芸能界や政界でも絶えない不倫騒動。なぜ人は不倫に走ってしまうのか。8月に『夫婦の壁』を上梓した人工知能研究者の黒川伊保子さんに、脳科学の観点から分析してもらいました。
脳科学上、夫婦の恋愛感情は情へと変わる
「脳科学的には、むしろ一夫一妻制の中に収まっていることが不思議なくらい(笑い)。
というのは、基本的にどの夫婦も相手に強く発情する期間は限られているから。脳に備わっている生殖の仕組みから、一定期間で恋愛感情はなくなるか、情へと変質していくようにできているのです。だって、最初に発情した相手に一生涯“ロックオン”してしまったら、『よりよい遺伝子配合の相手』を厳選できませんよね? 仮に、全ての恋の魔法が解けなかったら、人類の生殖は今ほどうまくいかず、恐らく21世紀を待たずに絶滅していたと思います」
オスとメスは浮気の理由が異なる
ただし、浮気の理由は男女で異なると言います。
「哺乳類の場合、メスの方は一定期間、特定のオスにロックオンすることが多い。その方が安全に子供を育てることができるからです。ただし期間が終わると、できるだけ多様に自分の遺伝子を残していきたいため、自分の遺伝子を持ってない人とつがいます。
一種類の遺伝子だと子供のバリエーションが豊富でないため、別の遺伝子の持ち主を求めていく。これが本能的な仕組みなのです。例えばザトウクジラは、妊娠すると、他のオスと恋に落ちると言われています。さらに、動物行動学を研究されている竹内久美子さんによると、哺乳類の場合、メスは浮気相手に、自分のパートナーよりも免疫力の強いオスを選ぶそうです。これはあくまでも動物の話ですが、人間としてもあり得るというのが私の考えです」
つまり、女性が不倫に走る場合、本能的に今のパートナーに対して「生殖の組み合わせではない」「今のパートナーより子孫を残したい相手が別にある」と判断している…ということに。
「とはいえ、今のパートナーと生殖する気がありながら他のいろんな人と渡り合うことは少ない。女性の場合、妊娠・出産・授乳まで含めて生殖行為なので、生殖行為が終わるまでは遺伝子をばら撒くことができないのです。女性の浮気は本気の場合が多いと言われるのもこの所以」
他方、オスの方は、生殖に自分の体を使わないため、雄にとっての生殖行為は基本的に性行為になるそう。
「そして、一晩だけの発情で遺伝子をばらまくことができる。こちらの浮気は、最初のつがいの相手を見捨てて別のつがいの相手を見つけるのではなく、ばらまきたいだけなので、生殖行為の時間単位を過ぎれば、元の場所に戻ってこられるんですね」
つまり、同じ哺乳類である人間の私たちが結婚後、パートナー以外の相手に恋をするのは自然現象といえるわけです。
「ただし、“その恋をどう処理するか”は人によって異なります。今結婚している、つまり社会的に“私達はセットです”というふうに公表していて、守るべき子供もいるならば、パートナーをいかに尊重して、誠実に夫婦関係性を保っていくか。この理性や品性と、発情(恋)の強さのせめぎ合いをどう乗り越えるかがカギになります」