日本で人気の韓国料理といえば、サムギョプサル(豚バラの焼肉)、タッカンマリ(水炊き)、ビビンバ(混ぜご飯)などが挙げられ、今や日本国内でも手軽に食べられるようになりました。そんな定番の韓国料理とは一線を画す個性的な韓国料理を紹介します。ライター・田名部知子さんが今年からソウルに住んで初めて食べ、この夏ドハマリしたという3つの個性派料理とは――?
グロテスクなビジュアルに怯むなかれ!「スンデ」
2013年以来の円安水準にもかかわらず、ソウルには週末ごとに多くの日本人観光客が訪れる人気ぶりで、コロナ明けを待ちわびていたリピーターや、コロナ禍のステイホームで韓国ドラマにハマったニューカマーまで、多様なソウル旅行を楽しんでいるようです。コロナ禍以前の韓国旅行といえば、お父さんはたいてい日本で留守番でしたが、今は家族の年齢構成を問わず、お父さんを含めた家族連れが増えました。むしろお父さんがガイドブックを片手に、家族をリードして街を歩く姿はとても微笑ましい光景です。
「食」は韓国旅行の大きな目的のひとつですが、その独特のビジュアルや味付けから、韓国人にとっては一般的な料理でも、日本人観光客には敬遠されがちなものも存在します。かくいう私も現在の留学前、「渡韓100回超えの韓国通ライター」として活動していたにも関わらず、食わず嫌いで手を出すことができなかった料理が3つありました。スンデ、チュオタン、コングクスです。ところがソウルに半年間住んでみて、いまではすっかりその味わいにハマってしまい、今年の夏はこの3つを飽きることなく延々と食べ続けていました。
中でも「スンデはその赤黒くて長く渦を巻いたグロテスクな外見から、日本人が手を出しにくい料理の代表格。老若男女から愛されている韓国を代表するローカルフードで、豚の血、もち米、タンミョン(韓国の春雨)、香味野菜などを混ぜ、豚の腸に詰めてゆでた屋台料理です。適当な大きさに切ってアミエビの塩辛やキムチと一緒に食べたり、豚肉やホルモン、野菜などと一緒に煮込んで作られる「スンデグク」というスープ料理が格別なのです。このスープは焼酎や白ご飯とも相性が良く、豚や牛の血を使用しているため鉄分の摂取ができ、たんぱく質、亜鉛、セレン、ビタミンなども豊富に含まれていて、特に更年期の女性に必要な栄養素がたっぷり含まれています。辛いスープで提供している店もありますが、こしょうの効いたマイルドな白濁スープにエゴマの粉を加えて楽しむのが私のお気に入りです。
韓国人の食べ方を見ていると、最初にスンデや豚肉、ホルモンを小皿(ご飯の容器の蓋だったりします)に取り出し、アミエビの塩辛や塩、コチュジャンなどをつけてスンデそのものの味を楽しみます。次にスープの中にご飯をどさっと入れて食べます。スンデと一緒に、アミエビの塩辛、キムチやカクテキを乗せてひと口で食べる瞬間はたまりません。
スンデは、新大久保や鶴橋などの韓国料理店でもおいしく食べることができます。以前、韓国食材専門店で冷凍スンデを買って家で食べてみたこともあるのですが、アンモニアのような強い臭いがして食べられませんでした。やはり韓国料理店で、出来たての味を食べていただきたいと思います。