
『しろくまのパンツ』や『やさいさん』、『うんこしりとり』『魚がすいすい』など大ヒットした絵本をはじめ、ワークショップ、立体作品、舞台美術、アニメーション、雑貨制作など、さまざまな分野で幅広く活躍している亀山達矢さんと中川敦子さん夫婦によるユニット・tupera tupera(ツペラ ツペラ)。9月25日まで兵庫県の豊岡市立美術館で開催されている絵本原画展も話題を集めています。今回のインタビューでは、20年前にユニットを結成してから子育てと夫婦の時間も共有しながらコンビで創作活動を続けているお2人に、仕事と家庭を切り離すことなく、夫婦で相互に連携しながら両立する方法についてお話をうかがいました。
子供が生まれ生活が激変 仕事も家事も役割分担しないスタイルに
――ユニット結成20年、結婚生活15年とお聞きしております。夫婦で仕事と生活を共にされていますが、日々の生活のスタイルはどのようなものなのでしょうか?

中川さん:亀山との出会いは10代の終わりごろなので、予備校から大学、そして社会に出てからと長く付き合っていて、25歳のときにtupera tuperaを結成しました。その後。活動をいっしょに続けながら、そろそろ結婚という流れになって、30歳で結婚。親の手前もありましたし、結婚したほうが社会的にメリットもあるかなと(笑い)。本当に一緒にいるのが当たり前のようになっていましたね。
亀山さん:ぼくたちは仕事も家事も、どちらも両方のことをできるようにしています。すると生活がすごく楽になりますから。家事の分担も特に決めていなくて、中川が仕事で大変になっていると、ぼくが「じゃ、ご飯はこっちが作る」と言って作ったり。これも自然にでき上がった僕たち夫婦のスタイルです。
――2人で生活する中で大きく変わった出来事はありますか?
中川さん:出産してからは、それまでとは2人の生活が変わりましたね。

結婚した年のことでした。妊娠中も、産後の生活についてまったく心配してなかったし、大丈夫! 自分らしく子育てしていけると呑気に構えていましたが、いざ子供ができると全てが初めてのことでテンテコ舞い! いろんな情報を集めて、何が正解なのかを探したり。今思えば、みんなそれぞれで子育てに正解なんてないのに、一生懸命になって視野が狭くなってしまうんですね。
産後2か月後くらいで仕事に復帰したら、だんだんと以前の自分を取り戻し始めて、落ち着いてきました。母親というものにも慣れてきて、子供が1~2歳までは特に、一緒の時間を大切にしようと思うようになりました。一般的だと「仕事」と「育児」「家事」の両立になりますが、私たちの場合は、「クリエーター活動」と「育児」「家事」をどうやっていくかということが課題になりました。

――どのようにしてそのバランスをとっていかれたのでしょうか?
亀山さん:いい意味で気楽に「楽しくやろう」をモットーに、出産後、ぼくも中川も協力し合うようにしました。でも子育てに協力するといっても、子供が明らかにぼくより母親を求めていることが分かるから、ちょっとがっかりしたり(笑い)。子育てにかける時間は、やっぱり自然と母親が多くなっていくという感じでしたね。
子供中心の生活から変化した夫婦の在り方「絆が深まった」
――お子さんが生まれてから夫婦のスタイルはどのようになりましたか?
中川さん:子供が生まれる前は、仕事でもプライベートでも、ほとんど一緒に行動していたんですが、産後はやっぱり私の行動範囲は狭まって、最初は置いてきぼりになったようで悲しい気持ちにもなりました。でも、だんだんそういった生活にも慣れていって。いつの間にか私は子供と過ごす時間の中で、子供に癒されていたからですね。

亀山さん:子供が生まれた後の取材では「子供が生まれて、クリエーターとして変わったことはないですか?」という質問をよくされましたが、そのときは特にないですと答えていました。でも年月が経って振り返ると、明らかに影響があったと思います。
中川さん:これまで亀山と一緒に開催していたワークショップなどのイベントも、2人目が生まれてからは特にすべてを一緒に行くことは難しくなり、亀山1人で行うようになりました。プライベートで友人に会うときも、夜は行かないことが増えました。
でも、亀山が帰宅してからあった出来事を全部話してくれるので、自分がまるでみんなと一緒にいたような、その場の楽しさみたいなものを共有しているような気がするんです。努力して共有しているわけではなくて。亀山の話を聞いていたら、外で過ごしていることが想像できるし、まるで自分がその場にいるような錯覚を覚える、みたいな感じです。
夫婦が長続きする秘訣は「共有」
――お2人が考える「夫婦の長続きの方法」とはどのようなものですか?
中川さん:仕事も家事も一緒という私たち夫婦だけが「特別に共有している」のではないような気がします。夫婦はもともと全く違う場所で生きてきた人間同士、最初から分かり合えるわけはないのですが、楽しかったことも辛かったことも、同じ時間や経験を共有することで、絆が深まっていくんじゃないでしょうか。

私たちは仕事でもプライベートでも共通の知り合いが多いですが、共通の知り合いが少ない夫婦でもきっと何かを共有し合っているはずです。バカバカしいことや小さなことでも。そこには夫婦のコミュニケーションが必ずあるような気がします。
でも、夫婦の形もそれぞれですから、一概には言えないですね。お互いを尊重しながら、気持ちよく暮らしていけるスタイルを模索し続けていくしかないですよね。
家族で心地よく過ごすための変化とは?「喧嘩はその日のうちに解決する」
――家族が増えたことで、2人の関係にも変化が生まれたのでは?
亀山さん:子供が生まれてから外出は2人から3人になり、その後4人になり。どこに行くのも子供が一緒になりました。ぼくが外食したくても、中川と子供は「家に帰って食べたい」と言うと、2人に従って「じゃあ、家で食べよう」になる。それは妥協ではなくて、家族で一緒に行動することを重視しているからでしょうね。
子供たちとの毎日は、何がおこるかわからない、ハプニングで溢れています。特に小さなうちは、未知の生物! 本当に面白い。親は、まずその貴重な時期をいっしょに過ごせることを楽しんだほうがいいですよ!

――仕事においての変化もありましたか?
中川さん:子供の成長と共に、自然と絵本の仕事も増えましたね。絵本は子供だけのものではないと思いますが、やっぱり読者の多くは子育てしている家族。自分が親になってからは子供の目線がわかってきたような気がして。子供との関係は確かに絵本作りに影響を与えています。
亀山さん:子供は現在14歳と10歳になりました。作品ができ上がったら子供に読み聞かせるというようなことはしていませんが、ずっと近くにいて見守って応援してくれている存在ではあるので、時々アトリエにやってきては、制作中の絵を自然な感じで眺めています。たまに「いいね!」とか「頑張ったね」なんて、褒めてくれます。親が作ったものを特別視しないで、子供の純粋な気持ちで見てくれているのがうれしいです。

――日々時間を共有することで、喧嘩をすることもありますか? その際はどのように解決されているのでしょうか?
中川さん:昔は作品のことでも生活面でも、しょっちゅう喧嘩をしていましたが、子供が生まれてからは減りました。ですが、日々共にする中で、喧嘩をしたらその日のうちに決着をつけるようになりました。
亀山は、うやむやにはできないタイプなので。私は「もう、いいんじゃない」ってスルーしたくなることもありますが(笑い)。夫婦喧嘩の形も解決方法も、みんないろいろですよね。
◆tupera tupera(ツペラ ツペラ)

亀山達矢さんと中川敦子さんによるユニット。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、アートディレクションなど、さまざまな分野で幅広く活動している。絵本に『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)、『パンダ銭湯』(絵本館)など。『わくせいキャベジ動物図鑑』(アリス館)は第23回日本絵本賞大賞。2019年に第1回やなせたかし文化賞大賞を受賞。10月30日まで、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で神戸初の展覧会「つくろう!さがそう!やってみよう!tupera tuperaの工作ワンダーランド」を開催。「瀬戸内国際芸術祭2022」の秋会期(9月29日~11月6日)ではすごろくプロジェクトに参加。『しろくまのパンツ』の続編となる新作絵本『ねずみさんのパンツ』(ブロンズ新社)も発売中。https://www.tupera-tupera.com/
■豊岡市立美術館 特別展「tupera tupera 絵本原画展 ツペラツペラツアーズ」

取材・文/夏目かをる