健康・医療

「脂質中毒」は死を招く病を引き起こすリスクも 予防には「玄米」「和菓子」を活用し10日間の脂質絶ち

大きなドーナツを食べる人
気づかずにおちいっている可能性がある「脂質中毒」の怖さ(Ph/photoAC)
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知らず知らずのうちに脂質を過剰に摂取してしまい、気づいたら陥っているという「脂質中毒」に警鐘を鳴らすのは、『脂質中毒 脳は「油」を欲するようにできている』(アスコム)の著者で医学博士の岡部正さん。脂質中毒は、さまざまな病気を引き起こす可能性があると話す岡部さんに、抜け出す方法を教えてもらいました。

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脂質中毒が引き起こす動脈硬化と肥満

必要以上に脂質を摂ってしまい、脂質の摂取をやめたくてもやめられない脂質中毒は、死に至る病を招く可能性があるそうです。それは、脂質中毒がさまざまの病気のリスクをあげる動脈硬化と肥満を引き起こす原因になるからだと言います。

心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化

動脈は、酸素や栄養を含んだ血液を心臓から全身に送る、パイプのような役割を担う血管のこと。脂質を必要以上に摂り続けると、血液がドロドロになり、血液中の悪玉コレステロールが増加します。

「悪玉コレステロールが増えすぎると、血管の中にプラーク(粥腫〈じゅくしゅ〉)という酸化した悪玉コレステロールのコブができ、徐々に大きくなります。プラークが破れて血栓ができることもあります。血管に邪魔なコブや血栓があるので、血液の流れが悪くなります。この血液が流れにくい状態が動脈硬化です」(岡部さん・以下同)

ハートを胸に当てる白衣を着た女性
「脂質中毒」には死に至る病を引き起こす危険性も(Ph/photoAC)
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動脈硬化が進行すると、冠動脈(心臓を構成する筋肉に血液を送る動脈)が詰まりやすくなり、狭心症のリスクが高まります。「完全に詰まってふさがってしまうと、心臓が酸素不足になり心筋梗塞になります」と岡部さん。狭心症と心筋梗塞は、いずれも死因2位の心疾患です。

「脳の血管が詰まると、その先に血液が送られなくなるので、脳細胞が死んでしまいます。これは脳梗塞。もろくなった脳の細い血管が破れると脳出血。いずれも、死因4位の脳血管疾患です」

脂質の摂りすぎによる肥満でがんリスクが上昇

脂質はカロリーが高いため、摂りすぎは肥満の原因となります。そして、肥満はがんのリスクを高めるそうです。

「肥満の人のがん発生率が高いのは、顕著にデータに出ています。内臓脂肪が増えると、がん細胞の成長を抑えるアディポネクチンというホルモンの分泌量が現象し、がん細胞が成長しやすくなります。しかも、欧米系やアフリカ系の人に比べて、日本人などのアジア人は食べたあぶらが、内臓脂肪になりやすいという困った特徴もあります」

脂質中毒から抜け出すには10日間の脂質断ち

病気のリスクを抑えるためには、脂質を減らした食生活が重要です。そうとわかっていても無理にやめようとすると、反動で食べてしまうなど逆効果になることもあります。そこで、味を感じとる器官で舌にある味蕾(みらい)を変えるために、まず10日間だけ脂質を減らした食生活に挑戦してみましょう。

「実は、味蕾の細胞は10日ほどで生まれ変わるといわれています。つまり10日間だけ脂質を控えた生活を送れば、繊細な舌に生まれ変わるのです。繊細な舌を手に入れることができれば、脂質を摂る量が減るので、さらに舌は敏感になります」

そうはいっても10日間も我慢するのが大変な人へ、岡部さんがすすめるのが朝と夕方の玄米食。

雑穀米ごはん
「脂質中毒」を改善する食生活で医師がすすめるのは(Ph/photoAC)
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「玄米に含まれる『ガンマオリザノール』という成分が、脳内報酬系(おいしいものを食べるとなどで刺激されて快感を得る神経系)を回復させ、脂質の中毒症状を抑えてくれるということなのです。朝と夕方に玄米を茶碗に一杯食べると効果的なので、試してみてください」

最低ひと口5回噛むことで食べすぎを予防

繊細な舌を手に入れると同時に、食べ過ぎを防ぐことが脂質の過剰摂取や肥満の予防につながります。特に早食いは食べすぎてしまう習慣の1つです。満腹中枢が満腹の信号を出し始めるのは食事を始めてから約20分後のため、20分以内に食事を済ませてしまうと満腹感を得にくいのだと岡部さんは言います。

「裏を返せば、今より少しだけゆっくり食事をすれば、食べすぎを抑えることができるのです。私のクリニックでは『ひと口10回噛むこと』を推奨しています。それでも億劫ならば、ひと口5回でいいので、ゆっくりと噛んで味わってみてください」

腹八分目で適正な満腹感を

早食いを続けていると、満腹感が麻痺しやすくなり、食べすぎの原因になります。麻痺してしまった満腹感の改善には、腹八分目の習慣が効果的なのだそう。

「麻痺した満腹感を回復させるには、まずは10日、腹八分目を守ってみましょう。適正な食事量で脳を再教育すると、脳は徐々に正しい満腹感を思い出してきます」

口をふく女性
まずは10日間、腹八分目の食生活を(Ph/photoAC)
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どうしても甘いものが食べたいなら和菓子を

普段の食事の改善を頑張ることができても、甘いものだけはやめられない、という人もいるのではないでしょうか。特に洋菓子は、脂肪分が追加されていることでまろやかな甘みとなっているため、おいしく感じやすく、ついつい手が伸びてしまうのだそうです。そこで、甘いものを食べたいときは、洋菓子ではなく脂質の少ない和菓子を選ぶようにしましょう。

皿にのった大福
甘いものが我慢できない人は脂質の少ない和菓子を選んで(Ph/photoAC)
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「大福、ようかん、お団子、もなか……。これらの和菓子は炭水化物と砂糖が多く使われているので糖分は高めですが、コレステロールを上げるような脂質はほとんど含まれていません。体重管理の必要がなければ、洋菓子よりも和菓子を選ぶようにしましょう。

おのずと、砂糖+脂質の複合中毒になるリスクは下がります。ただし、和菓子であっても、かりんとうのように油を使っているものや、カステラのように卵をたっぷり使っているものはNGです」

◆教えてくれたのは:医学博士・岡部正さん

スーツを着た男性
医学博士の岡部正さん
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おかべ・ただし。岡部クリニック院長。慶應義塾大学医学部卒業。カナダ、カルガリー大学留学。亀田総合病院副院長を務めたのち、オーダーメイド医療を理想に、東京・銀座に岡部クリニックを設立。専門医として生活習慣病の予防と治療に長年携わる。日本病態栄養学会評議員、日本糖尿病学会認定専門医・指導医、日本肥満学会会員。著書に『脂質中毒 脳は「油」を欲するようにできている』(アスコム)など。

構成/新藤まつり

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