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愛犬の“お尻の異変”を見逃さないで!獣医師が解説する「肛門腺」の役割と飼い主が気をつけるべきこと

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愛犬の“お尻の異変”を見逃さないで!獣医師が解説する「肛門腺」の役割と飼い主が気をつけるべきこと(Ph/イメージマート)
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犬や猫には肛門の左右に1つずつ、ニオイのする液体またはペーストが入った肛門腺という袋状の器官があります。人間にはないものなので、犬や猫を飼う人は肛門腺の役割やお手入れの方法を、知識として身に付けておきたいものです。獣医師の山本昌彦さんに聞きました。

ニオイのする液体をためておく左右一対の肛門腺

犬や猫の肛門の周りには、時計でいうと肛門を中心にして4時と8時の位置に肛門腺という器官があります。肛門腺は、ニオイのする液体またはペーストをためておいて、分泌する器官です。袋状の器官なので、肛門嚢(のう)とも呼ばれます。

山本さんによれば「肛門腺液は色やニオイや粘度に個体差がある」とのこと。

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肛門腺液は色やニオイや粘度に個体差がある(Ph/イメージマート)
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「黒っぽくてざりざりしていたり、黄色っぽくてクリーム状だったり、もっと液体っぽかったりします。一頭(一匹)ずつ異なるので、なわばりを主張したり、自分のニオイと相手のニオイをかぎ分けて認識したりするのに使うと考えられています。

ただし、人間からすると悪臭の類いです。個人的な感想ですが、誤って手についてしまったりするとその日一日、少し憂鬱になります……」(山本さん・以下同)

分泌液がたまると肛門腺が破裂することも

通常は、うんちをするときに肛門腺が圧迫されて、分泌液も一緒に出てきます。よって、特にお手入れが必要のない犬、猫も多いのだそうです。ただし、中には分泌液が自然に出にくく、肛門腺にたまりやすい子も。肛門腺液がたまりすぎると肛門腺は破裂することがあります。

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うんちをするときに肛門腺が圧迫されて、分泌液も一緒に出てくる(Ph/イメージマート)
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「お尻を気にする様子を見せたり、肛門付近の皮膚が破れて血や膿(うみ)が出たりして、飼い主さんが気づいて動物病院にかかるというケースが多いですね。動物病院では肛門腺の洗浄、消毒と抗生剤の内服または注射を行います。ご家庭でも肛門の周囲を清潔に保つ洗浄を続けていただくなどして経過を観察すると、ほとんどの場合は1~2か月もすれば治癒します 」

猫でも肛門腺破裂で病院を受診する例はある

一般に、犬のほうが猫よりも肛門腺液がたまりやすいと言われていますが、猫でも肛門腺破裂で病院を受診する例はあるといいます。日頃から愛犬や愛猫の様子に気を付けて、お尻を床や地面にこすりつけて歩いたり、しきりにお尻を舐めたりかゆそうにしたりする場合は、肛門腺液がたまっている可能性を疑いましょう。

「確率的には、大型犬より中型犬、小型犬のほうがたまりやすいですね。また、肥満の場合もたまりやすくなる。若い頃には肛門腺液がたまらなかった犬でも、加齢によって体型や分泌液の粘度などが変わって、たまりやすくなることはあるので、注意が必要です」

“肛門腺絞り”は左右いっぺんに下から

お尻歩きなど、肛門腺に液がたまっている様子が見られたら、肛門腺を人間の手で絞って液を外へ出すお手入れが必要です。

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肛門腺を人間の手で絞って液を外へ出すお手入れが必要(Ph/イメージマート)
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「『肛門腺絞り』として、プロがお手本を見せる動画などがネットに多数アップされているので、参考にしてみてください。言葉で説明しておくと、まずは犬を立たせること。そして尻尾をつかんで上に引っ張ります。こうすることで、肛門がよく見えますし、肛門腺が引っ張られて体表側へ近づきます。

これで準備完了です。肛門腺は左右いっぺんに絞ります。ティッシュペーパーやウェットティッシュなどで肛門を覆いつつ、利き手の親指と人差し指を、左右の肛門腺に押し当ててください。右利きの人なら左の肛門腺を親指で、右を人差し指でカバーする形ですね。ぎゅっとつまんで下から押し出すような感じにすると、肛門から液が出てきます。これを拭き取るのが、肛門腺絞りです」

うまくできそうにない場合は動物病院やペットサロンへ

ただし、尻尾をつかまれるのも、お尻を触られるのも、嫌がる子が多いのも事実です。うまくできそうにない場合は、飼い主さんとペットの関係性が悪くならないように、動物病院やペットサロンでお願いするのがいいでしょう。病気の治療とは違うので、ほとんどのペット保険で適用外となりますが、料金は1回500~800円程度のことが多いようです。

「頻度は個体差がありますが、2週間から1か月に1回で十分だと思います。サロンなら爪切りや耳掃除と一緒に頼んでもいいですね。動物病院へも肛門腺絞りだけのために行って構いません。気兼ねなく相談しましょう」

◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師・山本昌彦さん
獣医師・山本昌彦さん
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獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/

取材・文/赤坂麻実

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