
睡眠の質が良くなく、すっきりとした目覚めにならないと悩んでいる人は多いのではないでしょうか。著書『予約の取れない漢方家が教える 病気にならない食う寝る養生』(学研プラス)が話題の漢方コンサルタント・櫻井大典さんに、中医学の視点から不眠の原因について解説してもらいました。
不眠は心と体のトラブル
「不眠になる原因を中医学的に解説すると、まず、感情=喜怒哀楽が過度になると、睡眠の不調が起きると言えます」(櫻井さん・以下同)
不眠を招く4つの感情
不眠は人間の4つの感情に大きくかかわっているといいます。
「人の感情には、喜び、怒り、憂い、思い、悲しみ、恐れ、驚きの7つがあります。そのなかでも特に、怒り、憂い、思い、悲しみ、の4つが過度になると、不眠になりやすいのです。なぜかというと、これらの “感情”と体の中の臓腑(ぞうふ)が強く結びついているからです。
不眠の話となると“心の問題”とみなされ、体とは分けて考えられがちですが、実は心だけの問題ではありません。感情は目には見えないものの、それぞれが体のいろいろな部位とつながっていると中医学では考えます」

胃腸が弱り、血が不足する
「ストレスで胃が痛む」ということがあるように、櫻井さんによると、思い悩むようなことがあると胃腸が弱るのは、中医学で言う“血(けつ)”が不足するからだそうです。中医学で“血”とは、全身を巡り栄養を届ける血液や栄養分のことです。
「思い悩むと気の巡りがわるくなり、胃腸機能が低下します。その結果、飲食物の消化吸収率が下がって、気や“血”をつくる力が低下するのです。
実は眠りは、“血”の量に大きく左右されます。中医学で“血”は精神を安定させる働きがあると考えるため、“血”が十分にあればよい睡眠がとれますが、足りなければ睡眠に支障が出るのです。
眠れない日が続くと、さらに“血”が足りなくなります。負のスパイラルに陥り、心の不調が体の不調を引き起こすのです」
年をとると長時間眠れなくなる理由
一般的に、年をとるほど眠りが浅くなることが知られています。その点について櫻井さんは「年をとってくると長時間眠れなくなるのは、ある意味当然のこと」と指摘します。

“腎”が弱ると夜通し眠れなくなる
「中医学では、“腎”という臓腑が精力や生命エネルギーを作り出していると考えます。腎は、加齢によって次第に弱っていきます。腎は体内でうるおいをつくり、体の熱を調整する役割も担っているため、腎が弱れば熱が抑えきれなくなり、動悸やのぼせが生じたり、焦燥感が強くなって夜通し眠れなくなってしまうのです」
“肝”が弱ると眠りが浅くなる
「また、“肝”が弱ると“血”をしっかりと貯めることができなくなり、メンタルが不安定になるため、眠りが浅くなってしまいます」
それでも、やはり個人差があるようです。
年をとっても長く眠れる人は何が違うか
「歳をとっても長く眠れるかたと、細切れ睡眠になるかたの違いは、臓腑がどれだけ強いか、日々の食生活のバランスがいいか、胃腸の調子が整っているかで変わってくると考えられます」
偏った食生活も原因に
「特にストレスや悩みがないのに寝つきが悪い」という人には、「食生活を振り返る」ことを櫻井さんはすすめます。

“血”の不足は不眠に直結する
「甘いものや脂っこいもの、毎日のようにお酒を飲むような生活を続けていると、体内に不要物が溜まっていきます。
不要物は体の中で熱をつくり、気持ちをたかぶらせるので、イライラしたり、カッカしたりしてなかなか寝つけいないことにつながっていきます。またそれらの食べ物からは、体を動かすエネルギーや“血”、うるおいをつくることはできません。
“血”の不足は不眠に直結するため、食生活を見直すことで、不眠はもちろん、それ以外の不調にも対処することができるはずです」
◆教えてくれたのは:漢方コンサルタント・櫻井大典さん

漢方コンサルタント。国際中医専門員。日本中医薬研究会会員。漢方薬局の三代目として生まれ育つ。カリフォルニア州立大学で心理学や代替医療を学び、帰国後はイスクラ中医薬研修塾で中医学を学ぶ。中国の首都医科大学附属北京中医医院などでの研修を修了し、国際中医専門員A級資格を取得。これまで年間数千件の健康相談を受け、延べ4万件以上の悩みに応えてきた。今年7月、病気にならないための食事と睡眠の新常識をまとめた『予約の取れない漢方家が教える 病気にならない食う寝る養生』を出版。https://yurukampo.jp/