子供のしつけも大変ですが、ペットのしつけも簡単ではありません。犬や猫の体のケアや病気の予防について、獣医師の先生に解説していただくシリーズ。
今回は少し趣向を変えて、多くの飼い主さんがお悩みだという愛犬のしつけの問題を取り上げます。
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悪いことをしたら厳しく叱るよりも無視して
うちの子はどうもよく吠えて困る、噛みグセがついてしまったようで心配――。一緒に暮らす愛犬について、こんな悩みをお持ちのかたは多いようです。
犬とは言葉でコミュニケーションが取れないので、吠えないでほしい、トイレはここでしてほしい、と思っても人間の思うようには動いてくれません。犬の行動原理を理解し、犬と人間が共にハッピーになる行動へ、上手に誘導していくことが大切です。
獣医師の山本昌彦さんは「犬は因果関係を理解する生き物」と語ります。
「犬は賢いので、この行動を取った、そのあとこういうことが起きた、という2つの点と点を線で結んで覚えます。因果関係を直感的になら理解できる動物です。ですから大切なことは、悪いこと(トイレ外での排泄、ムダ吠え、噛むなど)をしたときに、リアクションしないことです」(山本さん・以下同)
叱ると「飼い主が構ってくれる」という間違った認識を持つ
やめさせたい行動が出てしまったとき、実は、厳しく叱るよりも無視するほうが、犬には効果的なのだとか。
「犬は飼い主さんが一緒にいてくれて、構ってくれることを何よりも喜びます。飼い主さんは叱ったつもりでも、犬は、飼い主さんがこちらを見て何か言ってきた、注目してくれた、と捉えます。
ソファーを噛みちぎった愛犬を見て『うわ~、なんてことするんだよ!』などと嘆いたりしたら、犬は大喜び。『これをすると嫌なことが起きる』という因果関係を理解しないどころか、『これをすると飼い主さんが構ってくれる』という間違った認識を持ちます」
無視するときは徹底!中途半端は逆効果
「この“無視”が中途半端になってしまうと逆効果になる」と山本さんは指摘します。
「飼い主さんが受講するしつけ教室などでも、試しにやってもらうと、つい声がでてしまったり、片づけをしながらペットのほうに視線をやったりする人が多いです。そうなると犬は敏感ですから、注目されているのを感じて満足してしまいます」
意識を向けないぐらいの態度で
ただ言葉を発しないというだけではなくて、愛犬に意識をまったく向けない、毅然とした態度が大切といえそうです。
「悪いことをしたときは無視。愛犬がいる場所を離れてしまうのもいいでしょう。吠えたら飼い主さんがいなくなった、噛んだら飼い主さんがいなくなった、とワンちゃんの頭の中で点と点がつながればしめたものです」
いいことをしたときには思い切り褒めてあげる
しかし、無視ではなくて、叱るかたちで愛犬とコミュニケーションを取りたいという人もいることでしょう。その場合は、ご家族の間でルールを統一することが大切です。
「これをしたとき、パパは気にせず遊んでくれるのに、ママは低い声で何か言っている、という対応では犬は混乱します。お一人で飼われている場合も同じで、気分によって態度を変えないで、これをしたときは必ず叱るというルールを決めて守りましょう。
叱る言葉も『ダメ』なり『ノー』なり、家族で決まった言葉を使い、必ず低い声色を心掛けましょう」
褒めるときは高い声&ハイテンションで
悪いことをしたら無視か、ルールに基づいた叱責を。そして、逆に愛犬がいいことをしたときには、思い切り褒めてあげるとさらに効果的です。
「飼い主さんにも照れがあると思いますが、そこは思い切って声のトーンを上げて、テンション高く褒めちぎりましょう。『ごほうび』感を前面に出す。『トイレで用を足したら飼い主さんがめちゃくちゃ褒めてくれる』という新しい因果関係を、ワンちゃんに教えてあげてください」
立場の上下を明確にするため食事は必ず人間が先に
しつけにおいてもう1つ大事なことは、そもそもの立場の上下を明確にしておくことだそうです。飼い主さんや家族の皆さんが“上”、愛犬はどんなにかわいくても立場は“下”。普段からそう徹底しておくと、しつけも円滑に進むのだといいます。
「犬の祖先はオオカミだとする説が一般的で、基本的に群れのなかで行動する本能があると考えられます。犬は、一緒に暮らしている飼い主さんファミリーと自分は1つの群れだと思っているはずです。当然、群れにはリーダーがいて、その下にみんながいるものだと思っているのです」
犬の世界では群れの上位者から順に食事をする
このような犬たちの世界観を踏まえた上で、大事にしたいのが食事の順番です。
「犬より優位に立つために、愛犬より先に飼い主さん一家が食事をすることが望ましいですね。犬の世界では、群れの上位者から順に食事をするものです。
例えば、夕飯どきにたまたま忙しくしていて、先にワンちゃんにゴハンを与えて自分たちは後からゆっくり、と思うこともあるかもしれませんが、それは誤解を生むので避けましょう」
猫はしつけられないところが魅力
今回は犬のしつけについてうかがいました。ところで、猫に言うことを聞いてもらうとすれば、どのような方策が考えられるでしょうか。家で猫を飼っている山本先生のご意見は「猫は気分屋なので難しいです」とのことでした。
「そもそも、猫が人間の思うように動いてくれると期待しないほうがいいです。向こうから寄ってきたときに遊ぶ、仲良くする。それ以外に猫とのコミュニケーションの取り方はないと思ってください。うちでも子供たちが猫と遊ぼうとしますが、追いかけると猫は逃げます」
猫は一般に犬ほど体や牙などが大きくないので、しつけられないままでも人間に深刻な被害を与えることはありません。自由気ままさこそ猫の魅力と心得て、フラットに付き合うのがよさそうです。
教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん
獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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