女性ホルモンの分泌が減少することで、体にさまざまな変化が起こる更年期。そのひとつの骨密度の低下は、進行すると骨粗しょう症につながってしまいます。そこで、骨に刺激を与えて骨の新陳代謝をはかり、若返りホルモンの分泌を促す「ひざたたき」を考案した整形外科医・美容皮膚科医の中村光伸さんに、骨粗しょう症のリスクや対策について教えてもらいました。
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骨折のリスクを高める骨粗しょう症の原因
骨を壊す「破骨細胞」と、骨をつくる「骨芽細胞」がバランスよく働き、新陳代謝を繰り返すことで、骨は生まれ変わっています。
「加齢やさまざまな原因によって、骨芽細胞よりも破骨細胞の働きが相対的に強くなってしまうことがあります。もともと時間がかかる骨をつくる作業が、骨を壊す作業に追いつけなくなるのです」(中村さん・以下同)
そうすると、骨の中がスカスカになり、80%以上が正常とされる骨密度が70%未満になると骨粗しょう症と診断されます。
骨粗しょう症の人はほんの少しの衝撃でも骨が折れてしまう可能性がありますが、骨粗しょう症の自覚症状はほとんどなく、外見から判断することはできません。転倒して骨折して、初めて気づくこともよくあるそうです。
「骨粗しょう症の人は骨が丈夫な人よりも治るまでに時間がかかり、治療しているうちにさらに骨が弱くなってしまいます。折れてからでは、もう手遅れなのです」
「がんよりも怖い」との指摘も
2021年に厚生省が調査した日本人の死因ランキングはがんが1位ですが、高齢者にとって「もしかするとがんより怖いのではないかと思われる疾患」が骨折だと中村さんはいいます。
「治療技術の進歩が著しいがんの場合、早期発見できれば治る可能性も高いですが、骨折は発症したら、病状によっては寝たきり生活を余儀なくされ、そのまま人生を終えることにもなりかねません」
骨折は、がんなどの病気とは違い、早期発見できるものではないというのも高齢者にとってのリスクとなります。さらに、「2019年国民生活基礎調査」では、高齢者の介護が必要になった原因の3位が骨折・転倒とされ、女性においては全体の16.5%が骨折・転倒にあたるのです。
閉経後に骨密度が下がる理由
骨粗しょう症の患者数は平均寿命の上昇とともに年々増加し、現在の推計患者数は約1300万人にものぼります。そのうち約8割が女性とされています。
骨量のピークは20代で、その後40代頃までは一定の骨量を維持し続けますが、その後は男女ともに徐々に骨量が減っていくといいます。特に女性の場合は、閉経によって卵巣の働きが低下し、女性ホルモンの分泌量が一気に減少することで、骨を壊すスピードが加速するのだそうです。
「女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、骨吸収をゆるやかにして骨からカルシウムが流出するのを抑制する働きがあります」
骨吸収とは、破骨細胞の働きで老朽化した骨からカルシウムが溶け出し、血液に入って全身に運ばれることを指します。通常4週間かかるというこの作業のスピードが早まると、新しい骨をつくる働きが追いつかなくなり、骨密度が下がってしまいます。
「閉経後10年で女性の骨密度は15〜20%も減少するといわれ、60代女性の多くが若い頃の80%前後まで骨量が低下します。そして骨粗しょう症、または、骨粗しょう症予備軍の仲間入りをしてしまうのです」
その後、65歳を過ぎると骨量の減少は次第にゆるやかになるそうですが、減少が止まることはないのだそうです。