寒い季節には毎年、ご高齢のかたが浴室で亡くなる事故が増えます。主な要因はいわゆるヒートショック。寒暖差の激しい環境を移動することで、血圧が大きく変動し、失神したり不整脈を起こしたりする現象です。実はこのヒートショック、犬や猫にも起こりうるといいます。そこで獣医師の山本昌彦さんに対策を聞きました。
ヒートショックによる死亡、国内で年間1.7万人
冬に暖房が効いたリビングなどから暖気の届かない脱衣所へ入って衣服を脱ぐと、寒さで血管が縮こまります。この状態で温かいお風呂に入ると、一気に血管が拡がって血圧が急激に低下。脳内の血流量が減って意識を失ったり、ひどい場合には心筋梗塞や脳卒中を引き起こしたりします。このような健康障害をヒートショックと呼びます。
ヒートショックは11月~4月に起きやすく、特に外気温が低くなる12月や1月にピークを迎えます。1月は8月の10倍ぐらいリスクが高まることが分かっています。
2011年には日本全国で年間およそ1万7000人が入浴時のヒートショックが原因で亡くなったという調査結果があります(東京都健康長寿医療センター研究所)。このうち高齢者は1万4000人。高齢者に多いのは、加齢によって血圧を正常に保つ機能が低下するためだと考えられます。
山本さんによれば、このようなヒートショックは「ペットとして飼われている犬や猫にも起きる可能性があります。私自身が診察したことはありませんが、症例を聞いたことがあります」とのことです。
猫はもちろん、犬も近年は特に都市部で屋内飼育の割合が高まっていて、例えば夜間の散歩など、温度差の大きい生活シーンが考えられます。犬や猫も長寿命化する傾向があるなか、シニア犬やシニア猫の飼い主さんは、冬場には特にヒートショック対策を意識しておきたいところです。
「高齢」「心臓に持病」「体力低下中」は高リスク
大きな温度ギャップが生まれるのは、屋内と屋外を行き来するときだけではありません。日が落ちて急激に気温が下がる時間帯に、飼い主が不在で暖房を入れられないとき、あるいは、トイレが寒い場所に置いてあって、ペットが普段いる場所はこたつの中やホットカーペットの上であるような場合も、温度差は大きいはずです。
では、ヒートショックのリスクが高いのは、具体的にどんな犬や猫でしょうか。
「基本的には人間と同じで、高齢の犬や猫です。自律神経が乱れがちだったり、高血圧だったりすると、ヒートショックを起こしやすいですね。また、循環器疾患がある場合もリスクが上がります」(山本さん・以下同)
犬の心臓疾患で多いのは僧房弁閉鎖不全症と拡張型心筋症です。僧房弁閉鎖不全症はヨークシャーテリア、チワワ、トイプードル、シーズー、マルチーズなど、小型犬で発症しやすい病気です。拡張型心筋症は大型犬に多く、ドーベルマン、グレート・デン、ボクサー、セント・バーナードなどで発症の確率がほかの犬種より高いとされています。
猫の心臓疾患は肥大型心筋症が多い
猫の心臓疾患で多いのは、以前にも取り上げたように肥大型心筋症(関連記事)。遺伝的素因が関与しているとみられ、メインクーンやラグドール、アメリカンショートヘア、ノルウェージャンフォレストキャット、プリティシュショートヘア、スコティッシュフォールドなどの罹患リスクが高いといいます。
「高齢でなくても、心臓病を患っていなくても、ほかの病気やケガなどで一時的に体力が落ちている子も、気を付けるべきだと思います」