
2万人超の臨床麻酔実績のある医師の富永喜代さんは「病気になりたくなければ、血流をよくしなさい」といいます。外科手術において輸血や体温コントロールなど血液を扱う、血流コントロールのプロである麻酔科医の富永さんがそう語る理由や、1分間でできる血流アップ体操のやり方について教えてもらいました。
血液の仕事は「配達」と「回収」
心臓の左心房から送り出された血液は、大動脈を経由して足先の毛細血管までたどりつき、静脈を通って、右心房、右心室へ戻ります。このように血液が体を一周するのにかかる時間が約1分間だそうです。
血液は体をめぐるとき、2つの大きな仕事をしています。
「血液は、あなたの体にある37兆個の細胞1つひとつに酸素と栄養を送り届け、老廃物を回収する。この配達と回収こそが『血流』です。するとあなたの細胞は年齢に関係なく若々しく働いてくれます」(富永さん・以下同)
富永さんは、血液が1分間に行う仕事の充実度の良し悪しを「血流がよくなる」「血流が悪くなる」と表現しています。

血流が悪くなると体の不調を引き起こす
コレステロールが血管にたまるなど、血流が悪くなることで、血液は配達と回収の仕事をうまくこなすことができなくなります。
「血液という『道路』の状態が悪いと、血液が運べる栄養と酸素の質も落ち、回収できる老廃物の量も減ってしまいます。配達も回収も、うまくいかなくなるんです」
そうして、それぞれの細胞に必要な酸素と栄養が足りなくなると、全身のあらゆる部位で不具合が生じはじめ、さらには各臓器に必要な血液が必要な分だけ送られなくなってしまうといいます。

「こうして、肩こりや背中のだるさ、むくみや手足のしびれなどの日常的な症状、そして高血圧や糖尿病、動脈硬化、心臓病などの慢性病を引き起こします。さらには、うつ、不眠症、更年期障害などの自律神経やホルモンの失調症。そしてがんなども、細胞への酸素と栄養の供給不足、すなわち血流の悪化が原因のひとつではないかと考えられています」
それでは、血流が悪くなるとどんな病気や症状のリスクが高まるのでしょうか。
ドロドロ血液の悪循環で合併症も引き起こす「糖尿病」
食べたものは本来、胃で分解されてブドウ糖になり、細胞が使う栄養として血液によって運ばれますが、食べ過ぎや生活習慣の乱れ、体の不調などによって、ブドウ糖が細胞に入りきらずに血液中に余る現象が起こります。たくさんのブドウ糖が血液中に余っている状態が血糖値が高いということです。このとき、血液はドロドロになっていて、さらに血流が悪くなる悪循環へとつながっていきます。この状態が悪化すると糖尿病になってしまいます。

「粘度の高い血液は、糖尿病によって細くなってしまった血管内をますますスムーズに流れにくくなり、毛細血管の中でよどんでしまいます。その結果、細胞に栄養が届かなくなり、臓器の調子が悪くなっていくわけです」
臓器の調子が悪くなることで起こる合併症には、失明につながるおそれのある「糖尿病性網膜症」、人工透析が必要な場合もある「糖尿病性腎症」、手足のしびれが最終的に壊疽(えそ)にもつながる「糖尿病性神経症」などがあります。
「糖尿病の3大合併症と呼ばれるこれらの症状も、もとをたどれば、すべて血液の流れが悪いことに行きつきます」
血管と心臓に障害をもたらす「高血圧」
血液が血管にかける圧力のことを血圧といい、この圧力が高い状態が高血圧と呼ばれます。高血圧も、血液のよどみと関係があると富永さん。
「血液が流れにくい状態になってしまうと、心臓は体のすみずみまで栄養を届けようと、いつも以上に頑張りはじめます。ところが、心臓から血液を血管に押し出していても、健康なときのようにうまく流れません。先に出た血液がよどんでいるところに、あとから出た血液が押し込まれ、『のろのろ渋滞』のように進んでいくわけです」
つまり、血管内は血液でぎゅうぎゅう詰めになっていて、血管に高い圧がかかることになります。なお、日本高血圧学会のガイドラインでは、最高血圧(心臓が収縮して血液を押し出す、血管に一番強い圧がかかる瞬間)は140mmHg以上、最低血圧(血液が送り出したあと、心臓が広がったときの血管の圧力が一番低くなるとき)は90mmHg以上で、どちらかが高くても高血圧と診断されます。

そんな高血圧の一番の問題は、動脈が痛みやすくなることだといいます。
「血管を流れる血液がよどみ、停滞する量が増えると圧力が高くなります。こうなると動脈につねに負荷がかかり、一部が傷つき、修復するうちに血管の壁が分厚くなっていきます。そこにコレステロールなどが加わると、動脈がやわらかさやしなやかさを失い、かたくなる。これが動脈硬化です」
また、心臓は高い圧力に負けじと血液を送り出し続け、心臓への負荷も高くなるため、高血圧になると血管と心臓両方に障害をもたらす。また、動脈硬化になると血管が血栓で詰まるリスクも高まり、血栓が詰まる場所によって、心筋梗塞、脳梗塞、腎梗塞などと呼ばれます。
血栓とは、血管の成分や血管壁がはがれたもの。血液中の脂質が増えすぎて血液に溶けきらない脂質は血管の内側にたまって山になります。山やその周辺は硬く、しなやかさを失ってもろくなり、血栓の原因となります。血液中の脂質が増え「脂質異常症」という状態になってしまうと要注意です。

脳への血流量減少が認知症の原因のひとつ
富永さんによると、認知症の原因のひとつに脳への血流量の低下があるそうです。
「健康な脳は、血液の供給がつねに一定に保たれているものです。脳には全血液の15%が集まっていますから、かなりの血流量です。しかし、70歳になると、15歳のときの血流と比べて30%ほど減少することがわかっています」
首や肩の血流をよくすることで、「脳へストレスなく栄養と酸素を送ることができ、結果的に、認知症を遠ざけることができる」のだと富永さんはいいます。
いすに座ったままできる「1分間血流アップ体操」
首や肩の血流にもアプローチできる、富永さん考案の「1分間血流アップ体操」。全5つの中から、ひとつを教えてもらいました。
<「肩スットン体操」のやり方>
いすに腰掛け、目を閉じて、手を握り、肩をグーっとあげるだけの体操です。肩を下ろして一気に体の力を抜き、手のひらを開いたときに、指先がビリビリしたら、血流がよくなった証拠です。

【1】いすに深く腰掛け、手は太ももの上で軽く握る。目をつぶって肩をグーっとあげる。このとき、鼻から息を吸う。
【2】目を閉じたまま、口から息を吐き、手を開いて肩をスットンと下ろす。このとき、手も開いて。これを3回くり返す。
腕ではなく、肩だけを上げ、腕はそれにつられているイメージで行うのがポイント。鼻から息を吸い、肩をグーっと上げきったところで、今度は息を口から吐き、一気に体の力を抜きましょう。
「手のひらを開くと、指先がビリビリしているはず、これは血流がよくなった証拠です!」
◆教えてくれた人:医師・富永喜代さん

とみなが・きよ。富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会認定麻酔科指導医。呼吸と循環、血液コントロールのスペシャリストとして、全身の病気と血流について豊富な知識を有する。聖隷浜松病院などで麻酔科医としてのキャリアを積み上げ、臨床麻酔実績は2万人超。2008年に愛媛県松山市で開業。YouTubeチャンネルは登録者数25万、オンラインサロンは会員数1万5000人を超え、SNS総フォロワー数は39万人。NHK『おはよう日本』、TBS『中居正広の金曜日のスマたちへ』などメディア出演も多数。著書に『血流がすべて 血流コントロールの名医が教える わずか1分でできる「すごい血流改善法」』(アスコム)など、著書累計95万部のベストセラー作家である。