなくなる一因になるのです。
栄養バランスのとれた食事とストレス解消で食べ過ぎを予防
たまに食べ過ぎるくらいであれば問題ないことがほとんどですが、頻繁になると心と体への負担が心配です。食欲のコントロールには、大きく2つのポイントがあります。
1日3回の食事で栄養バランスを整える
1日に1、2回の食事では必要な栄養素を確保するのは難しいため、3食とることが推奨されます。「朝はお腹が空かない」という人は、胃が疲れているのかもしれません。
夕食に重たいものを食べたり、早食いをしたり、遅い時間に食事をとったりすることは、胃の負担になります。夕食の内容や時間、十分に咀嚼(そしゃく)できているかなどを、振り返ってみてください。
献立は、ごはんを中心とした一汁一菜または一汁二菜にすると、バランスが整いやすくなります。昔ながらの日本の食事は胃腸に負担をかけにくいとされ、そのため日本人の体質には日本食(米食)が合っているといわれています。
リフレッシュ法を身につけてストレスを溜めないようにする
ストレスは適度に解消し、溜め込まないことが大切です。こうすれば安心できる、これをすると元気になる、といった自分にとってのリフレッシュ法を用意しておくといいでしょう。
以下に、簡単にできるリフレッシュ法を挙げます。
・散歩
・入浴
・読書
・映画鑑賞
・ストレッチ
・趣味に没頭する
・十分な睡眠をとる
食べること以外の楽しみを見つけておくことがポイントです。ひとりになれる時間や空間を用意しておくのもいいですね。
食欲を落ち着かせる食べ物3つ
漢方医学では、季節や体に合った食材を食事に取り入れることが健康の底上げにつながると考えます。薬のような即効性はありませんが、続けることで、体を変えることにつながります。
食欲が抑えられないとき、特におすすめの食材を紹介します。
味噌
味噌は清熱(せいねつ)といって、体にこもった余分な熱を収め、イライラを鎮めるとされています。季節の野菜をたっぷり入れた具だくさんの味噌汁は、手軽に味噌がとれ、食事としての満足度も高いイチオシの料理です。
大麦
大麦は益気調中(えっきちょうちゅう)といって、元気を高め胃腸の機能を回復させると考えられています。胃腸の機能が回復することで、食事の栄養をしっかりと吸収できるようになります。
身近なのは「雑穀」として販売されている、大麦を加工した丸麦、もち麦、押し麦などです。お米と一緒に炊くだけなので、簡単にとることができます。
ぶどう
ぶどうは徐煩(じょはん)といって、ストレス解消に役立つとされています。ゆっくり咀嚼を繰り返すことで自律神経のバランスが整いやすくなるため、ジュースではなく果物をそのまま食べるのがおすすめです。
食欲コントロールに効果的な漢方薬
イライラや落ち込みなどのストレスが原因で食べてしまう方も多いと思いますが、そうした精神症状や自律神経・ホルモンバランスの乱れに効果が認められている漢方薬を取り入れる方法もあります。
漢方薬で体質を改善
漢方薬は自然由来の生薬を組み合わせて作られており、西洋薬に比べて体にやさしく働き、体質を改善する効果が期待できます。
イライラからくる過食におすすめの漢方薬2つ
そこで、イライラからくる食欲をコントロールしたい方におすすめの漢方薬を2つ紹介します。
・柴胡加竜骨牡蛎湯
精神症状や自律神経を整える柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、イライラしがちな人におすすめの漢方薬です。気が立っているときや落ち着かない気持ちを穏やかにするのを助けます。
・加味逍遙散
加味逍遙散(かみしょうようさん)はホルモンバランスを整える漢方薬です。生理前に気持ちが落ち着かない、イライラするといったPMS(月経前症候群)の症状や月経不順、更年期障害にも用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こる場合もあります。自分に合う漢方薬を見つけるためにも、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談しましょう。
生きるうえで、食事は大切なもの。おいしく、楽しくいただくことで、心も体も満たしてくれます。ストレスを上手に解消し、暮らしと食事の内容を整えていきましょう。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん
おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。現在は「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで情報発信もしている。